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私立探偵 真加部阿礼  作者: 春原 恵志
アルラアナ呪われたもの
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グランドロイヤルホテル

真加部阿礼の第7章になります。いよいよ阿礼の過去が明らかになってきます。そして新たな事件が起きます。さてどうなるのでしょうか。いよいよ佳境になってきました。

深夜零時、春先とはいえ、肌寒くなる時間。大通り沿いの高層ホテルの客室の灯りは半分程度になっている。

 先程からのサイレン音が周辺住民の興味を掻き立てている。野次馬がぞろぞろと集まってきている。

 ホテル前のロープによる非常線の中では、警察の鑑識たちが忙しそうに周囲を調べている。

 西城が欠伸をしながら、そこに立っている。隣の駒込が西城に聞く。

「ここは江古田署の管轄じゃないですよね。西新宿署ですよ」

 欠伸をかみ殺すように西城が言う。

「仕方ないだろ、人手が足りないんだよ」

 駒込は15階建てのビルを見あげる。

「よくこんな高さから飛び降りましたね」

 非常線の中央部にはブルーシートが掛けられており、シート脇から染みのようなものが見えている。

「そこまでして死にたかったということだな」

「西城!」

 呼ばれた先に古参の刑事がいた。50歳の西城よりも年上なので相当な歳だろう。

「何でしょうか」

 眼鏡で白髪頭の爺さん刑事が西城に話す。

「目撃者がいないか確認してくれ」

「わかりました」

 西城と駒込が周囲にいた人間に確認を取っていく。

 何人かに聞いていく内に、明らかに酔っぱらい風の中年男性が手を上げた。

 駒込が聞きにいく。

「目撃されたんですか?」

 男はとろんとした目で、ろれつもあやしい。

「見たって言うか、声を聞いたな」

 吐く息が酒臭い、明らかに酔っぱらいだ。

「声ですか?」

「その先の赤ちょうちんで一杯やってたんだよ」

「はあ」こんな酔っぱらいに聞いて大丈夫かと思う。事実、西城はこっちに来ない。

「そしたら、悲鳴というか叫び声がして、その後、ドスンだよ」

「どんな声でした」

「わーとかそんな感じだったかな」

 自殺しながら声を上げたということか。そういうものなのだろうか、経験がないのでわからない。

 駒込は一応、証言した酔っぱらいの名前と連絡先を書き留める。

 西城のところに戻ると、彼も何人かから話を聞いたようだ。

「西城さん、ガイシャは悲鳴をあげたらしいです」

「そうだな。俺もそう聞いたよ」

「自殺じゃないんですかね」

 西城は少し難しそうな顔をする。そして先ほど指示を受けた古参刑事のところに行く。駒込も続く。

「錦織さん、こいつはうちの駒込です」

 駒込が挨拶する。

「西新宿署の錦織だ。で、悲鳴を聞いたっていうんだな」

「そうです」

「まあ、自殺者でもいざ飛び降りとなると声を上げることもあるからな。自殺だと思うんだが、飛び降りた部屋を見て見るか?」

 西城が答える。「お願いします」

 グランドロイヤルホテルは西新宿にある高級の部類に入るホテルだ。このところのインバウンド景気で、値上げしたようでここだと3万円代になる。

 3人で15階に上がる。

「最上階ですか」

 錦織が少しうんざりしたような顔で答える。

「そうだな」

 死体を思い出したのだろうか。

 該当する部屋は1503号室。シングルルームのようだ。

 室内にも鑑識がいて、捜査していた。錦織が現場の鑑識に入室可能か聞く。

 許可が下り3人が室内に入る。

 錦織が鑑識に聞く。「ロックされてたんだよな」

「そうです」

 駒込がドアを確認する。最新のカード式の鍵が付いた扉だ。

 部屋には荒らされたような跡はなく。宿泊者の荷物がそのままになっていた。

 西城が聞く。

「身元はわかったんですか?」

「カード名義だとWAN FANとなっている」

「中国人ですか?」

「どうかな。ただ、身元を示すものが何も残っていない」

「え、残ってないって、パスポートがあるでしょう?」

 錦織が鑑識に確認する。首を振っている。

「見つかってないらしい」

 最近のホテルはフロントでチェックインがないものが増えてきている。ここもそうで、カードがあればネットで宿泊可能だ。

「カードキーはあったんですか?」

「あったよ。ドア横についていた」

「誰かがはいったとか、ドアを開けた形跡はあったんですかね」

「フロントの履歴だと開閉された形跡は無かった。防犯カメラの解析は、今やってるところだ」

「じゃあ、自殺ですか」

 西城が外を見る。確かに窓が半分開いている。ただ、人一人がぎりぎり通れるぐらいの幅だ。

 駒込がその窓から外をのぞく。下までは相当な高さで高所恐怖症の駒込は足がすくむ。

 さらに上を見る。その上は屋上のようだ。

「まさかな」

 駒込のつぶやきに錦織が反応する。

「何だ?」

「いや、ありえないとは思いますが、屋上からここに忍び込めるかなと思ったんです。無理ですね」

「無理だ。もし屋上から降りられたとしても、ここから屋上には行けないだろ。それこそスーパーマンみたいなやつしか無理だ」

 西城と駒込は同じことを考えたようで顔を見合わせる。ただ、何も言わない。

 こんなことができるとすれば、あいつしかいないが、いくらなんでも殺人仕事は受けないだろう。

 西城が錦織に質問する。

「他に身元を示すものはなかったんですか?」

「そうなんだ。そこが不思議なんだ。カードもないし、身分証明書の類はまったく見当たらないんだ」

「どういうことでしょうね」

 錦織は両手を広げる。お手上げのポーズだろうか、それが実に様にならない。爺さんがやるポーズじゃないだろ、とは突っ込めない。


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