パクの独白
トラックは再び走り出す。阿礼はパクと話をするために彼女を座席に座らせた。3人掛けの真ん中に阿礼、その隣にパクが座っている。
パクが自分から話をし出す。
「母さんは癌なんだ。ただ、それも良くわかっていない。そうだと思ってるだけだ。検査ができる病院がない。ああ、一般市民の話だ。上流階級の人間は病院にも行ける。それで、母の病気も私が調べた限り、その兆候があるように思うだけだ」
ネズミが言う。「ここじゃあ、癌は治療できない。それこそ上流階級じゃないと手術や医療品も使えない」
「母さんを救いたい」パクがうめくように言う。
「そういうわけか」
「アメリカだと色々な治療方法があると聞いた」
「そうだな。でも癌の症状による。いまだに先進国でも治らないケースもあるぞ」
「だけど、ここだと間違いなく死ぬ」
阿礼はじっとパクを見る。自分たちの命を懸けても母親を救いたいと望むのか。
ネズミが話す。
「サドンに住んでるのなら、それなりに裕福なんだろ」
「そうだな。前はもっと田舎にいた」
「パクはどういう経緯で、キムスキーに入ったんだ?」
ネズミが驚く。「キムスキーか」
「私は特別なんだ。幼い頃は普通の学生だった。進学するにつれて、プログラミングの才能が認められた。それで特待生で大学も行かせてもらえるようになった」
ネズミがフォローする。「この国は才能があるやつはそれなりに優遇されるんだ。俺も商売の才能があるからなんとかなってる」
「家族も引っ越しして、家も与えてもらった。父親も仕事が出来るようになった。国には感謝している」
「そうか」
トラックは進んでいく。しばらく走ると舗装道路が無くなり、高層ビルなどは影を潜め、畑が広がっていく。そして農村の風景になる。ここでは貧困が渦巻いている。




