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聞き込み 斉藤和江

 征矢野から佐橋の写真を受領すると、パクに現在の推定画像を作らせる。それをもとに現在のネット情報から似た人物を検索させることにする。この作業は、これまでの人探しでも効果があった。ある程度の情報があれば、全く無意味ということでもなかったのだ。現在はネットに情報があふれている。

 最近の本人画像であれば割り出しは比較的、楽なのだが、何せ23年前からの推定画像である。検索は困難を極めていた。

 それとは別に、真加部は関係者から情報を集める。

 佐橋の親族は父親はすでに他界し、母親と姉が現存していた。母親に確認すると姉は勘弁してくれという。事件以来、マスコミや周囲の誹謗中傷でズタズタにされたそうだ。現地という条件で、自分が面会に応じるという。

 母親は離婚し、旧姓に戻っていた。斉藤和江という名で現在は茨城県古河市にいた。

 古河駅近くのファミレスで会うことになる。

 真加部にとっては自転車でも行ける距離なのだが、時間がもったいないので宇都宮線を使っていく。

 幹線道路沿いのファミレス入り口前に、斉藤和江が待っていた。現在は76歳だが、見た感じはもっと上に見える。彼女のこれまでの人生が思いやられる。

 昼時もあって店内はほぼ満席に近い状態だった。食べ物のいい香りがする。

 座ると斉藤が尋ねる。

「昼食、もらってもいいかな?」

 真加部はそういうことかと思う。今回の聞き込みで多少の謝礼は出そうと思っていたが、彼女にしてみれば、昼時の食事への期待があったことになる。

「いいよ。何でも食べて」

 斉藤はハンバーグランチとドリンクサービスを頼む。真加部は聞き取りがあるので、サンドイッチとドリンクにする。

「食べながらでいいから、話をきかせてくれ」

 料理が来て、ハンバーグをうまそうに食べている斉藤の顔が曇る。やはり思い出したくない話なのだろう。

「あれから23年だけどね。向こうの家族もズタズタにされたんだろうけど、うちも同じだよ。いまだに尾を引いてる」

 真加部が質問する形で色々な話をする。

「息子さんから連絡はないんだよね」

「一回もないね。でもいまだに警察から問い合わせがあるよ。いまさらこっちがかくまうとでも思ってるのかね」警察の部分は小声になる。

「どのくらいの頻度で?」

「さすがに今は年に一回ぐらいかな。最初は家の周りを張り込んでいたみたいだけど、それが半年ぐらいで無くなって、あとは頻繁に自宅訪問かな。姉ちゃんはそれで参ったみたいだよ。精神を病んじゃってね」

 佐橋が幼児性愛になった理由ははっきりとしないが、幼少期にいたずらされたことがあったようだ。それも見ず知らずの男だったらしい。そういうことは佐橋が幼女にいたずらをして、警察に捕まってわかってきたらしい。

 さらに小学校、中学といじめにあっていた。父親が昔ながらの鉄拳制裁を振るう人物でもあり、佐橋本人のうっぷんがたまっていた。

 高校に入った頃から、登校拒否に近い状態になった。バイトに使うという理由で原チャリを買ったぐらいから、生活も乱れて来て、そういった性犯罪が始まってきた。

 最初に表面化したのは佐橋が16歳の頃だった。立川の警察から電話があり、佐橋が幼女にいたずらをして捕まったという。母親が迎えに行き、本人も反省の意思を見せたので逮捕まではいかなかったが、それはあくまで氷山の一角だったようだ。

 母親は本人にそういった性癖があることは、まったく気づいていなかったという。母親への家庭内暴力もあり、佐橋の自室には入れなかったという。

 そして17歳になって、事件が起きる。

 その前にも事件を起こし、次にやったら少年院に行くことは決定的だった。

 佐橋家は共働きで、事件当日も佐橋の行動には気づかなかった。夜になっても帰って来ないため、気にはしていたらしい。ただ、これまでも無断外泊もあり、また、同じようなことだと思っていた。

 翌日になって警察が訪ねてきた。佐橋の居場所を教えてくれという。それで何かが起きたとわかった。

 しばらくして女の子が殺されたと聞く。逮捕状が出され、家宅捜索や聞き取りなどが続けられ、佐橋家は崩壊していく。姉は病気になり、夫婦も3年後に離婚する。斉藤和江になってからは地元を捨てて、各地を転々としたらしい。

「母親失格なんだけど、どうしようもなかった」

「佐橋がどこに行ったかは、見当もつかないということか?」

「警察にも何回も聞かれたけどね。実際、普段あの子がどこに行ってたのか、全く知らなかったからね」

 母親は食後のコーヒーをすする。

「息子さんに特徴というか、癖みたいなものはなかったか?」

「癖?」母親は少し考える。「いや、特に癖はなかったかな」そういって過去を振り返るような顔をする。

「ただ、気の小さい子でね。私に暴力は振るうんだけど、どこか気を遣うようなところもあった気がする。だから、よっぽど少年院に行くのがいやだったのかもしれないね」

「ああなって逃げたのもわかるんだな」

 母親はまた考え込む。

「自首してほしかったけどね」

「当時だったら、刑罰の対象じゃなかったかもしれない。今は少年法が改正されて、16歳以上でも厳罰化されたけど」

「どこにいるんだか」

 真加部は母親をじっと観察し続けていた。そして彼女には嘘がないと思う。

「佐橋の当日の格好はわかるか?」

「服装か」真加部はうなずく。

「大体、トレーナーにGパンだったね」

「色は?」

「青が多かったかな。青が好きみたいでバイクも青色だったね」

「事件前後に起きたことで、何か覚えていることはあるか?なんでもいいんだ」

「事件前後」母親はじっと考える。「いや、同じことを何回も聞かれたけど、何もないよ」

「そうか、わかった。色々ありがとう」

 真加部はそういうとリュックから封筒を出す。

「これ、謝礼だ」

 母親はびっくりする。ただ、素直に封筒を受け取る。中身を見て言う。

「ありがとね。生活保護でね。満足に欲しいものも買えないんだ」

「そうか、元気でな」

 そう言うと真加部は席を立つ。レジで勘定を済ませ、席を見ると母親が手招きしている。

 何事かと真加部が戻ると話し出した。

「そう言えば、あの時期はよくあそこら辺には行ってたみたいだったよ。多摩湖とか緑が多いだろ、気に入ったのかね。つまらない話でごめんね」

「いや、大丈夫だ。何がヒントになるかわからないからな」

 真加部はこれで面会を終え、帰途につく。

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