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私立探偵 真加部阿礼  作者: 春原 恵志
ボディガード シーズン2
109/142

決行

 さかのぼること前日の午前2時半。

 ジラワットと阿礼がいるホテルミラコスタ6階のスイートルーム。

 本来であれば、リビングからはランド周辺の夜景がきれいに見えるはずだが、カーテンがひかれ、外はほぼ見えない。さらに室内の灯りは極力消されており、薄暗くなっている。

 ジラワットは遊び過ぎて疲れたのか、熟睡していた。ベッドで静かに寝息を立てている。

 真加部阿礼はリビングのソファに座り、仮眠中だった。

 今の薄暗い環境は阿礼が指示したものだ。近傍から狙撃されないためのカーテン、照明をやめたのは、外から室内が見えないように配慮したのだ。


 扉の向こうで小さな物音が聞こえた。阿礼の目が開く。

 ゆっくりと入口脇にあるレストルームまで移動する。そこは入り口からは死角になる。

 少し待つと音もなく扉が開く。従業員の衣装を着た女がゆっくりと入ってくる。さらにその後ろからは2名の男たちが続く。

 彼らは周囲を警戒しながら、ベッドルームに向かっている。

 先ほど阿礼が入ったレストルーム付近を何事もなく通り過ぎる。女はそこに誰もいないことを確認した。そしてさらに進んで行く。男たちも続く。そして3人目がその場所を通り過ぎた瞬間、後頭部に強烈な蹴りが入った。一発で男がのびる。

 レストルーム入り口脇に阿礼がいた。

 前にいた男が振り返るが、阿礼を認識することもできなかった。顔面急所に正拳突きが入った。これまた一発でのびた。

 手前にいた女が血相を変えて、阿礼に向かって来る。手にはスタンガンが握られていた。ただ、阿礼の敵ではない。一瞬でスタンガンが天井まで蹴り飛ばされる。続いて回し蹴りが側頭部を直撃する。女はそのまま倒れこみそうになる。阿礼は素早くそれをそっと右手で抱くようにし、上に上がったスタンガンを左手で受ける。そのままゆっくりと女を寝かせた。

 あっという間に3人がのされていた。

 阿礼は入り口から外に出る。廊下にボディガードたちが倒れていた。死亡を確認すると一人づつ室内に運び入れる。

 スイートルームに3体の気絶者と2名の死体が残った。

 阿礼はベッドルームに急ぐ。そうしてジラワットをゆっくりと起こす。眠そうな顔でジラワットが目をこする。

「え、もう朝?」

「ジラワット、チャンスだぞ。このままいくぞ」

 ジラワットはまだ眠っているのか、ぼんやりとしている。

「姫に会いに行くんだろ?」

 それではっきりと目覚める。

「え、いいの?」

「ああ、大丈夫だ。行くぞ。スマホは置いていけ」

 ジラワットが急いで着替える。

 阿礼を先頭にジラワットがスイートルームから出て行く。

 エレベータに乗ると2階で降りる。フロントロビーを通らず、そのまま裏手に回る。

 ブライダルサローネに向かう通路途中でジラワットに言う。

「ここから飛び降りるから俺の背中に捕まれ」

 ジラワットは目を丸くする。明らかに尻込みしている。

「大丈夫だ。俺を信じろ」

 ジラワットはうなずくと、阿礼の背中にしがみつく。

「首に手を回すんだ。けっして離すなよ。それと叫んだら駄目だぞ。出来るな」

「出来る」

 ジラワットが阿礼の首に手を回す。

 阿礼はジラワットをおんぶしながら、窓から外に飛び出した。

 ジラワットは目をつぶって必死にしがみつく。ただ、阿礼は何の衝撃もなく、地面に到達する。

「よし、大丈夫だ。行くぞ」

 ジラワットは到着した実感がない。それぐらい衝撃が無かった。

 阿礼はジラワットを降ろすと二人で夜に紛れていく。

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