江古田警察署
江古田署ではこのところ大きな事件も無く、署員は通常業務に従事している。もちろん組織犯罪対策課もだ。今は昼休みで西城が外飯を終えて、職場に戻って来ていた。
西城は駒込が何やら熱心にスマホを見ているのに気づく。
「ゴミ、どうした?」
駒込は弁当を食いながら、動画を見ているようだった。ただ、どうも様子が変だ。
「ああ、西城さん、これ阿礼ですよね」
「何々」西城がスマホに顔を寄せる。
動画は本庁のようだ。天下の警視庁の壁面を、何か人のようなものが滑り降りてくる。
「これ、何だ。CGか?」
「いえ、おそらく実写です。多分、車載カメラだと思うんですが、警視庁の壁を滑り降りて来てます」
まるで体操選手が鉄棒をするかのように、壁面の突起を離しては掴むを繰り返して、あっという間に地上に降りてくる。ただ、後ろ姿で顔は見えない。一応、警察官の服装をしているが、これが本物とは思えない。
「まあ、こんなことができるのは阿礼以外、いないだろうな。しかしすごいな。本庁だろ、噂になってないか?」
「そうですね。知り合いに聞いてみます」
「警察官の格好しているな。何やったんだか」
「何、見てるんだ?」
「わ」
二人の後ろに音も無く、真加部がいた。西城があきれ顔で言う。
「お前はいつも音も無く近づくな。忍者か」
駒込が聞く。「これ、阿礼さんですよね」
そういってスマホを見せる。
「俺じゃないぞ。そんな違法行為するわけないだろ」
西城たちは信用していない顔だ。真加部は気にせず言う。
「駒込、暇あるか?」
「何ですか、いきなり、毎日忙しいですよ」
「ちょっと飲み会やろう」
「飲み会ですか」
西城がにやにやしながら言う。「合コンってやつか」
「何だ。合コンって?」真加部が不思議そうな顔で聞く。
「合コンもしらないのか、あれ、合コンって死語か?」
「いえ、僕らも使いますよ。合コン、合同コンパでしょ。あれ、元々の意味はどういうことなのかな」
「で、合コンって何やるんだ?」真加部は興味深々だ。
「男女が集まって乳繰り合うんだ」
あわてた駒込が必死で止める。
「違いますよ。男女で飲み会をやるだけです」
「それが合コンか。ああ、じゃあ、それやろう」
「えーと、どういうことですか?」
「うちのパクにもそういう知り合いを増やしたいんだ」
「ああ、パクさんですか」
「そうそう、俺たちと駒込達で合コンやろう」
「いいですよ。いつが良いですか?」
「こっちはいつでもいいぞ。何ならこれからでもいい」
「いや、それは無理ですよ。じゃあ、メンツを集めて計画しますね」
「ああ、よろしく」
それだけ言うと真加部は消えて行った。
後ろ姿を見送った西城が言う。
「あいつらも年頃だからな」そういって駒込を見る。
「なんか、お前もその気があるんじゃないか、妙に赤くなってるな」
「はあ、何言ってるんですか、そんなわけないですよ」
駒込は慌てて仕事に戻る。




