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私立探偵 真加部阿礼  作者: 春原 恵志
地下アイドル
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デサリア

 真加部は素早く探偵社に戻ると、早速パクと相談する。

 モニター前で、画面を見ながらパクが真加部に説明を始める。

 画面にはスタジオまでパエリアを運ぶ配達員が映っている。

「スタジオ前の防犯カメラ画像だ。間違いなくこいつは配達員だ」

「どこの?」

 パクは大手チェーンの名を出す。「こいつがどこから料理を持ってきたかというと、駅前のデサリアだ」

「ああ、あそこか、スペイン料理店だな」

「だから、詳しくはデサリアで聞くんだな」

「わかった」

 真加部はここで改めてパクに質問する。

「それでパク、知ってたか、ナードがこの脅迫を宣伝に利用してたって」

「利用って言うか、ナードって元々そういうユニットなんだよ。話題性があればそれを使わない手は無いっていうスタイルさ」

「じゃあ、浜辺が仕掛けたっていうのか?」

「そう、ネットの騒ぎはあいつが絡んでるのは間違いがない。いや、だけど実際、手を下しているって話じゃない。これまでもナードにはそういった話題作りが数多くあったけど、浜辺サイドの仕込みじゃなかった。そういった出来事をSNS上に誘導するって作業は、浜辺がやったと思う」

「そうなのか?」

「今や人をどうやって動かすかは、SNSの情報操作が重要なんだ。どっかの知事選でもそういうことがあっただろ。大衆はネット情報を信じる傾向があるんだよ。それがネットでさらに広がっていく。面白いようにな。大統領選挙だろうが、戦争だろうが、なんでもさ。これからはそういった時代なんだよ。浜辺の大学での専攻もネット利用の大衆操作だったしな」

「まじか」

 そう言うとパクは新たな画面を出してくる。

「このサイトじゃあ、今回のアルチメイト脅迫の一連の流れまで記載してあるよ。つまり脅迫状からライブハウスの襲撃事件までな。それで次は今回のアナフェラキシー騒ぎも載せるんだろうよ」

 真加部は茫然とネット情報を見る。

「こういったサイトは山ほどあるし、さらに他のネット媒体でも盛んに情報を流してる。それでナードは話題性が増し、さらに人気が出るってことだよ」

「そういうことか」

「ただ、浜辺はそういった操作をしてるだけだと思うぞ。だから本当のストーカーはいる」

「そうだな。実際、手を下してるやつはいる。例の脅迫状はどうだ?」

「うーん、これがまた、アナログなんだよな。今時、文字の切り貼りなんて、昭和かよ」

 脅迫状は切り抜かれた文字が貼り付けられたものだった。

「確かにそうだな」

「ただ、アナログがゆえに足はつきにくいってところもあるんだよ。こっちは警察じゃない。現物を手に入れてるわけじゃないし、鑑識がやってるような科学捜査も出来るわけじゃない。つまり、ネットを漁っても、こういったアナログ手法だと手が出せない」

「そうなのか。じゃあ手掛かりなしか」

「まあそうでもないぞ。フォントはわかった。ここに張り付けてある文字は新聞から持ってきたやつだ。新聞社は独自のフォントを持ってるんだ」

「そうなのか」

「使われた新聞は朝日新聞だ」

「ほー」

「まあ、それがわかったところで、購読者数は新井薬師でも相当数、いるだろうがね」

 真加部は考えに耽る。

「パク、木次谷家周辺の防犯カメラ画像を漁って、この手紙を投函したやつを調べてくれ」

「わかった」

「それとアルチメイトが突き飛ばされた時の防犯カメラ画像も頼む。俺はこれからデサリアに行って話を聞いて来る」

「少し時間をくれ」

 真加部はパクの返答を聞く前に、スタートしていた。


 新井薬師駅前のデサリアに真加部が着く。

 夕食前の仕込み時間でもあり、今はそれほど忙しくも無く、それなりに応対してくれた。

 オーナー店主の男性に話を聞く。

「パエリアの注文はどんな形だった?」

「ああ、それね。それが少し変だったんだよ。注文を受けたのは前日の夜、それも忙しい時間でね。店の若い奴が受けたんだけど、明日12時にスタジオにパエリアを届けてくれっていうんだ。うちは宅配もやってるんで、それを使ってくれって話だった。領収書も要らないって言って、前金ももらって問題はなかったよ」

「注文したのはどんな人間だった?」

「ちょっと待って」そう言うと店の奥にいた若い男を呼ぶ。

 バイトだろうか、大学生ぐらいの男が顔を出す。

「昨日、パエリアを注文した人はどんな人だった?」

「ああ、あれですか。よくわからないな。忙しい時間帯だったし、応対も短くて、それにマスクとサングラスをしてたんで」

「男か女かはどうだ?」

「えーと、そう言えばキャップもしてたな。向こうも急いでるみたいで、注文とスタジオ名を言って金も多めに出して、釣りは要らないって言ってたんですよ」

「声を聞いたんだろ?」

「多分、女性だったのかな。でもマスク越しではっきりしないです」

 身元を隠したいという意思を感じる。確かに犯人の可能性があるということか。

 店主がフォローする。

「あの時間だと、ここは戦場だからな。注文も多いし、まあ、仕方ないよ」

「店に防犯カメラはあるだろ。見せてもらえるか?」

「いいよ。勝手に見てくれるか」

 そう言うと防犯カメラのパソコンまで案内すると、パスワードで機器を解除し、真加部に任せる。ちなみにここまで丁寧な対応をしてくれるのは、テイクアウト用の料理を注文済ということもある。

 昨日の該当時間のカメラ画像を確認する。しばらく確認して目的の画像を見つける。

 確かにマスクとキャップ、サングラスをかけた人物が注文しているのがわかる。ただ、防犯カメラの位置からは最も遠い場所だ。店員をそこまで呼んでいるのだ。それとあまりに時間が短い。お金も1万円札を出すと素早く去って行った。服装は上下のスウェットで明らかに素性を明かしたくないのがわかる。

 真加部はデータをもらい。ついでにテイクアウトの料理も受け取る。

 後はパクに頼むしかない。

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