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二宮しおり

私立探偵真加部阿礼も第3章になりました。ここにきて登場人物たちが勝手に動き出しました。なかなか楽しい感じです。

探偵の主な仕事には調査業務がある。いや、それどころか、地味な調査がほとんどと言ってもいいかもしれない。この物語を読んでいる人に探偵業を生業とされている方がおられるならば、いやいや、こんな話あり得ないという声が聞こえてきそうだった。

あにはからんや、実際、真加部阿礼探偵社はそう言う仕事もしているのだ。今回はそういった話になる。

 調査を具体的に言うならば身上調査がある。企業から入社予定の人間の素行調査を依頼されたり、結婚間近の相手の過去を調査するなどがそれにあたる。そしてそれよりも多いのが浮気調査であり、探偵にとってはもっとも主要な業務とも言える。実に探偵業の70~80%が浮気調査なのだ。

 一般の探偵社では、複数人がターゲットの尾行を行い、現場での証跡確保を行う。よくあるホテルの利用有無の証拠写真などである。それを元に依頼者は離婚訴訟などを起こすことが可能となり、慰謝料の請求などが出来る。それ故、弁護士事務所と探偵社は密接な関係にある。弁護士事務所からの依頼で探偵が調査を行うことも、ままあることである。

 真加部探偵社は従業員に女性しかおらず、女性からの依頼が多い傾向がある。女同士で頼みやすいという面もあるようだ。

 調査費用は探偵社によってまちまちで、場合によっては必要経費が高くつき、想定を超える金額を請求されることもある。依頼前にしっかりと見積もりを取ることが重要であり、さらに意味不明な経費請求が無いように、釘をさすことも必要だ。その点、真加部探偵社は見積金額を超えることは無い。むしろ、見積よりも安くなることの方が多い。実工数で費用請求を行うのだ。

 今日もそんな依頼から物語は始まる。


 探偵社の応接ソファの上座に真加部阿礼が座っている。そして反対側に座るのは20歳後半の女性である。顔には疲労感が出ており、息苦しそうな印象も受ける。

 真加部が話す。

「ご主人が浮気をしていると言うんだな」

「そうです」

 その主人の名は二宮徳則。名前からすると浮気しそうもない徳の高い名なのだが、実際は違うらしい。勤め先は日本データバンクという調査会社としては超一流の企業だ。年齢は32歳。顔写真を見ても実直そうで浮気などしそうにない。

 そして依頼人はその伴侶、二宮しおり27歳、現在妊娠5カ月とのことである。

「疑う理由は、残業や休日出勤が多いという点か」

「それもありますが、出勤と言っていたのに会社に連絡したら、今日は出勤していないとか、勤務実態と本人の話が違っていることが多いんです」

 真加部はうなずく。まあ、浮気の場合、こういった事象は多い。

「結婚3年が過ぎたところか」

「はい、4年目になります」

 よく言われるのは、男女の恋愛期間として3年が限界という。これを過ぎるとお互い新鮮味が無くなり、飽きが来るとでもいうのだろうか、別に目が行くようだ。もちろん人による。あくまで一般論である。また、妻の妊娠中にも浮気の頻度はあがるようだ。理由はあえて言わない。

「気のせいってことはない?」

 しおりは少し躊躇する。しかし話すことが必要と思ったようだ。

「実は以前も浮気したことがあったんです」

「あ、そうなんだ」

「結婚して半年ぐらいですか、その時は相手の女性から電話があって、別れてくれって」

「マジ?」

「主人を問いただしたら、勘違いだって言うんですけど、相手からするとそんなことは無いってなって」

「どうなった?」

「主人の友人も交えて、なんとか示談にしたみたいです」

「そうか。大変だったな」

「そうなんです」

 その時を思い出したのか、増々つらそうな顔になる。

 真加部は話を戻す。「でも、この依頼であれば簡単に調査は出来る」

 しおりは少し心配そうな顔になる。

「大丈夫でしょうか?」

「えーと、何かある?」

「実はこれまでも依頼をしたんです」

「えっと、うち以外の探偵社に頼んだってこと?」

「そうです。もう2社に依頼しました」

 2社とは尋常ではない。どういうことか。

「上手くいかなかった?」

「そうなんです。結局、浮気の事実は無いと言われました」

「どういうこと?」

「調査期間中に、そういう事実を掴めなかったと言われました」

「それは探偵社の責任じゃないの。見つけられなかっただけだろ。それでお金はどうなった?」

「見積り通り請求されました」

「それはひどいな。でもどうしてなんだろな。実際、何もなかったってことじゃないの?」

「それはありえません。実際、主人の口座から、お金が減ってるんです」

「使途不明金ってやつか。いくらぐらい?」

「毎月、数万単位では減っています」

「家の口座と旦那の口座は別なんだ」

「家計用と個人用に分けてるんです。主人は自分の小遣いをその口座に入れています」

「でも、よくわかったな」

「私は元銀行員でそういう仕組みには詳しいんです」

 なるほど、影でへそくりもできないのか。

「頼んだ探偵社には旦那が浮気しそうな時間を連絡したんだろ?」

「そうです。あらかじめ休日出勤や残業になることを知らせました」

「なるほど、それでもだめだったのか」

「はい」

「ふーん、わかった」ここで真加部は真顔になる。「真加部探偵社は100%の成功率だ。浮気の事実があれば間違いなく証拠をつかむ」

「ええ、ホームページで見ました」パクが作ったホームページの威力は絶大だなと真加部はほくそ笑む。「ああ、それで、『マカアレ』におまかせあれっ、てありましたけど、『マカアレ』って何ですか?」

 やっぱりそう来たか。

「そうなんだよな。いみふだよな。いや、実はホームページ担当者が、今時は短縮形で表現するもんだって言ってさ。まかべあれいを取ってマカアレって書いたんだ。俺もわかんないだろって言ったんだ」

「ああ、まかべあれいで、マカアレですか」

「そう、今は何でも4文字に短縮するだろ、タレントやバンド名なんかもそうするって言ってさ」

「なるほど、そういうことですか」

 真加部は苦笑いする。

「それで費用は10万円でいいかな」

「はい、大丈夫です」

「それ以上は取らないし、もし工数が下回ったらそれ以下の請求になるから」

「そうですか」

「見積書は後から送る」

「はい、わかりました」

「ご主人が出かけそうになったら連絡くれるかな。動くから」

「はい、わかりました」


 依頼主が帰ってから、パクが顔を出す。

「パク、やっぱマカアレってイミフだぞ」

「阿礼、何事もすぐって訳にはいかないんだ。そういう愛称は世間に徐々に浸透していくもんだ」

「そうかな」真加部は信じていない。

「それにしても浮気調査ばっかりだな。日本人は浮気ばかりしているのか?」

「大体、夫婦の3割が浮気しているって調査結果が出てるしな。まあ、本当のことを話すわけじゃないからもっと多いんだろう」

「何か、結婚に幻滅するな」

「パクは大丈夫だ」

「どういう意味だ」

「相手がいない」

 パクは怒って部屋に引っ込んでしまった。

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