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私立探偵 真加部阿礼  作者: 春原 恵志
アルラアナ呪われたもの
58/130

子ども

 文伍たちは再びカンダハルまで戻る。

 アセット(情報提供者)との面会は夜だ。まだ、時間もあるので、宿(と言ってもコンクリート製の単なる学校のような施設だが)に戻って、しばし別行動を取る。

 今回、文伍とジェームスの肩書は日本のNGOだ。戦後、日本が農業指導を行うという目的で先行調査という位置づけになる。前線に乗り込んでいるということでいささか無理があるが、実際、戦前であれば、農業指導や日本からの支援は行われていた。ジェームスの役割は現地通訳である。二人の服装も作業服で、ラフなものを着ている。


 文伍が一人で市内を散策する。

 この地の住民は戦争には慣れているのか、こんな戦禍においても日常生活を普通におこなっている。文伍はそのしたたかさに驚く。ただ、女性は少ないし、いてもヒジャブ(頭髪覆い)やニカブ(顔面ベール)を付けて顔を隠している。

 市場は基本、路上販売が主のようだ。店舗もあるが数は少ない。野菜や果物、日用品の類を簡易スタンドや地面に直に並べて売っている。

 日本人は珍しいのか、少し奇異な目を向けられる。

 何を買うわけでもないが、しばらく散策する。

 米軍にも数回、すれ違ったが、住民はそれなりに距離を置いて接しているように見える。やはり彼らにとってアメリカ人は隣人ではないようだ。

 しばらく歩いていると、文伍は不思議なものを見た。

 そこにいたのは日本人の子供だ。文伍は目を疑う。

 子どもは小学生ぐらいでそれも低学年に見える。ただ、短髪でやせており、男女の区別はつかない。ただ、その顔はどうしても日本人に見える。何か買い物をしたのか、背中に大きなリュックを担いでいる。

 文伍はその子に近づいて行く。

 子どもがそれに気づいて文伍を見る。

 やはり、日本人だと思った。

「日本人か?」思わず、日本語で聞く。

 その子供はありえない行動を取る。首を横に振ったのだ。もしかして理解しているのか?

 続いて英語で聞く。「アフガニスタン人か?」

 またもや信じられないことを言う。「ノーイングリッシュ」というと手を出して拒絶のポーズを取る。まあ、この地の人間が英語を嫌うのはわかるが、その行動が妙にかわいらしい。

 文伍は仕方なく、日本語を使う。

「おじさん、パシュトー語は話せないんだよ」

 するとその子供はパシュトー語で何か言う。おそらく大丈夫だよと言った気がした。

「ずいぶん、大きな荷物だね。何を持ってるんだ?」

 子どもが荷物の中身を見せる。たくさんの食料が入っている。なるほど、家族に頼まれて買い出しに来たのか。

 子どもは忙しいからとでも言ったのか、そこから去ろうとする。

 なんとなく、名残惜しいと思った文伍は子供に「待つように」と言う。

 子どもは不思議そうな顔でじっと待つ。

 文伍がかばんの中を探す。ちょうど板チョコがあった。文伍は非常食としてこういうお菓子を持っていた。

「これ、持って行きな」

 子どもはそれを見ると、菓子だと気付いたのか素直に受け取る。

 そして何故か文伍は確信する。

「女の子か」

 子どもは少し怪訝な顔をするが、そのままそこから立ち去ろうとする。

 そして、5mぐらい離れて急に振り返ると、またもやありえない言葉を言う。

「お・と・こ」

挿絵(By みてみん)

 そう言うと走り去ってしまった。

 文伍は夢でも見たのかとしばらくそこに佇んでいた。

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