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私立探偵 真加部阿礼  作者: 春原 恵志
地下アイドル
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謎解き

 ゆかりは疲労困憊の様子だったが、真加部は探偵社に連れて行く。

 ゆかりもいったい何が起きたのかを知りたいのだ。行く前にすべてがわかったと真加部が言った。それでゆかりは質問もせずにここまでついてきた。

 探偵社の扉を開けるとそこには石堂がいた。

 ゆかりは目をむいて怒りをあらわにする。掴みかからんばかりの勢いだ。真加部がそれを制する。

 石堂は探偵社の床に、頭をこすり付けんばかりに土下座して平謝りする。

「申し訳ない」

 ゆかりは顔を真っ赤にして、石堂に怒っている。

「あんたが言う場所に行ったら、あいつらに待ち伏せされた」

 真加部がうなずいて、二人に言う。

「今回の事件について俺から話をしよう。謝罪やこれからのことはその後だ」

 ゆかりは憤ったままだが、仕方なく従う。石堂はがっくりと首を垂れていた。

 二人をソファに座らせる。

「今回の事件は複雑だったんだ」

 ゆかりと石堂は、どういうことだろうと真剣な顔になる。

「まずは順番に話をしよう。最初は脅迫状だ。あれが来たのは10日前だ。俺は木次谷家付近の防犯カメラを解析した。ところが不思議なことに脅迫状を出した人物が特定できない」

 ゆかりが言う。「出したのは石堂でしょ」

 石堂は困惑した顔をするが、否定も肯定もしない。真加部が続ける。

「切手のない手紙を、配達もせずにポストに入れられないだろ」

「どういうこと」

「つまり、脅迫状はポストには無かった。これを出したのはあんたの母親だよ」

 ゆかりは愕然とする。

「お母さんは、お前の芸能界入りに反対していたんじゃないのか?」

「それはそうだけど」

「一度、ちゃんと話をした方がいい。お前の気持ちを嘘偽りなく素直に話せ。お母さんは心配なんだよ。お前がどんどん勝手に進んで行って、結局は失敗してボロボロになるんじゃないかってな」

「そんなことない」

「だから、そういう話をちゃんとしろ。聞けば全く話をしてないそうじゃないか」

 ゆかりは口ごもる。

「それでお母さんにとっては、降って湧いたようなコンテストだ。もし優勝でもしたらそれこそ芸能界デビューになる。お母さんはお前が心配なんだよ。それで脅迫状を思いついた。これで参加をあきらめてもらえればと思ったんだよ」

 ゆかりは唇をかみしめる。

「親子の対話が必要だ。それで次はパエリアだ」

 ゆかりが言う。「あれも石堂じゃないの?」

「店の防犯カメラ画像を確認したら、注文したのは浜辺だ」

 ゆかりが驚く。そんな。

「お前にアレルギーがあるのを知っていた人間は限られる。親と浜辺だけだ。石堂や仲間は知らなかったんだろ」

 ゆかりはうなずく。

「脅迫状とライブハウス襲撃と事件が続いて、なおかつ俺がボディガードになった。ナードの話題作りがいよいよ佳境に入った。浜辺はここでもう一つの話題作りを考えたんだ。それがアレルギーだ」

「そ、そんな」ゆかりは絶句する。

「ただ、ここで誤算があった。あれほどのアナフェラキシーを予想していなかった。医者が言ってただろ、アレルギーの交差反応と相乗効果だよ。まずは室内のダニだ。さらには過度な運動、これらが合わさって、アナフェラキシーは想定を超えるものになってしまったんだ。実際、アナフェラキシーで死ぬこともあるからな。まあ、無事、治療も出来たからよかったんだが、とにかく浜辺の目論見はなんとか成功した。世間はこういった話題には飢えてるからな」

 ゆかりは天を仰ぐ。

「そして最後はライブハウス突き落とし事件だ」

 ゆかりが石堂を睨む。石堂は首を垂れる。

「これも防犯カメラの画像解析でわかった。あの日、ゆかりを突き落とせる人間は映っていなかった。直接、階段を映したカメラは無かったんだが、前後の通行人を見ても該当者はいなかった。あの日、階段を降りているのはナードのメンバーとサブマネの石堂だけだ。つまりは石堂がやったということだ。誰かが突き落としたのを見たというのは、石堂の狂言だな」

 石堂がすみませんと謝る。

「そして最後は半グレ拉致事件だ。ゆかりを石堂が呼び出した」

 ゆかりはうなずく。「緊急で話があるって呼び出された」

「そして半グレに拉致された」

 石堂は謝る。「すみません。あいつらを使ったのは俺です。ちょっと痛めつければいいかと思った」

「レイプさせてか」真加部の目に怒りがこみ上げる。

 石堂はがっくりと頭を下げる。

「女性にとってのレイプは、死よりもひどい仕打ちだぞ。お前にそれがわかるか!」

「すみません」

 真加部は落ち着こうと息を吸う。

「そうまでしてナードを、いや、ゆかりをコンテストに参加させたくなかった」

 ゆかりが憤る。「どうして!」

 真加部がゆっくりとゆかりに言う。

「お前は石堂という名に覚えは無いのか?」

 これまでは無かった石堂の目から涙が流れ出す。

 ゆかりは考え込む。そして気づく。

「石堂由紀子?」

「そうだ。石堂由紀子は彼の妹だ。いや、妹だった」

「そんな」ゆかりが茫然とする。

「石堂の過去を調べた。10年前に妹さんは自殺してる。今となっては記録も無いし、原因までははっきりとしないが、当時の噂だといじめが原因だ」

 ゆかりがぽつりと言う。「私のせい?」

「そこまでは知らない。何人かがいじめたのかもしれない。ただ、石堂マネージャーは覚えていた。妹をいじめていた連中をな」

 石堂が話し出す。

「最初は僕も気が付いていなかった。ただ、何回か話をしていて、歳と学校、色々と思い出してきた。由紀子の日記に木次谷の名前もあったんだ」

 ゆかりがつぶやく。「そんな」

「最初は気にしないようにしてた。ただ、ナードがどんどん人気者になって、大手と契約するまでになってきた。今度のコンテストは間違いなく優勝できる。それを思うと段々と許せなくなってきた。ゆかりだけが幸せになることが」石堂が苦しそうに唇を噛む。

 真加部が言う。「だからと言って怪我をさせてはだめだ。これもお互いちゃんと話をするしかない」

 ゆかりはじっと考える。そして石堂に向かって言う。

「ごめんなさい。今となってはそういうしかない」しっかりと頭を下げる。

 石堂はその姿を見て、再び泣き崩れる。

「僕はマネージャー失格だ。自首するよ」

 真加部が言う。「それはお前に任せる」

 ゆかりが言う。

「石堂、その必要はない。貴方さえよければ、ナードのマネージャーを続けてよ。我々には石堂が必要だよ」

 石堂がゆかりをじっと見る。

 真加部が言う。

「まあ、とにかくお互い、よく話し合うんだな」

 

 そして二人は帰って行く。石堂はゆかりを送って行くと言う。

 真加部は二人を見送る。まあ、これで真加部の仕事は終わった。今回も成功したのだ。

 いざ、晩御飯だと部屋に戻ろうとして、外から悲鳴が聞こえた。

 何事だと真加部が飛び出す。

 探偵社の外階段から下を見ると、ゆかりが倒れこんでいる。それに石堂が寄り添うようにしている。

 真加部は急いで下まで降りる。「どうした?突き飛ばしのか?」

 ゆかりが痛そうに言う。「足がふらついて自分で転んだ」

 探偵社の階段下で尻もちをつくような格好でゆかりは横たわっていた。そして立ち上がろうとすると、いたた、と激痛に顔をゆがめる。

 ゆかりが青ざめる。

「足をやっっちゃったよ。足首が動かせない」

 石堂も青ざめる。

 ゆかりは右足首のねんざで絶対安静となった。

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