証人
真加部は警視庁で見た資料から、事件の関係者、二名と面会する。
まずは当日、みゆきと犯人を見たという真行寺江名子である。現在も同じところに住んでいた。
東村山の自宅を訪ねる。
真行寺は現在61歳で、子育ても終わり、現在は夫婦のみで暮らしているそうだ。
茶の間に案内され、真加部からはお茶菓子を渡す。
「あの事件を忘れたことないのよ」
そう話す江名子は、今もって残念そうな顔をする。
「目撃者はあなただけだ。事情を聞かせてほしい」
「探偵さんなんだ」名刺を見ながら言う。「あら、社長さん」
「二人しかいないんだ」
「浮気調査とかもやるんでしょ?」
「まあな」このまま主導権を握られると話が終わらない。真加部が本題に入る。
「捜査資料によると、犯人らしき人物を見たとある」
「ああ、それね。でもはっきりしないのよ」
「後ろ姿だけだった」
「そうなのよ。後ろ姿の上にけっこう離れてたのよ」
「それでも犯人と思った?」
「みゆきちゃんはわかったから、後から報道で知ってあれが犯人だったと思ったわ」
「二人の後ろ姿を見たということだな」
「そう」
「ただ、服装についてはよくわからなかったとある」
「ただ、女の子はスカートだったの」
「なるほど、じゃあ、みゆきじゃないかもしれない」
「そうかもね、でもあの時間にあそこを歩いていたのは事実だから、間違いないと思ってる」
「犯人については何も覚えていないんだ」
「高校生だったのよね。でも制服じゃなかった気がする」
なるほど、証言があいまいで、資料にも記載がないわけがわかる。
真加部は思い出す。
「じゃあ、色はどうだった?服の色は青色じゃなかったか」
「青色?」真行寺はしばらく考える。「青色だったら覚えてると思うな。もっと普通の色だった気がする」
「なるほど」
真加部はここまでと判断する。これ以上、ここにいてもいい話は聞けそうにない。
次に同級生だった羽柴みどりを訪ねる。彼女は28歳。みゆきも生きていればこの歳になったのだ。
現在は都内のアパレル店で働いているそうで、会社終わりに新宿のスターバックスで会う。
なるほど、女性としては今が盛りなのかもしれない。顔立ちも小奇麗で、アパレルということもあってか、服装も真加部とは違う。流行りのワンピースである。スウェット上下の真加部とはまったく違う人種のようだ。
「みゆきちゃんにはかわいそうなことをしたと思ってる」
コーヒーを飲みながら話す。
「それはどうして?」
「あの子は道を間違えることが多かったんだって、あの日も道を間違えたんでしょ」
「公園のことか」
「そう、彼女の家まで、迎えに行けばよかったのよ」
真加部が資料を確認する。
「羽柴さんの家と横田さんの家は近かったんだな」
「そう、それと児童公園は私の家の近くだから、迎えに行って一緒に行けばよかった」
「そうだな。みゆきさんは方向音痴だったらしいな」
「それも後から聞いた。あの時は新一年生で友達になったばかりだから、まだ、よく知らなかったの」
「児童公園に行こうと言ったのは間違いないんだ?」
「そのつもりだったけど、公園としか言ってなかったかも。子供なんでそこまで気が付かなかったかな」
「二人は家が近かったから友達になったのかな」
「それもあったかな。一緒に登校するからね」
みどりはコーヒーに口をつける。真加部は児童公園が目的地だったことの確認は取れた。
「あと、何か思い出すことは無いかな。当時の思い出として」
みどりは遠くを見る目をする。そして首を振る。
「残念だけど。でも生きてれば同い年か、かわいそうな人生だったな」
「そうだな」
「当時もそう言った変質者は、けっこういたのよ。注意しなさいとはよく言われていた」
「変態ロリコン野郎だな」
「そうそう」そう言いながらみどりは何かを思い出す。
「今、思い出した。変態じゃないけど、親切なおじさんがいてね。私たちが迷子になってたら、助けてくれたのよ。そうだ。あれでみゆきちゃんとも仲良くなったんだ」
「親切なおじさんか、変態じゃなかったんだ」
「そうよ。だって」
その後のみどりの話で、真加部の推論は確信に変わった。




