アナン
ホテル内のアナンの部屋では西園寺と川谷、そして探偵社の人間が彼のノートパソコンを見ている。
探偵はどこか堅気には見えない。白髪頭だが40歳代と思えるその探偵が話す。
「ホテルの廊下側の防犯カメラ画像です」
ホテル側に警察だと嘘を言って、防犯カメラ画像を入手したようだ。
時刻は深夜2時半である。
スイート前に二人のボディガードが待機している。交代で仮眠しているのだろうか、一人は座り込んでいる。立っているのは大柄な元ボクサーだ。
そこにホテルの制服を着た女性らしき人物が歩いて来る。後ろ姿なので女性らしきとなる。ボディガードの前を会釈しながら通り過ぎた瞬間に、いきなりスタンガンのようなものを突きつける。あっという間だった。それでボクサーは倒れこむ。座っていたムエタイも気が付くのだが為す術もなく、同じようにスタンガンで倒される。
「やられたな…」
西園寺の声で探偵が振り返る。
「問題はこの後です」
3人ともに画面に集中する。
制服の女の後ろから同じく制服を着た2名の男たちが現れた。彼らも身構えている。
制服の女性がドアを解錠しようとすると、突然画面が途切れた。
「え、どういうことだ?」西園寺が言う。
探偵が答える。
「おかしなことに以降の画像が無くなってます。ホテル側が削除したのか、あるいは奴らが…」
「いや、おかしいだろ、だったら最初から削除するだろうが…」
「はい、確かにそうなんですが、ホテル側の操作ミスなのかもしれません。とにかくこの後の映像が10分程度削除されています」
「10分間だけか、それ以降の映像はどうなってる?」
「今と同じです。扉の前には誰も居ません。それが続いていきます」
「ボディガードをスイート室内に運んだということか」
「そうなりますね。入り口前からいなくなっていますから」
「坊ちゃんはさらわれたのか?」
「それは間違いないでしょう」
西園寺は頭を抱える。アナンが質問する。
「阿礼はどうなったんだ?」
「真加部阿礼ですか?」探偵が驚く。
西園寺が探偵に聞く。
「阿礼を知ってるのか?」
「ええ、同業者ですから、あいつがいたのか。でもいなくなってますね」
「阿礼ごとさらわれたのか」
「そうだと思います」
「他の防犯カメラはどうなんだ。何か映ってないのか?」
「ホテル周辺の防犯カメラも当ってるところです。そっちの方は時間がかかります。すみませんが今のところは何もわかっていません」
アナンが西園寺を睨む。西園寺が気まずそうに答える。
「今、うちの組が総出で坊ちゃんの行方を探してます」
「当てはあるのか?坊ちゃんのスマホは部屋にあったんだよな」
「そうです」
「阿礼のスマホはどうなってる?連絡したのか?」
「つながらないです」
八方ふさがりだ。西園寺は探偵に当る。
「早く情報を掴め。警察でもなんでも利用しろ」
「わかってます。うちも総出で探してますから」
アナンが時計を確認する。
「ボスに連絡しないとならないな。遅くとも昼までに何とかしろ」
探偵がうなずく。
「わかりました」
探偵はそう言ったのだが、あてがあるとは思えない。




