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私立探偵 真加部阿礼  作者: 春原 恵志
地下アイドル
51/130

引きちぎるぞ

 全貌を掴んだ真加部は、急いでゆかりに連絡を取る。

 しかし、彼女はスマホに出ない。

「くそー、やられた。パク、スマホのGPSでゆかりの場所を特定してくれ」

「いはえ」パクは右手を胸に当てる。こういう時は北朝鮮のポーズが出てくる。

 真加部はその答えを聞く前に、自転車で走りだしていた。

 パクの指示でゆかりの場所を把握する。南口の早稲田通り近くだ。おそらくそこには雑居ビルがあるはずだった。


 ゆかりは雑居ビルの3階にいた。

 昔は何かの事務所だったのだろうが、現在は使われていないようで、電気も無く、薄暗い部屋だ。ボロボロのソファや机が埃まみれで捨てられている。

 彼女の目の前には、見るからに悪そうな男たち5人がいる。

 鼻にピアスをして、顔や腕はタトゥーだらけの男が、ゆかりの口にあったガムテープを剥がす。

 ゆかりが叫ぶ。「帰しなさいよ」すでに顔には涙の痕がある。ゆかりの手足にも大型の束線バンドが絞められており、身動きは取れない。

 男たちが下卑た笑い声を出す。

「これまで、あのおかしなボディガードが引っ付いてたからな。ようやくおびき出してくれたぜ」

「もう、やめて」

「馬鹿言えよ。これからお楽しみじゃねえかよ」男は自身のデニムを緩めだす。

 ゆかりは精一杯の強がりで男たちを睨みつける。

「いいねえ。ナードのアルチメイトとやれるなんて最高じゃねえかよ。おい、たけし動画撮ってるよな」

「大丈夫です」

「この動画でいくら稼げるかな。へへへ」

 スマホを三脚に固定して、ご丁寧にライトも付けてある。

「じゃあ、一人5回は確実だから、全部で25回以上のセックスシーン撮影に入ります」

 全員がうれしそうな叫び声を上げる。

「用意、スタート!」男がどこかの監督張りの声を上げる。

 ゆかりが悲鳴をあげる。

 その声が響き渡ると同時に、部屋の扉が破壊される凄まじい音が響く。

 男たちが扉を振り返る。確か鍵を掛けたはずだ。

 扉は埃だらけの床に叩きつけられ、舞い上がった埃の中、逆光で人間が現れた。

 真加部阿礼だった。

 男たちは真加部を見て、安心する。

「何だ。これからいいとこなんだ。出てけよ」

「お前たちに情けをやろう。殺しまではやらないでおいてやる。ただ、お前たちの生殖器を引きちぎる」

 リーダー格の男があまりの話に笑いだす。

「お前、バカか、何をふざけたこと言ってやがる。それともお前も撮影に参加するか?」

「いいだろう、参加してやる。俺の空手映画だ」

 言うが早いか、真加部がリーダー格の男に突進する。真加部の身長は160㎝、相手は190㎝はあろうかという大男である。

 一瞬だった。男は何も見えなかった。真加部の前蹴りが男の右足を直撃する。鈍い音と共に男の足がありえない角度に曲がる。もんどりうつとその激痛でのたうち回るしかなかった。

 残った4人は真加部の実力を理解し、真顔になって武器を手に持ち出す。

 ナイフ、鉄パイプ、ゴルフクラブ、金属バットを持っている。

 まず、男が鉄パイプを振り回しながら真加部につっかかってくる。頭に振り下ろしたはずのパイプがむなしく床に当たる。真加部が消えた。その衝撃で手が痛いだけだ。そして次の瞬間、後ろから足蹴りが来る。先程の男と同じく、右足がひざより下で折れ曲がる。悲鳴が建物中に響き渡る。

 いよいよ矢継ぎ早の真加部の攻撃が始まる。

 男たちは真加部が見えない。それほど素早く動くのだ。まさに瞬間移動だ。

 ナイフを持った男は、あっという間にナイフを取られると、やはり足に衝撃を食らう。今日の真加部は全員の片足を折る作戦のようだ。足を折られて倒れるしかない。

 残り2名はすでに戦意喪失なのだが、意地だけで真加部に向かおうとする。懐から缶スプレーを出す。目つぶしスプレーだ。半グレはこれを使う。食らうと目が開けられない。

 ところが、真加部はなんなくそれを奪うと、吹き付けようとした男の顔にそれを使う。汚い悲鳴をあげる。目が開けられない。顔をかきむしる。その激痛たるや、顔全体に火が付いたようだ。

 真加部はその男の足を折る。今や部屋中が男たちの悲鳴しか聞こえない。

 最後の男はついに土下座する。「た、助けてくれ」

「よし、じゃあこれから全員のナニをちょんぎる。ここに並べ」

 男たちは痛みで動くこともままならない。

「こらあ、殺されたいのか!」

 ひいひい言いながら。激痛に耐え、男たちがよろよろと真加部の前に土下座する。

「頼む。それだけは勘弁してくれ」

「駄目だな。動画を撮ってるんだろ。面白いじゃないか」

 すでに真加部の目の色が尋常ではない。悪魔の目だ。

「まずはお前からだ」

 リーダー格の男を指さす。

 男はボロボロと泣いている。手を真加部に向かって拝んでいる。

「頼みます。助けてください」

「いくぞ!」

 5人の絶叫が響き渡る。と同時にパトカーのサイレンが聞こえだす。

 真加部が我に返る。

「くっそー、なんてことだ」

 男たちは助かったとばかり、その場に寝転ぶ。

 名残惜しさ満杯で、真加部が男たちを指さし、叫ぶ。

「いいか、もし、俺のことを少しでもチクったら、今度こそお前たちのナニを引きちぎるぞ。楽しみに待ってろ」

 真加部は悪魔の形相で男たちに告げる。そうして名残惜しそうに、ゆかりの拘束を取ると、抱えるようにしてビルから逃げ出す。


 それから5分後、部屋に江子田警察署の西城たちが入ってくる。

 そして現場の異様な光景に驚く。

 西城がうめく。

「なんだ。これは」

 この地域の半グレたちが、泣きながら唸っているではないか。中には失禁している奴もいる。

 西城が聞く。

「何があった?」

 リーダー格の男が痛みに耐えながら言う。

「心霊動画を撮ってたんだよ。そうしたら怪物に襲われた」

 西城の隣にいた駒込が、不思議そうな顔で聞く。

「何、バカなこと言ってる。あれ、お前たち足を折ったのか?」

「だから、怪物だよ」

 駒込が西城に耳打ちする。

「こんなことできるのは、あいつしかいないですよ」

「全員の右足だけきれいに折ってるな。いったい何をしようとしてたんだ」

 半グレたちは痛みに耐えてスマホを隠していた。あれが警察に見つかれば、その後絶対、引きちぎられる。それだけは勘弁してほしい。

 西城はひとまず、救急車を手配した。

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