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佐橋の行方

 真加部は佐橋の居場所がわかったと征矢野に連絡する。

 すぐさま、征矢野は真加部探偵社を訪問してきた。

 真加部の前に征矢野がいる。報告書を見せる。

「征矢野さん、こちらが報告書だ」

 征矢野は慎重にそれを見る。

「順序だてて説明する」

 征矢野は何も言わない。目は必死に報告書を追っている。

「どこか違和感のある事件だった。佐橋は17歳の引きこもりに近い高校生だ。そんな男が23年間も逃げ続けることができている。いったい、どこに消えたのか」

 征矢野が顔を上げて真加部を見る。どこか遠くを見るような眼だ。

「横田みゆきの当日の行動も不思議だった。児童公園に行ったはずなんだが、事件が起きたのはそれから1㎞も遠い、緑地保護区域だ。なぜ、そんなところまで行ったのか。母親に聞いたところ、みゆきは方向音痴なところがあって、道に迷うことはよくあったらしい。それにしても遠すぎる。それで考えた。ひとつ可能性があるとすれば、公園を間違えたということだ」

 征矢野は真加部の報告をじっと聞いている。

「遊ぶはずだった、同級生の羽柴みどりに会ってきた。彼女が言うにはやはり児童公園で遊ぶはずだったという。そして児童公園は横田と羽柴の自宅からは近い。さらに弁天池公園はよく知らなかったという」

挿絵(By みてみん)

 征矢野は相変わらず、微動だにせずに報告を聞いている。

「次にみゆきと犯人らしき人物を目撃したという、真行寺江名子に話を聞いた。彼女も事件のことは覚えており、気にはしていた。彼女は後ろ姿、それも離れた場所にいた二人を見たという。二人は児童公園とは反対側、事件のあった方向に歩いて行った。ただ、これもまた変な話なんだ。母親に話を聞くとみゆきさんは人見知りが激しく、初対面の人間についていくようなことは無いという。たとえ、道を聞かれたとか、騙されるようなことをしたとしても、ついていかないと言っていた」

 真加部は淡々と話を続けていく。

「そしてもう一点、事件資料にも無く、あまり話題になっていないことだが、あえて聞いてみた。犯人の服装を覚えてないかと」

 初めて征矢野が口を聞く。

「それは当時も聞いた。確か覚えていないという話だった」

「そうみたいだな。ただ、俺はこう聞いてみた。犯人は青い服だったかと」

 征矢野があっと言う顔をする。

「彼女は言ったよ。青じゃないと思う。記憶もはっきりしないけど、青い服なら覚えているはずだとね」

 真加部は立ち上がり、自分の机からノートパソコンを持ってくる。

「これを見て欲しい。当日の衛星画像だ。出どころは言えないが、間違いなく当日のあの時間のものだ。それを解析ソフトを使って高精度に加工した」

 衛星画像が映る。征矢野は口を開けてそれを見る。

 シルバーの車が走っている。それが道路に停まる。はっきりとしないが人影が見える。降りたようだ。そしてその車は方向を替えて戻っていく。

「この後、20分ぐらいして同じ車が戻ってくるんだ」

 戻って来た車から人影が降りてくる。そして動いて行ったように見える。

「それからまた、20分近く経って再び人影が見える。そして車は北上していくんだ。これは何を意味するのか」

 征矢野ののどが鳴る。

「ここからは俺の推測だ。この事件にはもう一人重要人物が絡んでいる。目撃者が見たのはその人物なんだ。佐橋じゃない。俺は羽柴みどりに聞いてみた。何か覚えていることは無いかと、事件と無関係でも構わないからと。しばらく考えて彼女は言った。

 こんなことがあったと。みゆきとみどりは新学期で初めて出会った。仲良くなって二人で遊んでいたら、家がわからなくなったそうだ。迷子だな。その時に親切なおじさんが助けてくれた。そのおじさんは近くまで送ってくれて、二人ともとても感謝したそうだ。それを聞いて、ひょっとして事件当日、目撃者が見たのは、その人と歩くみゆきちゃんだったのではないかと思ったんだ。その人は背広だったから、青い服でもなかった。そしてその人はみゆきを送っていったんだ。自分の車でね。ところが公園を間違えていたんだ。児童公園を弁天池公園だと思った。子供の話だからもあるが、確かに公園と聞いて普通は弁天池を思うだろ、児童公園は近所の小さな公園だしな」

 征矢野が話出す。

「みゆきちゃんが歩いていく方向が、弁天池公園の方角だった」

 征矢野の独白を無視して真加部が続ける。

「その男は送った後に気が付いたんだ。子供が遊ぶ遊具があるのは児童公園だとね。それで急いで戻ったんだ」

 征矢野はがっくりと首を垂れる。

「車はどうやってわかった?」

「西城に聞いた。あの当時はシルバーのマーク2に乗っていたって」

「そうか」

 征矢野は淡々と語りだす。

「そうだ。それで事件が起こってしまった。俺は森の中から悲鳴を聞いて駆けつけたんだ。ただ、遅かった。みゆきちゃんはもう動いていなかった。一目見てわかったよ。俺は取り返しのつかないことをしてしまった。あの光景を忘れることはできない。間違えた公園に連れて行ったために、あんなことになるなんて」

「あんたのせいじゃない」

「いや、俺のせいだ。そして佐橋は言ったんだ。自分は悪くないと、騒ぐ子供が悪いんだと」

 今もって征矢野の怒りは収まっていない。

「あんた、言ったよな。人が人を殺す時の気持ちはどうだったって、怒りだよ。腹の底から湧き出るような怒りだよ。もう止められなかった。俺は佐橋を殴り殺した」

 真加部はじっと征矢野を見る。

「後はわかってるんだろ」

「車は北上して大森調節池で停まっていた。佐橋はあそこにいるんだろ」

「ああ、バイクごと沈めた」

「俺の仕事は佐橋の行方を探るだけだ。それだけだ」

 征矢野は笑う。

「俺は自首を考えたよ。だけど自首したところで何になるんだ。また、同じような犯罪が起きるかもしれない。まあ、詭弁だがな。こうして刑事を続けてしまった。ただね。どこかで事件が露呈すれば、それは神の意志だ。俺は素直にお縄につくつもりだった」

「神はあんたを許したんだ」

 征矢野は首を振る。

「目撃者は皆無だった。佐橋の死体を調整池まで運んで、さらにやつのバイクに乗ってそこまで運んだのにだ。誰も俺の姿を見なかっただと」

 征矢野は自嘲する。

「俺はどこかで楽になりたかった。やはり殺人は殺人だ。忘れたことは一度も無い。いつもあの時の青白い佐橋の顔を思い浮かべる。そんな時に西城からあんたを紹介された。まさかとは思ったが、本当に見つけてくれた。ありがとう」

 佐親野の頬に涙が流れる。「これで楽になれる」

「自首する必要はない」

「迷子になっていたみゆきちゃんを家まで送ったんだ。最初は驚いていたけど、段々となかよくなれた。家まで送っていったあの日のみゆきちゃんの笑顔を忘れられない。純粋な人間としての最高の笑顔だったよ」

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