ロンメンホイ
真加部はロンメイホイという犯罪組織の情報を得るため、ひとまずパクに調査させた。
ロンメンホイは漢字で書くと龍門会となり、中華系の犯罪組織だ。タイにはこういった中華系の犯罪グループが数多くある。ロンメイホイは中国から逃れて来て、この地で犯罪行為を行っている連中だ。日本の詐欺グループも日本から逃れてタイで犯罪行為を行っている。その図式はまったく同じだ。
中国本土で犯罪を行い。現地を追われてここタイに流れ着いたのだ。
そしてロンメイホイのバックには中国の巨大犯罪組織三合会がいる。三合会は古くからある犯罪組織で香港を中心に今も暗躍している。
電話越しにパクが話す。
『ロンメンホイは麻薬、今はメタンフェタミンやヘロインが主だな。そういったものの流通、販売。あとは売春、それとマネーロンダリングもやってる。組織としては中ぐらいになる。15人ぐらいの規模だな。送ったアジトの地図を見たか?』
「見た。ここはヤワラートか。チャイナタウンの繁華街だな」
『その地図のビルの3階だ』
「それでなぜ、ナパが連れていかれたんだろ?わかるか?」
『うーん、売春ということではないだろうな。それと彼女は金持ちでもない』
「わかってないのか?」
『もう少し時間をくれ。ただ、可能性としては三合会からの指示かもしれない』
「どういうことだ?」
『詳しいことはこれから調べる。ただ、どこかおかしいんだよ。ナパが犯罪行為をしていたということでもない。それでなんで誘拐されるのかが解せない。それに産科医も行方不明だし、そう考えると阿礼の関係で何かあるのかもしれない』
「ちょっと待て、だとすれば俺の素性に関してか?」
『わからん。とにかく、調査を続ける。それより乗り込むんだろ』
「ああ、銃もろもろは手配した」
『やつら、間違いなく武装しているぞ。気を付けろ』
「大丈夫だ」
『いや、阿礼は心配してない。相手を心配しているんだ。殺すなよ』
「大丈夫だ」
バンコク、チャイナタウン、ヤワラートの繁華街は夜になる。
中華街特有の中華料理の匂いがする。
真加部はナパ救出について作戦を練った。
まず現地でグロック17を入手した。ここで拳銃を手に入れるのはさほど難しいことではない。さらに射撃精度の確認で試し打ちも行っている。とにかく試し打ちは必要だ。なぜなら万が一だが、撃つ場合は正確に急所を外す必要があるのだ。真加部は人を殺すわけにはいかない。作戦がうまくいけば誰も殺さずにナパを救えるはずだ。
ヤワラートはタイの繁華街としては有名で、観光客も多い。夜になるとビルにある蛍光看板にはタイ語、中国語、英語など様々な文字が浮かんでいる。まさに異国情緒が漂う空間である。それは真加部にはなじみ深い光景だ。幼少期の記憶がよみがえってくる。
パクからはロンメイホイがいる3階の詳細図面ももらっている。
部屋数は大小合わせると7部屋もある。そしてナパが監禁されているとすれば、もっとも奥の小部屋だと思われる。今回の真加部の作戦だと、そこにいるかを確認する必要がある。
該当のビルの下から見上げる。ここにもネオンサインがきらめいている。下の階は風俗関係だ。そして3階がロンメイホイの事務所、さらにその上にはまた、何かのテナントが入っている。
今日の真加部の衣装は緑色のジャケットとシャツ、さらにはバイクのヘルメット、GRABのロゴが入ったバッグを持っている。これは拳銃と一緒に購入した。これでどこから見ても、タイでおなじみのグラブフードデリバリーの配達員である。
配達員よろしく、エレベータに乗りこんで3階まで来る。
廊下があり、そこから各部屋に通じている。図面で確認したが、ナパがいるだろう小部屋に行くにはリビング、20畳はあるだろう、構成員たちがたむろしている部屋を通る必要がある。
真加部は躊躇なく、元気にそのリビングの扉を開ける。
「グラブフードでーーーーす」
中にいた5、6名の、見るからにガラの悪そうな中国人が驚いて真加部を見る。彼らは思い思いにソファや豪華な椅子に座り、酒を片手にタイ美女をはべらせていた。
「誰か頼んだか」髭面で強面の男が周りに聞く。
ところが、あろうことか真加部はそれを無視して、へらへらとどんどん奥に走っていく。なんだこの女はと、男たちが慌ててそれを止めようとするが、真加部はまるで、はつかねずみが逃げ回るようにすり抜けて、奥の小部屋まで行く。
その部屋の前には、見守るかのように椅子に座ったチンピラ風情の若者がいたが、そいつが止めるのも無視して、すり抜けて扉を開ける。
ようやく構成員がほぼ全員で真加部を羽谷締めする。そして待機していたチンピラが真っ先に扉を閉める。通常の真加部ならここで大暴れなのだが、ここで騒ぎを起こすのは作戦にはない。
髭面男が怒鳴る。
「てめえ、何しやがる」
真加部は素直に謝る。
「すいません。ここだと思ったんです」
「ここじゃねえよ」
ゼイゼイと肩で息をしている。
「そうですか。えーとここはマッサージパーラー、ナナクリームですよね」
「馬鹿、ここじゃねえよ。ここのどこがマッサージパーラーだよ。下だ。下!」
「ああ、失礼しました。申し訳ない」
ぺこぺこしながら、そこを後にする。ごろつきどもが何か言いたそうだったが、素早くそこを後にする。争いごとは極力避けなければならない。
真加部はその小部屋でナパを発見していた。




