表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私立探偵 真加部阿礼  作者: 春原 恵志
地下アイドル
50/130

大会前夜

 ラフストーンコンテストを前に、案の定、ナード人気は異常な盛り上がりを見せる。元々のカリスマ性を脅迫事件がさらにアップデイトさせたのだ。今やナードは神格化されてきていた。

 そしてコンテストは、始まる前からナードの圧勝が予想されていた。


 最後のレッスンを終えると、真加部はゆかりを自宅まで送り届ける。さすがに真加部のガードは完璧で犯人も襲う余地は無かった模様だ。以降は食事についても細心の注意を払っていた。

 自宅前に心配そうな顔をした母親が出てきた。

「お母さん大丈夫だ。明日も朝から俺がガードする」

 ゆかりはただいまも言わずに家に入って行く。

「真加部さん、ありがとうね」母親が言う。

「心配ないからな」真加部はさらに言う。

 それでも、どこか心配そうな母親がぽつりと話す。

「私はアイドルなんかやめて欲しいんだけどね」

「そうなのか」

「あの子には普通の生活をして欲しい。芸能界はあの子を壊してしまう気がする」

 真加部はそういったことはよくわからない。ただ、母親の気持ちはわかる気がする。子供を思わない親はいないのだ。

「何度かやめて欲しいと言ってきたんだけど」

「辞めないんだ」

「そう」

 母親は若干憂鬱そうな顔で、真加部におやすみなさいと言って家に入って行く。


 真加部が探偵社に戻る。

 パクの部屋に行く。

「パク、晩御飯はどうする」

 パクは集中している。こういう時はいくら声を掛けても答えない。

 真加部はパクの隣で彼女の肩に触れる。

「ああ、阿礼か」

「ずいぶん、集中してたな」

「防犯カメラの画像収集が終わったんだが、どうにも妙なんだ」

「どういうことだ?」

「時系列で言うと、最初が木次谷家への脅迫状だよな」

「そうだな。10日前になるな」

「木次谷家周辺の防犯カメラ映像をまとめたんだ」

 モニターには付近の防犯カメラ映像が、時間を追って流されていく。

「木次谷家にはカメラが無くって、数メートル先の民家や公共のカメラ画像をまとめてる。それで脅迫状がポストに入ったという、直前3時間を追従してみた。それでいいんだよな」

「そうだな。母親が言うには脅迫状が届いた2時間前に、一度ポストを確認したって言ってたから、それで十分だ」

「画面を見てもらえばいいが、その時間に付近を徒歩、自動車、自転車通行をした人間は全部で15名いたんだ」

 画面にはその15名分が流されている。

「明らかに怪しい人物はいなかったが、該当しそうな人間を調べてみた。犯人の可能性の高そうな若者、ナードに関係しそうなやつらだ」

「そうだな」

「素性まで分かったんだが、該当するやつはいなかった」

「どういうことだ?」

「こっちが聞きたいぐらいだ。探索漏れしたのかもしれないが、とにかく該当者無しだ」

 真加部は考え込む。

「次は薬師亭事件だ」

 真加部はうなずく。

「薬師亭前に防犯カメラがあって、階段入口は映らないんだが、その前後にはある」

 モニターは薬師亭前の画像に変わる。

「こいつは時間限定だから、すぐに分かった」

 画面には薬師亭1階の待機所を出てきたメンバーたちが、続々と地下に向かおうと歩いているのがわかる。アルチメイトことゆかりは、石堂サブマネージャーと共に最後に顔を出す。しばらくその画面のままで、それから1分ぐらいしてから男性が数人映ってきた。

「もう一方のカメラ画像だ。同じく1分前からの画像になる」

 モニターには主婦、老人、子供が歩いていた。

「一応、こいつらの素性も当ったが、犯人候補じゃなかった」

「どういうことだ」

「映し忘れしたのか、元から階段脇に隠れていたか」

「いや、あそこの階段にそんなスペースは無いぞ」

 真加部は考えこむ。パクは続ける。

「最後はパエリアだ。デサリアの防犯カメラ画像を加工してみた」

 例の注文した人間の画像だ。モニター上には鮮明になった画像が流れる。

 店の入り口付近に現れた人物が、店員に声を掛けている。真加部はその画像を食い入るように見ている。何かに気づいたようだ。

 その人物は店員に話をして、お金を出している。一連の動作やしぐさに覚えがあった。

「これは浜辺だ」

 パクが言う。「その通りだな。AI判定でも80%以上の確率で、この人物を浜辺と断定している」

 真加部は考える。そして気が付く。すぐにパクにあることを調べさせる。

 そうしてこの事件の全貌を理解した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ