聞き込み 横田美香
横田みゆきの母親、横田美香に連絡を取る。やはり過去の事件を思い出すことに躊躇があったが、真加部は犯人を見つけ出すためだと説得し、ようやく面会することができた。
事件の後に引っ越し、現在は神奈川県藤沢市にいる。
彼女の自宅マンションで会うこととなった。
8階建てのマンション、3LDKの大きめのリビングでソファに座って話をする。真加部は珍しく菓子折りを持ってきている。これも桑原に言われた効果が出ている。
コーヒーを出しながら美香が話す。
「もう、あきらめては、いるんです」
美香は今年で53歳のはずだ。ただ、斉藤同様に歳以上に老けて見える。しわや白髪も多い。これまでの不遇な人生が想像される。
「あれから23年も経つんですね」そう言って真加部をじっと見る。「あなたおいくつ?」
「23歳です」
「そうなの、若く見えるわね」そう言って遠くを見る目をする。「みゆきも生きてれば28歳か」
そう言うと目に涙をためる。いまだに心の傷は癒えていない。
「一通り事件の概要は確認した。ただ、あまりに目撃情報がないので、手掛かりがないんだ」
「そうね。そういう話だった」
「俺が色々考えると腑に落ちない点がある。当時の自宅から公園に行ったということなら、現場とは距離がある」
真加部が調べたところ、自宅から児童公園までは500mで住宅街を歩くことになる。そして殺害現場は、それよりも約1㎞も離れた緑地保護区域になる。どうやってそこまで行ったのだろうか、犯人が連れていったのなら、もっと目撃証言があるはずだし、さらに子供と言えでも危険を察知したはずだ。
「確かにそういうことは言われたんだけど、実際、あの子はちょっと方向音痴のところがあって、迷ったのかもしれない」
「ああ、そうなのか」
「ええ」
「友達と会う約束だった」
「児童公園で待ち合わせしたはずなんだけど、時間になっても来なかったらしいの」
真加部は資料を確認する。
「その友達はなんていう名前なのかな?」
「何って言ったかな。ちょうど新学期の初めで、友達になりたてってところだったみたい。名前はみどりちゃんと聞いた気がする」
真加部の資料には同級生としかない。
「本当に児童公園だったのかな」
「ああ、そうね。そこまでは気が付かなかった」
「緑地保護区の近くには弁天池公園がある。そこじゃなかったのかな」
「どうだろう、でも児童公園には行ったことがあったし、多分あそこだと思ってたな」
「みどりちゃんの連絡先はわからないよな」
「そうね。ちょっと難しいな」
「あと、目撃情報があって、男と歩いていたとある。後ろ姿でなおかつ遠くだったらしいけど」
美香はこの部分は思い出したくないのか、唇をかみしめる。真加部が確認する。
「割と人懐っこい子供だったのか?」
「そんなことはない。誰かについていくような。むしろ人見知りがある子だった」
「そうか」
真加部は、この事件には何か気付いていない、謎があるようには思っていた。やはり今の目撃証言者とみどりちゃんに確認するしかない。




