チャッピー捜索
佐橋家の玄関先で母親と悠馬が待っているところに、阿礼がリードを持ってデュークを連れて来た。
警察犬でもあり十分な訓練を積んでいるので、デュークは阿礼にしっかりと従う。普通の飼い犬のように自分勝手に動き回ることもせず、阿礼が歩くのに合わせてついてくる。その動きたるや盲導犬にしてもいいぐらいだ。
悠馬がデュークに関心を示す。
「大きな犬だな」
そういってデュークをなでる。デュークはうれしいのか尻尾を振る。ただ、はしゃいだりはしない。
「この犬は爺さんなのか?顔がたるんでる」
「爺さんだけど、顔は元からみたいだ」
悠馬の後ろで母親は心配そうにしている。
阿礼が話す。
「これから捜索する。猫の匂いをデュークに嗅がせる。何かあるか?」
悠馬が母親を見ながら、持っていたものを出してくる。
「このボールが好きでよく遊んでたんだ」
毛玉のような布製のボールだ。テニスボールぐらいの大きさだった。
阿礼はそれを受け取ると、デュークに指示する。
「いいか、デューク、この匂いだ。よく嗅ぐんだぞ」
デュークはその毛玉の匂いを熱心に嗅ぐ。
母親が阿礼に話す。
「大丈夫ですか?」
「ベテランの追跡犬だから、大丈夫だ。これまでも捜索に使われて何度も表彰されている」
デュークが嗅ぐのを止めた。
「よし、デューク、さがせ!」
デュークが地面を嗅ぐ。そして玄関の方に向かっていく。
「ああ、デューク、そっちじゃない。家に匂いがあるのは当たり前だ」
止められたデュークは阿礼を見上げて、戸惑っている。上目遣いで阿礼を見て、だって、こっちに匂いがあるんだから、とでも言いたげだ。
悠馬が言う。
「デューク、外に行くんだよ。チャッピーが行った方に行くんだ」
母親は増々心配そうな顔になる。
阿礼が言う。
「デューク、家じゃない。外の方の匂いだ」
デュークは迷っている様だ。そこを動かない。相変わらず阿礼を上目遣いに見ている。
「仕方ないな。少しここから離れてから捜索するか」
阿礼がデュークを連れて家から離れる。
悠馬が母親に言う。
「僕も行く」
「悠馬、無理しちゃだめよ」
大丈夫と言って、悠馬も付いて来る。
デュークは名残惜しそうに、後ろを見ながら阿礼と歩いて行く。
佐橋家から100mぐらい離れた場所から、再びデュークに『さがせ』と散策をさせる。
デュークは地面を嗅ぐとやはり戻ろうとする。
「デューク、家に匂いがあるのは当たり前なんだ。猫が逃げて行ったかすかな匂いを感じないかな」
デュークは恨めしそうな顔で阿礼を見る。
悠馬が言う。
「やっぱりボケてるんじゃないの?」
「そんなはずはないんだがな。もう少しいろいろ回るか」
そう言うと自宅からさらに離れて、周辺を回っていく。




