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私立探偵 真加部阿礼  作者: 春原 恵志
真加部阿礼の過去
63/130

公安部 橋爪慎吾

 江古田警察署の会議室である。

 6畳間ぐらいの広さでローテーブルがあり、ソファが対面に置いてある。

 西城と駒込が面会しているのは、西新宿署の爺さん刑事錦織ともう一人いる。

 所轄の刑事ではない。警視庁の公安部所属のバリバリの刑事だ。失礼、所轄の刑事たちがバリバリではないということではない。そこは誤解のないように断っておく。

 西城が受け取った名刺には、公安部外事第二課第4係とある。年齢は30歳半ばだろうか、わりとシャキッとした男である。西城から感じるだらしなさなどはみじんもない。

 錦織が話す。

「橋爪さんがグランドロイヤルホテルでの落下事件について話を聞きたいそうだ」

 橋爪がそれを受けて話をする。

「現場に立ち会った刑事に話を聞かせてもらってます。西新宿署での聞き取りは終わってます。話を聞くと江古田署も立ち会われたそうで、お二人にも状況の確認をさせてください」

 西城がそれを受けて「どうぞなんなりと聞いてください」と答える。

「亡くなられた方ですが、報告書によると所持品の中で身分を示すものが何もなかったとあります。お二人が現場を見て、何か気付いたようなことはなかったですか?」

 西城と駒込が顔を見合わせる。西城が答える。

「そうですね。所持品が何もないという点には違和感を覚えましたね。それと見た感じですが、とにかく現場は整然としていました」

「ホテルの室内にも入られたんですよね」

「そうです。部屋にも行きました」

 橋爪は鋭い目をして言う。

「では、ホテルで何か不審な人物を見るようなことは無かったですか?」

「といいますと?」

「ホテルの外でも中でもいいんですが、どこか普通と違うような人間です」

 再び西城と駒込が顔を見合わせる。この男が聞いている真意が見えない。西城が思い出すように話をする。

「あの夜はホテルの外には野次馬が大勢いましたよ。ただ、不審な人物は見なかったと思います」

 駒込が追従する。

「そうです。ホテルの中でも深夜ということもあり、宿泊客にも会わなかったですよ」

「一人もですか?」

 再び西城と駒込がお見合いする。駒込は首を振る。

「記憶も定かではないですが、会ってないと思います」

「そうですか」橋爪は仕方が無いなという顔をする。「実は不自然な事実が見つかっています」

「不自然?」

「防犯カメラ画像の解析で分かったんですが、15階の1503号室前の廊下の映像です。死亡した人物は23時30分に入室しています」

 死亡した時刻は確か23時40分だった。つまりは入室してすぐに飛び降りたことになる。

「そして部屋から出てきた人物はいない」

 西城は何を当たり前のことを言っているんだろうと思う。

「そこが妙なんですよ」

「どういうことです?」

「実はそれよりも前、正確には18時30分に部屋に入った人物がいました。防犯カメラ画像で確認しています」

 西城と駒込は話を興味深く聞いている。

「ところが、その人物は以降、部屋から出ていない」

 西城と駒込が同時にあっと声を上げる。

「どうしました?」橋爪がその様子に反応する。

「いえ、ひょっとしてその人物は女ですか?」

「女?いえ、そうではないと思いますよ。これです」

 橋爪が写真を出す。防犯カメラ画像で部屋に入る人物を捉えている。ホテルの従業員の制服を着ており、さらにキャップをかぶっているので顔がよくわからない。

「この人物が入室したのは確かなのですが、部屋を出た記録が見つからない。さらにホテル側でもこういった人物に心当たりが無いとのことです」

 駒込が言う。

「つまりはこの人物が部屋で待っていた。そして部屋からは出ていないということですか」

「そうです。それで皆さんに聞いているところです。部屋から出た、もしくはホテル内でこういった人物を見なかったのかとね」

「捜査員に紛れて出て行ったということないんですか?」

「その点は何度も確認しました。防犯カメラでも聞き取りからも、そういった事実は確認されていません」

 西城がまじめな顔で言う。

「じゃあ、窓から出たんですかね」

 橋爪は肯定も否定もしないが、どこか疑わしいと言った顔になる。

「できますかね。15階ですよ」

 西城たちはあえて何も言わない。真加部なら出来るが、彼女がやるはずもないのだ。

「それで、おそらく帳場(捜査会議)が立つことになります」

「事件性が高いということですね」

 ここで錦織が言う。

「西新宿署に立つんだが、江古田署も協力してもらうことになるな」

 西城たちはうなずく。橋爪が話す。

「帳場が立つと話をする必要があると思うので、あらかじめ言っておきます。私の所属は外事課第4係、いわゆる中国班です」

 中国のスパイ活動などを防止する部署だ。これまでも産業スパイなどが日本企業からの情報を収集しようとする事件が起きている。

「死亡したWAN FANの本名まではわかっていないんですが、我々に情報提供をすることになっていました」

「情報提供ですか」

「そうです。中国側で何か大きな動きがあるそうなんです。それで我々と接触したいと言ってきました。亡くなった翌日に話を聞けるはずでした」

 西城たちはあまりに大きな話に呆然とする。

「詳細はほとんどわかっていませんが、ワンが一言だけ話してくれたのは、彼らは『神』を探していると言っていました」

「神?」

「英語で言うとゴッドですか?」

「そういうことです」

 あまりに途方もない話に西城たちの口は開いたままになった。

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