作戦会議
探偵社のパクの部屋で、いつものように真加部とパクが作戦会議をしている。真加部がパクに頼んだ佐橋のデジタル捜索は不発に終わっていた。
来客用に買った、経費で落ちるお茶を飲みながら、真加部が言う。
「やっぱり難しいか」
「そうだな。特に特徴のある顔じゃない。どこにでもある顔だ。でっかいほくろがあるとか、顔に傷があるとか、身体的な特徴が無いとなると難しい」
確かに当時の佐橋の顔はどこにでもある顔で、とりわけ美男子でもないし、かといって驚くほど不細工ということでも無いのだ。だからこそ、事件が起きた時の目撃証言も少ないのかもしれない。
「目撃者に当たりたいんだが、もらった資料を見ても、はっきりしないんだ」
「ああ、阿礼に言われて警視庁のデータベースにアクセスしてみたけど、この時代の資料はまだ、電子化されていない。やっぱり依頼主には聞けないのか?」
「征矢野に聞いたんだけど、本庁の資料なんで難しいらしい。ましてや、やつはリタイヤしてるからな」
「西城は?」
「所轄の刑事だし、あの事件には関係ないから無理だって」
「冷たいな。でも困ったな」
「忍び込むか」真加部の目が光る。「パク、警視庁に入れるよな」
「ああ、入門証はあるぞ。前に使ったやつがある」
明らかに違法行為だ。
「仕方ない。それで行くか。それでさ、それとは別に事件当日の画像を何とかできないか」
「防犯カメラ画像は無いぞ。それとあってもそんな古いデータは消去されている」
「わかってる」
それでパクは気づく。
「阿礼は衛星画像を言ってるんだな」
真加部はうなずく。
「事件は2002年の5月か」
パクはパソコンをいじりだす。
「当然、アメリカの衛星はあるけど、データは隔離されてるから、見ることは困難だ。そうなると中国になるかな」
「あるのか?」
「中国は1999年から偵察衛星を打ち上げだした。2002年だと海洋シリーズだな。それとお誂え向きに、当該地には自衛隊と米軍基地が近い。可能性はあるな」
偵察衛星は軍事基地を中心に情報を集めている。
「精度はどのくらいかな」
「まだ、初めの頃だからな。車が捉えられるぐらいかな」
「バイクはどうかな」
「厳しいと思うな。でもやるだけやってみよう。昔の仲間に中国のシステムがどうなってるか確認してみる。昔のままだったらハッキングはいけると思うぞ」
「頼む。俺はこれから警視庁に潜入する」
パクはすでに一心不乱にパソコンに向かっている。




