エピローグ
阿礼が塩野夫婦にデュークを返しに行く。
自宅の居間の脇に大きなケージがあり、デュークはその中で生活しているという。
今はそこに寝そべってどこかほっとしているようだ。
夫婦に結果を話すと塩野が言う。
「役にたったみたいだな」
「ああ、実によくしつけられたいい犬だ」
奥さんも追従する。
「そうなのよね。優等生って感じで、とにかくおとなしいのよ」
「もう少し犬らしくはしゃいでほしいんだけどな」
阿礼が由比から聞いた話をする。
「この前、デュークが元気がないって言ってたよな」
「ああ、そうなんだ」
「犬は匂いに敏感なんだ。特にこの犬種は敏感だ。さらにその中でもデュークは桁違いに優れている」
塩野は黙って聞いている。
「犬の嗅覚は人間の10万倍だって言う。それと犬はたいてい煙草の匂いが嫌いだ」
塩野があっという顔になる。
奥さんも何か気付く。
「ひょっとしてあなた、まだ吸ってるの?」
塩野は頭をかきながら「ごめん」と言った。
「止めてたんだが、散歩のときについ一本とか吸ってた」
「もう、定年と同時に止めたんじゃないの」
奥さんは困り顔になる。
「犬には嫌な匂いなんだな。デュークはやめて欲しいみたいだ」
「そうか、まいったな」そういって塩野はデュークを見る。
「デューク、ごめんな。もうきっぱりやめるよ」
デュークは眠そうに欠伸をした。




