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私立探偵 真加部阿礼  作者: 春原 恵志
パクミンヘ
38/130

決行

三日後の昼12時、予定通り阿礼は国際商店を訪ねる。

 店に入るとネズミが待っていた。

「金は持ってきたか?」

 阿礼はリュックから6万ドルを出す。

 ネズミはそれを確認すると、奥の金庫にしまう。

「よし、行くぞ」

 そう言うと、店の裏に行く。阿礼が付いていくと、そこにはトラックがあった。

「トラックがあるのか?」

「貿易商がトラックを持ってなくて、何ができるってんだ」

 阿礼がトラックを観察する。長さは7mはある大きなトラックだ。軍用なのか大きなタイヤが6個ついており、荷台にはホロが被せてある。

「これはロシア製か?」

「そうだ。ウラルの中古車だ。本当は日本の日野が欲しいんだがな。俺の金じゃ買えない」

 阿礼はホロを開けて荷物を確認する。

「魚?」

 大きなポリ容器が荷台いっぱいに置いてあり、魚臭い。

「俺の仕事は貿易商だからな。こいつを中国へもっていく。ここで売れるものは魚ぐらいしかない。物々交換みたいなものだ。これで中国製品を買う」

「そうか」

「あくまで商売をしているだけだ。それで政府も潤うことになるから黙認している」

「わかった」

「じゃあ、乗れ」

 阿礼に助手席を勧める。

「お前は助手として乗り込むんだ。いいな」

 阿礼はうなずく。

 ディーゼルエンジンがかかる。助手席に座った阿礼は、待ち合わせ場所を教える。車が走り出す。

 しばらく走ってネズミが話し出す。

「お前は俺を疑わないのか?お前を政府に売るかもしれないだろ。米国のエージェントなら、それなりに俺への見返りもあるだろうしな」

 阿礼はネズミをじっと見る。

「そうだな。そこは俺の勘とでもいうのかな。お前は信じるに値する人間だと思ったとしか、言いようがない」

 ネズミは笑う。「それは光栄だな」

「それで、どういうルートで行くんだ?」

元山ウォンサン咸興ハムフン清津チョンジン穏城オンソン経由で行く。検問は10か所ってとこかな。時間は早くても18時間はかかる。ちょうど早朝に着く時間だ。川を渡るのもその頃がいいだろ。警備も手薄になる。ああ、運転できるよな」

「大丈夫だ」

「替わってもらうぞ」


 トラックはサドン地区に入る。

 街を抜け、しばらく走ると待ち合わせ場所になる。郊外の森の中だ。

「ここら辺か」ネズミが周囲を確認しながらゆっくりと走る。

 トラックの音に気付いたのか、木の陰から人が出てくる。

「パクだ。停まって」

 阿礼がパクに駆け寄る。

 パクは心なしか緊張気味だ。いつもの幽霊ではない。顔は真っ青だ。

「パク、家族はどこだ」

 パクは、トラックとネズミを注意深く観察してから、阿礼に言う。

「今、連れてくる」そう言うと森の中に入って行く。

 なるほど、全幅の信頼を得ているわけではないということか。

 少し待つと森の中から、数名が姿を見せる。

 祖母、両親、そして弟のようだ。

 パクが阿礼に紹介する。

「祖母の栄玉ヨンオク、父の建設コンソル、母のポム、弟の強盛カンソンだ」

 祖母は60歳は越えているだろう。父は40歳後半、そして母親は見るからに苦しそうな顔をしている。父親に縋りつくぐらいの状態だ。全員がやせているのだが、母親は異常なやせ方だ。

「母は病気だ」

 弟は高校生ぐらいだろうか、目がギラギラとしている。この歳で命を懸けるのだから致し方ないのだろう。

 ネズミがみんなに言う。

「悪いが家族は荷台の荷物に紛れてもらう。それしか運びようがない。それと検閲では箱の中に隠れるようになる」

 パクはうなずく。

「じゃあ、ここからすぐに検問がある。まず箱に入ってくれ。すぐに出るぞ」

 ホロを外して、家族は箱に入る。魚と同じプラスチック製の小さい箱だ。身体を折りたたむようにして中に隠れる。

「あまりいい道ばかりじゃないから、少し揺れるぞ」

 家族は箱の中でうなずく。ネズミが箱に蓋をする。

 阿礼がネズミに話す。

「パクと話がしたい。いいか?」

「ここからすぐにサドンの検問がある。そこを抜けてからでいいか?」

「わかった」

 ネズミはホロを掛け、車は出発する。

 走り出してネズミが言う。

「母親は病気か?」

「知らなかった。そういうことか」

 阿礼はパクの目論見を理解する。おそらく母親を治療したいがために、亡命を申し出たのだ。パクと家族の並々ならぬ決意を知る。

 サドン地区からの検問は厳しいものがある。首都から抜けていくわけだから、それなりに理由も必要になる。こういった闇商人でも使わなければ、まずは出ることもままならない。

 昼時だが検問所は当然やっていた。トラックが近づくと、軍人が数人出てくる。やはり小銃を抱えている。

「止まれ!」

 手で制して、運転席のネズミを見る。

李英浩リ・ヨンホか、運搬か?」

「ええ、魚介類なんで新鮮さが命です」

 そう言いながら、軍人に金を渡す。当然、ドル紙幣だ。

 何も言わずにそれを受け取ると、「荷物を見るぞ」そう言って荷台のホロを開けて隙間をのぞく。

「魚臭いな」

 すぐにホロを元に戻して言う。「よし、行っていい」

 第一関門突破だ。

 ネズミが言う。「これが10か所は続くんだ」

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