表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/130

追跡

 それから三日後、しおりから連絡が入る。旦那が急遽、休日出勤になったと言う。

 二宮家は高津駅最寄りのマンションに住んでいる。住宅街にある7階建てのマンションで、おそらく築20年近いのではないか、結婚を機に中古物件を購入したというところか。

 多摩川が近いせいか清々しい風が吹く。マンションからは200mほど離れた場所で、真加部が待機していた。

 今日の彼女は浮気調査などでは必需品である、一眼レフカメラと望遠レンズを装備している。カメラはキャノンのEOS KISS10と望遠レンズとしてEF1200㎜。こちらは真加部探偵社の高額備品となる。

 入口に二宮徳則が現れた。スーツ姿で、写真で見るよりもがっちりとした体格である。あの感じから言うとスポーツでもやっていたようだ。それなりに美男子といえる顔立ちである。なるほど、あの顔で浮気してるのか。

 そして真加部はすぐに気づく。なるほど、これまで他の探偵社が失敗するわけだ。同業者じゃん。

 徳則は周囲を注意深く観察して、尾行者がいないことを確認している。日本データバンク勤務なので、もしやと思ったが、彼の仕事は調査担当なのだろう。

 企業の調査会社においても、探偵に近い業務はある。調査営業職と言って、調査を依頼された企業の実態を、より正確に把握するために、調査員が派遣される。

 真加部は、より一層注意深く尾行を続ける必要がある。そしてパクに連絡を入れる。

「パク、ターゲットは同業者だ。まかれる可能性がある。そっちでフォローしてくれ」

『了解、阿礼のポイントから推測するから、ターゲットの位置を教えてくれ』

「わかった。今は道路沿いに200m先を駅に向かっている」

『いはえ』

 パクはこういう時は朝鮮語になる。本気モードだ。阿礼の位置はGPSで特定可能だ。それによって周囲の防犯カメラを使って追従を試みることになる。市街地では困難だが、駅構内などは、ハッキングすればなんとか確認できるはずだ。パクはそういった技能を持っている。

 徳則は自宅最寄りの田園都市線高津駅から電車に乗る。

 真加部はターゲットの異常なまでの用心深さにさらに驚く。なるほど、2社の探偵社が音を上げるはずだ。相手はプロ中のプロだ。真加部も尾行術については文伍から叩き込まれていた。真加部の技能は世界の諜報員と比較してもそん色ないはずなのだが、徳則も同じぐらいの技量を持っている。これは一塊の調査員の動きではない。

 できれば近寄って、GPS装置を取り付けたいとも思っていたが、とてもそんな隙はない。離れたままターゲットの捕捉だけに集中する。

 徳則は会社に向かうルートで移動を続けていくようだ。渋谷駅で降りると地下鉄ではなく、歩く。会社は青山にあるので、歩ける距離ではある。

 徳則は急ぎ足で歩いたと思ったら、唐突に止まったり、また、走り出したりする。そしてその都度、周囲を警戒している。傍から見たら異常者に見える動きだ。

 真加部も離れた位置でさりげない動きを繰り返す。ただ、通常とはありえないほどの遠距離で、ターゲットを見失いそうになる。

 そして徳則は明治公園に入って行く。なるほど、これで万事休すだ。ここは見通しが良く。尾行者がいれば、すぐにわかってしまう。それでなくとも高津駅からずっと尾行を続けている訳で、少なくとも何らかの認識はされている可能性が高い。そんなところにのこのこと入って行けばすぐにばれてしまう。恐るべき能力と浮気したい欲求の高さだろう。

 ただ、徳則は南に向かっている。遠回りすればいいのだ。真加部は周回道路を一目散に走りだす。そしてその早さがありえない。ジョギングウェアを着て、颯爽と走るランナーたちの倍の速度で走っていく。いっぱしのランナーがジャケットとパンツ姿の小柄な女に見事に追い抜かれていくのだ。

 徳則が公園を抜ける直前には、出口が見える位置に待機できた。

 パクが言う。『阿礼、ターゲットは会社に向かってるぞ』

 確かにそうなのだ。青山にある会社の方向に進んでいる。再び尾行を続ける。

 そして何のことは無い。徳則は巨大な日本データバンクのビルに入って行くではないか。

 まじか、ほんとに休日出勤なのか。

「パク、社内の防犯カメラにアクセスできるか」

『もうやってるよ』

 さすがパク。しばらく本社前で隠れて待っていると、パクから連絡が入る。

『阿礼、ターゲットは会社から出て行った。裏口からだ。早く追っかけろ』

 なんという用意周到さなのだろう、これも尾行をまくテクニックなのだろうか、これほどまでに用心深い人間を初めてみた気がする。

 なんとか裏口まで到達するが、徳則の姿は見えなくなっていた。

 真加部はそれとなく、周囲を捜索してみるが、影も形も無くなっていた。やられた。

「パク、どこに行ったか分かるか?」

『さっきから探ってるんだが、見当たらない』

 真加部はその後もしばらく付近を探してみるが、徳則を見つけることはできなかった。完全な敗北である。

 出直しか、と思うが、それでもあきらめきれずに、付近のホテル周辺を当たってみる。警察官に扮して聞き込みの要領で徳則を探すが、見つからない。ちなみにこれは違法行為である。

 もはやこれまでと、探偵社に戻ろうとしたところで、思わぬ人間を発見する。

 なんであいつがこんなところにいるんだろう、と興味本位で追跡してみる。徳則と比較すると実に安直に尾行が可能だ。こんなんで大丈夫なのかと思うが、あっさりと続けられた。

 そして付近のカフェに入って行く。離れた場所から望遠カメラで確認すると、驚くことに探していたターゲット、徳則と共に、二人がそこにいたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ