ラフストーンコンテスト
コンテスト当日。最後の朝練のために、メンバーたちと浜辺らスタッフがスタジオに集まっていた。
ゆかりは昨晩、病院で手当てを受けたが、しばらくは足を動かせないという。医師からは安静を義務付けられた。意気消沈したメンバーたちと、苦虫をかみつぶしたような浜辺の顔が対照的だ。
石堂が決着を付けるかのように言う。
「あきらめましょう」
メンバーたちが誰ともなく言う。「でも」
あきらめきれない、そういった思いが伝わる。
浜辺も仕方なく話す。
「ナードは5人揃ってないと、そのエンターテイメント性が発揮できないユニットだから、確かにそれしかないか」
メンバーたちはゆかりを含め、諦めきれない。
行きがかり上、ここに来ていた真加部が何とは無しに言う。
「5人で踊って歌えればいいのか?」
浜辺は怪訝そうな顔で「そうだけど、アルチメイトが出来ないから」と言う。
「俺が代わりにやろうか」
石堂が言う。「いやいや、無理ですよ。いかに踊りの達人だって、すぐに出来るもんじゃない」
「そうだよ。この子たちも出来るようになるまでに、1年はかかったんだから」
「そういうものなのか、でもできる気がするぞ。ここで踊ったり歌ったりしたのを見てたからな」
浜辺は笑う。「じゃあ、やってみたら、どのくらい難しいか、わかるから」
ナードのメンバーやゆかりも笑顔だ。気晴らしにはいいかもしれない。
浜辺がコンサート曲をセッティングする。
そしてナードのメンバーに交じって真加部が待機し、アルチメイトの待機ポーズを取る。そのポーズだけは様になっている。
そうして、いざ、音楽が流れ出す。
最初は笑っていた浜辺が一瞬で固まる。石堂も目を見張る。ナードのメンバーも驚きと共にダンスと唄を歌う。真加部は完璧にアルチメイトをコピーしていた。
いよいよラフストーンコンテストが始まった。
場所はお台場のコンサートホールだ。2千名が入場可能なホールがすでに満杯になっている。さらにネットと有料動画サイトで公開生放送もされている。
前席には10名の審査員が点数をつけるべく待機していた。
そして、司会者が登場し、コンテストが始まる。全部で10組の地下アイドルたちが次々と出場していく。
さすがにこの決勝の舞台に立つだけあって、それぞれが趣向を凝らし、実力もかなりのものだ。出場アイドルごとにファンも大勢いる。観客席からは応援の掛け声が絶えない。
舞台脇にナードが待機する。ゆかりは気が気でない。自分が出られればそれが一番なのだが、今日は代理の真加部だ。
そしていよいよトリである。優勝候補のナードが登場する。
司会者がメモを見て慌てている。関係者に確認を取ってから紹介を始める。
「えーと、次はいよいよ最後のユニット、ナードの登場なのですが、ここで皆さんにお知らせがあります」
観客がどよめく。何事かといった雰囲気だ。ナードは確かにお騒がせユニットだ。また、何かやらかしたのかという声だ。
「アルチメイトが急遽、急病のため、代理のメンバーが出ることになりました」
観客から一斉に悲鳴に近い声が上がる。アルチメイトはナードの重要メンバーなのだ。代理が出るとはどういうことだ。
「代理はピアレスです」
司会者が手を上げると、上手からナードのメンバーが出てくる。基本、ナードは背が高い。170㎝はある。その中にちっこい真加部こと、ピアレスがアイドル衣装で参加している。
観客からは笑いが上がる。なんだ、あのちびっこは。
舞台が暗転し、そして曲が始まる。
始まると同時に観客は度肝を抜かれる。
真加部が踊りだすと、観客から悲鳴に近い声が漏れる。
なんだ、あいつは。アルチメイトよりもすごい。まさにアルチメイトより上のピアレス、比類なきものだ。
真加部のダンスは完璧だった。いや、それどころか、アルチメイトよりも数倍、切れが増している。元々、ナードは5人そろってのダンスではない。個性をいかに出すかと言ったダンスなのだ。よって真加部のダンスは本家アルチメイトよりも数倍、キレッキレのダンスとなる。そして5人のシンクロ率は変わらない。これはすごいことだ。
驚いたことに歌も真加部は完璧にこなしていく。そして歌声に関してもけっして引けを取らない、いや、むしろ上かもしれない。
そして真加部の跳躍力だ。まるでサーカスじゃないかと言うぐらいの高さまで飛んでいく。課題曲の2曲が終わるころには、観客全員がナードの、いやピアレスのとりこになっていた。
そして結果発表。
無事、ナードは優勝することができた。
舞台脇でナードのメンバー、松葉杖を付いたアルチメイトも一緒に抱き合って喜んでいる。
興奮した浜辺が真加部のところに来て言う。
「ほんとにありがとう。それでね。貴方、デビューする気無い?」
真加部が真顔で言う。
「人前はもうこりごりだ」




