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私立探偵 真加部阿礼  作者: 春原 恵志
ボディガード シーズン2
104/130

スパーリング

 従業員用の駐車場だろうか、バレーコート2面分ぐらいのスペースがある。ホテルのフロント係が案内する。

 お客相手に文句は言えないのだろうが、明らかに反社っぽい宿泊客である。だが、明確にそうだと決めつけるわけにはいかない。少し運動したいと言われ、なおかつ迷惑料ももらった手前、案内するしかない。

「30分だけですよ」

 西園寺が答える。

「ああ、大丈夫だ」

 それで従業員は下がっていく。

 プロレスラー並みの男たちが、嬉しそうにそのスペースを歩いて行く。

 その後からアナンと阿礼が続く。そしてその後からジラワットがちょこちょこついて来る。ジラワットは来ないようにとアナンが言ったのだが、どうしてもと駄々をこねた。それで仕方なく参加している。阿礼が平然としているのに対し、ジラワットは増々青ざめている。

 プロレスラーのような男たちが、ウォーミングアップを始めている。数分間の運動で十分あったまったのか、アナンが男を呼ぶ。

「プラチャー」

 まずは大柄な男が出てくる。彼が元ボクサーなのか、今や見る影もなく太ってしまっている。ありていに言うと弛緩した身体だ。

 阿礼も簡単なアップをしていた。ただ、それはこれからジョギングでもしそうな動きだった。

 プラチャーが指でOKサインを出す。

 それを見たアナンがスタートと開始を告げる。

 ただ阿礼は茫然と立っている。

 それを見たプラチャーは女が怖気づいたと思ったか、笑いながら近寄ってくる。なにせ相手は高校生のようなちび女だ。

 プラチャーが彼なりに素早く、阿礼を捕まえたと思った瞬間、なぜか後ろ向きに転倒してしまう。プラチャー自身はそれが何故起きたのかわかっていない。

 実は阿礼が足技を掛けたのだ。それがあまりに早く、ここにいた誰もがそれに気づかないぐらいだった。技は柔道の足払いだ。これは相手の軸足に体重が乗った瞬間に払う。決まれば小さな力でも相手は倒れる。ましてや無警戒に近い状態だともろに決まる。

 次に阿礼は倒れたプラチャーの延髄に回し蹴りを食らわす。まさに電光石火である。

 バンっと大きな音がしてプラチャーは気絶した。

 この光景を見ていた全員が呆気に取られる。ジラワットは何が起こったのか理解できない。それほどあっという間だった。

 ジラワットがアナンに質問している。なにがどうなったか不思議で仕方ないのだ。アナンはそれに構わず、もう一人に指示する。

「ペット、気をつけろ」

 ムエタイの達人はすでに最大限の警戒をしている。相手は素人ではないのがわかったのだ。

 ゆっくりと確実に阿礼に近づいて来る。ただ、阿礼はやはり平然と立っている。

 ペットは間合いを詰める。ムエタイは八肢の技と呼ばれるように、拳だけでなく全身を武器として使う。

 ペットはまずはボクシングのようにパンチを出していく。最終的には組技まで持っていくつもりだ。小柄な女性である。最後は組技で仕留める算段だった。

 ただ、阿礼は簡単にパンチをかわす。それはペットにとっては阿礼が消えたように見える。それほどその動きは早い。

 パンチがヒットしないのに、じれたペットがローキックを出す。阿礼はこれを待っていた。やはり逆の軸足を狙う。タイミングよくローキックを出す瞬間に軸足を払った。

 ペットには、およそこれまで経験したことのない動きだった。それほど阿礼の動きは速い。

 ペットも簡単に転倒する。そしてその後は同じだった。阿礼の回し蹴りが延髄を蹴り飛ばす。パンっと大きな音とともにペットも気絶した。

 青くなったのはアナンだ。組織の腕利きのボディガードたちが、日本の小娘にコケにされたのだ。

 阿礼に近寄る。

「あんた、何者だ?」

 阿礼はにやりと笑う。

「真加部阿礼だ。私立探偵をやっている」

 アナンは首を振った。

 阿礼が聞く。

「俺がジラワットの警護担当でいいか?」

「ああ、けっこうだ」

 血相を変えた西園寺が日本語で阿礼に言う。

「お前、手加減しろよ」

「ああ、手加減したんだが…」

 西園寺も首を振る。

 これで阿礼はジラワットの英雄となった。

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