マカアレ
翌日、駒込は一人で真加部探偵社を訪ねる。
西城から一応、確認の意味で行けと言われたのだ。
チャイムを鳴らすも誰も出てこない。はて、留守かなと思ってドアノブに手を掛けると開いていた。
「すみません。江古田署の駒込ですが」中からガサゴソと音がする。「真加部さんいますか?」
奥の部屋から、いないよ、と蚊の鳴くような声がする。
駒込はどこか怪しいと思い。構わず中に入って、奥の部屋まで来る。
「誰か、いますか?」
扉を開けると、パクが慌ててドアを閉めてしまった。パクさんがいるのか。
仕方なく、外から声を掛ける。
「パクさん、真加部さんはいないんですか?」
すると再びガサゴソと音がして、扉が開くと、パクは素早く駒込にノートパソコンを渡し、再びドアを閉めてしまった。
駒込は何事かと思うが、パソコンの画面には、何かアニメキャラのようなものが動いている。どこか真加部を思わせるキャラクターだ。
『何のようだ?』いきなりそのキャラがしゃべりだす。
駒込はびっくりするが、どうやらこれで会話しろと言うことなのだと気付く。
「真加部さんはどこですか?」
キャラがしゃべる。上に名前の表記があり、マカアレとある。なるほど、まかべあれいでマカアレか。
『今、いないんだ』
「いつごろ帰ってきますか?」
『うーん、多分、10日、いや、もっとかかるかな』
「どちらに行かれてるんですか?」
『タイだ』
「タイ?仕事ですか?」
『仕事じゃない』
仕事でもないのにタイまで、はて、遊びに行ったのだろうか。
「どういうことですか?」
パクは考えているのか、返事がない。駒込は埒が明かないと本題について聞いてみる。
「昨日、真加部さんはどこにいましたか?」
『昨日はタイに飛び立ったぞ』
「そうですか、何時ごろですか?」
『昼前だ』
「なるほど」となると真加部が絡んではいないということだ。
『何かあったのか?』
ええ、実はと、昨日の自殺者の話をする。
『それは真加部じゃないな。阿礼はもう殺人はしないんだ』
前にも聞いたことがある。駒込はその話が気になっていた。
「真加部さんに昔、何かあったんですか?」
再びパクは言いよどむ。そして言う。『聞きたいか?』
「ええ、是非」
『どうしようかな』マカアレがなんかもじもじしている。
「お願いしますよ」面白そうなので、駒込が哀願してみる。
部屋の中からガサゴソと音が聞こえる。また、何か出してくるのだろうか。
そうしてしばらく待つと、扉が開いて何かの分厚いファイルを出してきた。またもや扉が閉まる。
『それは真加部文伍の報告書だ。まあ、日記みたいなものだ』
ファイルは5㎝ぐらいの厚さで、ホルダーにファイリングされており、中には日誌のような報告書が残されていた。日付と行動記録があり、文伍が残したもののようだ。
『文伍がブラックスワン時代に記録していたものだ。その2010年の部分を見てくれ』
画面上ではマカアレがそう言いながら、駒込を指さしている。
駒込がファイルをめくって、2010年のところを見る。
『その当時、文伍は53歳だ。ブラックスワンの特殊工作部隊にいた。2010年の3月、彼はアフガニスタンに派遣された』
駒込は報告書を見ながら確認する。読みながら不明点があると詳細はマカアレが説明してくれた。
聞いたのは次のような話だった




