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私立探偵 真加部阿礼  作者: 春原 恵志
ボディガード シーズン2
105/130

組織の実情

 ジラワットと阿礼はまるで姉弟のようになる。

 ジラワットは阿礼にべったりとくっつく。阿礼もそんなジラワットを面倒くさがらずに相手をする。初めて見た人間は彼らが肉親だと言っても疑わない、そんな状態だった。楽しそうに笑いあう姿はまさに姉弟そのものだった。

 午後からはランドで遊びに興じる。

 お付きの男どもは少し離れたところから見守るのだが、それにはお構いなしに二人は飛び回る。それを反社が追いかける。外から見ると、いたいけな子供たち二人をいかがわしい男どもが追いかけまわしているようにも見える。そんな図式だ。

 初日は半日、そして翌日には朝から夜までランドを満喫する。

 ホテルの食事はスイートルームでルームサービスである。なるべく人目に付けたくないというよりも警備対策である。いつ襲われるかわからないのだ。用心に越したことは無い。

 部屋では二人がきゃっきゃっと騒いでいる。元々、いい意味で阿礼自体が子供のような大人なのだ。ジラワットのボディガードたちは、部屋の外で警護に当たっているが、中ではお構いなしに大騒ぎの声が聞こえる。


 二日目のお供を終えたアナンと西園寺がホテルのラウンジで酒を飲んでいた。お互い、組織の中堅と言う立場で何かと話は合う。

 窓から見える夢の国の景色は、違う世界に生きている男たちにも同じように輝きかける。

「無事、二日目を終えましたね」

 西園寺とアナンがグラスを合わせる。

 アナンがニヒルに笑う。

「それにしてもあの真加部とか言う女、とんでもない奴だな」

「ああ、お気に触りましたか?」

「いや、そうじゃない。うちでも調べた。あの女、タイでもそれなりに活躍していた。組織の中でも知ってる人間がいたよ。元傭兵組織にいたそうだな。あいつはモンスターだとよ」

「そうですか…、俺もよくは知らなかったんですが、うちの若い連中は同じ感想を言ってましたよ」

「まあ、こっちとしてはありがたい限りだ。子供の行くところは俺たちじゃ都合が悪かったからな。ただ、警護は必要だ。まさに理想のボディガードだな」

「坊ちゃんも懐いたようで」

 アナンはグラスの氷を揺らす。

「あの子はかわいそうな子なんだ。母親を知らない」

「そうなんですか」

「ボスの愛人の子供なんだよ。あの子が生まれてすぐに事件に巻き込まれちまった。それでお陀仏さ。ボスを狙ったようなんだが、運悪く彼女が死んじまった。話によるとボスをかばって死んだようだ。まあ、それもあってボスはあの子がかわいい」

「そうですか」

「アームと言う女でな。タイ語で太陽って意味なんだが、まさにそんな女だったよ」

「ジラワット坊ちゃんは母親の記憶がないんですか?」

「ああ、生まれてすぐに亡くなったからな」

「それはかわいそうだ」

「家政婦や家庭教師は付けたが、肉親とは違うからな」

「そうですね」

「それでも母親の血筋なのか、ジラワットはいい子に育ってる」

 西園寺はうなずく。

「ボスはどうなさってるんですか?」

「組織も色々と大変でな。今、新しい販路を開拓中なんだ。あんたのところにもブツを納めてるだろう」

「はい、お世話になってます」

「組織も大きくなってきた。組織を維持するにはもっと金が必要だ。ボスももう60歳を越えて、近い将来跡目が必要だ。なんとかジラワット坊ちゃんが一人前になるまでは現役でいたいみたいだ」

「他のお子さんとは折り合いが悪いんですか?」

「まあな。二人ともに欲深い。今でも十分に稼いでるはずなんだが、さらに事業を広げたいらしい…」

 そう言うとアナンは少し躊躇する。これ以上、話すと差しさわりが出るとでも思ったのだろうか。それでもボソボソと話す。

「ボスは古い人間なんだ。日本にもあるだろう、タイではブンクンと言うんだが、人間関係を築く上ではお互いの信頼関係だとか、過去からの縁というのかな。そういったものを重んじるんだ」

「ああ、日本では義理人情っていいますね」

「仏教思想から来てると思うんだが、そういう考え方な。上のお子さんたちにはそれが無いみたいだ」

「なるほど、わかります」

「なんとか収まって欲しいんだけどな」

「そういう意味ではよく日本旅行を許しましたね」

「反対したんだが。坊ちゃんがどうしてもって言うんでな。ボスもジラワット坊ちゃんには弱いんだ」

「そうですか」

「よろしく頼む」

「はい、もちろんです」


 そして翌朝になる。

 部屋で寝ていた西園寺がスマホの呼び出し音で目覚める。

 まだ、5時前だ。表示名はアナンだった。西園寺はこんな朝早く何事かと身構える。

「はい、西園寺です」

『西園寺、悪いが頼みがある』

「何ですか?」

『スイートに来てくれ』

「わかりました」

 朝から冷や汗が出る。スイートということはジラワットに何かあったに違いない。

 西園寺は急ぐ。

 スイートルームの前でアナンが憂鬱そうな顔で立っていた。

「どうしました?」

 アナンが黙って部屋に入る。

 部屋の入り口付近にボディガードが二人とも倒れていた。

 西園寺が確認すると二人ともに息が無い。

 アナンが首を振る。

「やられたみたいだ」

「どうやって?」

「スタンガンか何かで意識を失わせて、あとは毒殺だろう」

 西園寺が遺体を確認する。首にスタンガンの跡がある。屈強な男二人が完全に死んでいた。

「それで坊ちゃんは?」

 アナンが首を振る。

「さらわれた?真加部は?」

「真加部もいない」

「くっそー」

「とりあえず、坊ちゃんを探さないと、それとここを処理してくれ。このままはまずい。後はこれからだ」

「わかりました」

 西園寺が組の関係者に電話をかける。この場の収集が最優先だ。

 ひと段落着いた西園寺にアナンが聞く。

「西園寺のほうで調査できないか?襲撃犯を探さないと、俺たちが動くのはまずい」

「はい、うちの関係の探偵社に当らせます」

「急いでくれ。坊ちゃんに何かあったら俺の首、いや、あんたらもまずいかもしれない」

「わかりました」

 西園寺は急ぎ探偵社を手配する。

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