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私立探偵 真加部阿礼  作者: 春原 恵志
パクミンヘ
33/130

飲み会

そして翌土曜日に合同コンパが開催される。

 江古田駅近くの和食店。割烹とまではいかないが、落ち着いた和風居酒屋である。もちろん駒込が予約した。今時の男子はこういう店選びもセンスがいいのだ。

 木目調のテーブルと座椅子のある4人掛けの個室で、駒込と同期の野田が待っている。現在は夜の7時30分である。ここまででお互いの近況報告は終わっている。

 野田はいよいよ本題に入る。

「駒込がお気に入りの子なのか?」

「いや、そういうんじゃないな。探偵をやってるんだが、とにかくすごいんだよ。これ見てみ」

 駒込がスマホの動画を見せる。例の阿礼が映っている画像である。

「まじかよ。人間技じゃないな」

「だろ、すげえんだ」

「いや、CGとしか思えねえな」

 野田は駒込の警察学校時代の同期で、現在は立川南署に勤務している。今日は駒込に誘われて来た。

「7時の約束だよな。遅れてるな」

「そうだな」

 すると入口が開いて、真加部の姿が見える。いつになしか、血相を変えているように見える。駒込が手を上げる。

 真加部が駆け寄ってくる。パクの姿がない。

「悪いな。パクが来れなくなった。またにしてくれるか」

「え、どういうことですか?」

「ちょっと家族に問題が起きたんだ」

「ああ、そうですか、じゃあ仕方ないですね」そう言って、ぽかんと口を開けている野田を紹介する。

「ああ、こちら同期の野田です」

「ああ、真加部阿礼だ。今日は悪かったな」

「いえ、あなたが真加部さんか、お噂はかねがね」

「あ、そうだ」

 真加部は名刺を出す。

「探偵をやっている。何かあったら呼んでくれ」

 野田は名刺をしげしげと見る。代表取締役真加部阿礼とある。

「社長さんですか」

「そんないいもんじゃない。単なる肩書だ」

 駒込が言う。

「阿礼さん、合コンはまたの機会にして、今日は単なる飲み会にしませんか?それとも何か用事がありますか?」

「いや、用事はないが」

「料理も無駄になりますから」

「そうか、わかった。じゃあそうしよう」

 ということで、真加部は席に着く。

 そして宴会が始まる。

 差しさわりのない話から、宴会は続いていく。

 しばらく飲み食いしていると、駒込は真加部の弱点を知ることになる。

 なんと彼女は酒に弱いのである。それなりに飲酒はするので、飲めるのかと思ったが、徐々に赤くなって、ついには酔いつぶれてしまった。

「まいったな」駒込が寝てしまった真加部を前に言う。

 先ほどから起こそうと呼びかけたり、ゆすって見たりするも微動だにしない。

「アルコール中毒ってことでもないか。寝てるだけだな」

「送っていくしかないだろ。家は知ってるのか?」

「探偵社は知ってるから、そこまで送るよ」

「おう、変な気を起こすなよ」野田はにやりと笑う。

「あったりまえだろ。警察官がそんなことできるかよ」

「いやいや近頃の警官は当てにできないからな」

「お前が言うか」

「それにしても不思議な子だな。寝顔は子供みたいだ」

「たしかに」

 二人掛かりで、駒込の背中に真加部を乗っける。

 店の前で野田が手を振る。夜も更けている。

「じゃあな。また」

「ああ、悪かったな。付き合わせて」

「いいって、お前と久々に飲めて楽しかったよ」

 それで宴会はお開きとなった。

 

 江古田周辺、探偵社までの夜道。人通りもそれほどあるわけではない。

 駒込が真加部を背負って、探偵社の方向に歩いている。

 こんな真加部を見るのは初めてだが、寝顔は妙にかわいらしい。元々はこういった普通の女の子なのだ。ただ、あの運動神経を見ると、それが信じられない気はする。

 そして背負った感じも普通の女性とは違う。重さはさほどないのだが、何か硬質な機械的な感触がする。

「駒込はいい匂いがするな」

 目が覚めたのか、背中の真加部がつぶやく。

「目が覚めましたか」

「ああ、ありがとう。降ろしてくれ」

 駒込が真加部を降ろす。

 まだ、足元がおぼつかないのか、よたよたしながら阿礼が歩き出す。

 ここは住宅街もあって、静かだ。時たま犬の吠える声が聞こえるぐらいだ。

「お酒弱いんですね」

「そうだな。そう言えば今までほとんど飲んだことが無かった。アルコールは分解できない体質だったんだな」

 何か普通の言い方ではない点が気にかかる。

「そんな風には見えない飲みっぷりでしたよ」

「今後は気を付けるよ」

 駒込は気になっていたことを聞いてみる。

「真加部さんは元々、アメリカにいたんですか?」

「ああ、そうだな。阿礼でいいぞ」

「で、阿礼さんはいつ日本に来たんですか?」

「2年前だ」

「え、そんなに最近なんですか?」

「まあな」

「それまではアメリカにいたんですか?ああ、そもそも日本人ですよね」

「俺の話はいいだろ。それよりパクだ。駒込はパクをどう思ってる?」

「パクさんですか、ほとんど話もしたことないですからね」

「そうか、パクは駒込を気に入ってるみたいだ」

「そうですか」

「あいつは苦労してるんだ」

「韓国の人ですよね」

 真加部は少し間を置く。

「あいつは脱北者だ」

「え、そうなんですか」

「興味あるか?」

「ええ」

「じゃあ、探偵社で話をする」

 そういうと、ふらふらしながら探偵社に向かっていく。

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