病室
真加部阿礼の第6章になります。今回は地下アイドルなどというテーマです。私自身、アイドル好きで地下アイドルなどにも興味があります。過去には正義の味方でアイドルを登場させたりしておりました。このテーマにした理由は最後でわかると思います。それがやりたかっただけかもしれません。
規則的な酸素吸入器の音がむなしく響く。
酸素マスクをした真加部文伍は目をつむったままだ。ベッドの横の椅子に阿礼が腰かけて、彼の手をしっかりと握っている。
先ほど阿礼と話をした医者の話だと、もう長くはないだろうという。
病室から見える外の景色も冬景色となり、木々は葉を枯らし、風の音がうら寂しい。
突然、文伍が目を覚ます。阿礼を見て懇願するような顔をする。
あの頑強だった文伍がここまでやせ衰えるとは、この病気の破壊力を目の当たりにする。
「文伍、話したいのか?」
文伍がうなずく。阿礼がマスクを外すと文伍が笑ったように見えた。そして消え入りそうな声で話す。
「阿礼、いいか。もう人殺しをするなよ」
阿礼の目から熱いものが流れ出す。「わかってるよ」
「それとパクと仲良くな」
阿礼はうなずく。
「桑原の言うことをよく聞くんだ」文伍の声はかすれ気味だ。「それと無駄遣いしないで貯金しろ」
「わかってるって、それよりしっかりしろよ」
文伍が笑う。「それと仕事をえり好みするな。何でも受けろよ」阿礼はもう涙でよく見えない。
「最後にお前のルーツを探れ、ほんとの両親を見つけるんだ」
「文伍が俺の親父だろ」
「ありがと、だけどお前の生まれた意味を知る必要がある」
「わかったよ」
文伍はじっと阿礼の顔を見ると、話し終えたのか目をつむる。
ベッド横の機器の数値を見る。心拍数が低くなっている。阿礼は急いでマスクを付けようとする。
すると突然、文伍が再び目を開ける。阿礼は何事かと身構える。
「言い忘れてた」
「何だよ」
「お前はアイドルを目指せ」
「はあ、何言ってるんだよ。気でも狂ったか」
「完全無欠の地下アイドルを」
文伍が最後の力を振り絞るかのように、阿礼に右手をかざす。
何だよ!!!!
阿礼は目覚める。
自分の部屋のいつものベッドだった。まったく変な夢を見た。
なるほど、今日。これから来る依頼の件だな。だからあんな夢を見たのだ。
阿礼は支度を整えると探偵社に向かう。




