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私立探偵 真加部阿礼  作者: 春原 恵志
地下アイドル
53/130

ラフストーンコンテスト

 コンテスト当日。最後の朝練のために、メンバーたちと浜辺らスタッフがスタジオに集まっていた。

 ゆかりは昨晩、病院で手当てを受けたが、しばらくは足を動かせないという。医師からは安静を義務付けられた。意気消沈したメンバーたちと、苦虫をかみつぶしたような浜辺の顔が対照的だ。

 石堂が決着を付けるかのように言う。

「あきらめましょう」

 メンバーたちが誰ともなく言う。「でも」

 あきらめきれない、そういった思いが伝わる。

 浜辺も仕方なく話す。

「ナードは5人揃ってないと、そのエンターテイメント性が発揮できないユニットだから、確かにそれしかないか」

 メンバーたちはゆかりを含め、諦めきれない。

 行きがかり上、ここに来ていた真加部が何とは無しに言う。

「5人で踊って歌えればいいのか?」

 浜辺は怪訝そうな顔で「そうだけど、アルチメイトが出来ないから」と言う。

「俺が代わりにやろうか」

 石堂が言う。「いやいや、無理ですよ。いかに踊りの達人だって、すぐに出来るもんじゃない」

「そうだよ。この子たちも出来るようになるまでに、1年はかかったんだから」

「そういうものなのか、でもできる気がするぞ。ここで踊ったり歌ったりしたのを見てたからな」

 浜辺は笑う。「じゃあ、やってみたら、どのくらい難しいか、わかるから」

 ナードのメンバーやゆかりも笑顔だ。気晴らしにはいいかもしれない。

 浜辺がコンサート曲をセッティングする。

 そしてナードのメンバーに交じって真加部が待機し、アルチメイトの待機ポーズを取る。そのポーズだけは様になっている。

 そうして、いざ、音楽が流れ出す。

 最初は笑っていた浜辺が一瞬で固まる。石堂も目を見張る。ナードのメンバーも驚きと共にダンスと唄を歌う。真加部は完璧にアルチメイトをコピーしていた。


 いよいよラフストーンコンテストが始まった。

 場所はお台場のコンサートホールだ。2千名が入場可能なホールがすでに満杯になっている。さらにネットと有料動画サイトで公開生放送もされている。

 前席には10名の審査員が点数をつけるべく待機していた。

 そして、司会者が登場し、コンテストが始まる。全部で10組の地下アイドルたちが次々と出場していく。

 さすがにこの決勝の舞台に立つだけあって、それぞれが趣向を凝らし、実力もかなりのものだ。出場アイドルごとにファンも大勢いる。観客席からは応援の掛け声が絶えない。

 舞台脇にナードが待機する。ゆかりは気が気でない。自分が出られればそれが一番なのだが、今日は代理の真加部だ。

 そしていよいよトリである。優勝候補のナードが登場する。

 司会者がメモを見て慌てている。関係者に確認を取ってから紹介を始める。

「えーと、次はいよいよ最後のユニット、ナードの登場なのですが、ここで皆さんにお知らせがあります」

 観客がどよめく。何事かといった雰囲気だ。ナードは確かにお騒がせユニットだ。また、何かやらかしたのかという声だ。

「アルチメイトが急遽、急病のため、代理のメンバーが出ることになりました」

 観客から一斉に悲鳴に近い声が上がる。アルチメイトはナードの重要メンバーなのだ。代理が出るとはどういうことだ。

「代理はピアレスです」

 司会者が手を上げると、上手からナードのメンバーが出てくる。基本、ナードは背が高い。170㎝はある。その中にちっこい真加部こと、ピアレスがアイドル衣装で参加している。

 観客からは笑いが上がる。なんだ、あのちびっこは。

 舞台が暗転し、そして曲が始まる。

 始まると同時に観客は度肝を抜かれる。

 真加部が踊りだすと、観客から悲鳴に近い声が漏れる。

 なんだ、あいつは。アルチメイトよりもすごい。まさにアルチメイトより上のピアレス、比類なきものだ。

 真加部のダンスは完璧だった。いや、それどころか、アルチメイトよりも数倍、切れが増している。元々、ナードは5人そろってのダンスではない。個性をいかに出すかと言ったダンスなのだ。よって真加部のダンスは本家アルチメイトよりも数倍、キレッキレのダンスとなる。そして5人のシンクロ率は変わらない。これはすごいことだ。

 驚いたことに歌も真加部は完璧にこなしていく。そして歌声に関してもけっして引けを取らない、いや、むしろ上かもしれない。

 そして真加部の跳躍力だ。まるでサーカスじゃないかと言うぐらいの高さまで飛んでいく。課題曲の2曲が終わるころには、観客全員がナードの、いやピアレスのとりこになっていた。

 そして結果発表。

 無事、ナードは優勝することができた。


 舞台脇でナードのメンバー、松葉杖を付いたアルチメイトも一緒に抱き合って喜んでいる。

 興奮した浜辺が真加部のところに来て言う。

「ほんとにありがとう。それでね。貴方、デビューする気無い?」

 真加部が真顔で言う。

「人前はもうこりごりだ」

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