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23話 いざ沖縄

 ──のだが。


 真由(まゆ)に対する、オレの想定は全然甘かったのだ。


「な、何だよこの席はっっっ?」


 これが用意された席を目にしたオレの第一声だ。


 企業家の親がいて本人もオレが通う高校の理事長である真由(まゆ)なら、飛行機の座席もファーストクラスだろうと思い。 

 オレは当日に驚かないように、ネットでファーストクラスの情報を事前に仕入れておいた。

 そう、それこそが夜に行っていたイメージトレーニングだったが。


「うふふっ、そこまでせんぱいに喜んでもらって真由(まゆ)も嬉しいですっ♡」

「いや……喜んでるっつーか、驚いてるんだよ……」


 オレと真由(まゆ)の二人が搭乗員に案内されたのは、周囲に他の客席の見当たらない、完全に二席しかない個室であった。

 二席、とはいっても目の前にあるのはシートのたぐいではなく。もはや部屋に置いてある豪華なソファーなのだ。

 いや、それだけではない。ソファーの前には大画面モニターまで設置され、しかも冷蔵庫まで完備してあるときたら。


 なんか、もうテレビで見た高級ホテルのスイートルームのような雰囲気さえする場所に、オレはただ、口を開けて呆然(ぼうぜん)とするしかなかった。

 

「なあ……これって、もっと海外とかさ。飛ぶ時間がべらぼうに長い距離の時のじゃないか?」

「あらせんぱい、よくご存知で。これは、とある中東の航空会社の特別ファーストクラスの部屋を真似た、父の会社の飛行機なんですよ」


 真由(まゆ)が嬉しいそうに手を合わせながら、サラリととんでもない事を口にした。


「……は、は、は、ち、父の、会社、ねぇ……」


 いや、真由(まゆ)のご両親には、オレの両親が事故死した際の様々な手続きの関係上、何度かお目にかかったことはあるが。

 まさか航空会社のトップかそれに近しい立場の人だった、なんて事まではオレも知らなかった。


 (あ、あははは……こりゃ、飛行機のチケット代だけでも返すのにどれだけ掛かっちまうんだろ?)


 こうして、沖縄に向けて飛行機は飛んでいったのだが、その最中。


「あ、せんぱい。何か観たい映画ありますか?」

「……いや、真由(まゆ)に任すわ……」


 ソファーの前面にあった大画面モニターで何かの恋愛映画を流しながら。


「飲み物は、ペリエでいいですか?」

「……あ、ああ、飲めれば何でもいい……」


 真由(まゆ)が冷蔵庫から取り出し、グラスに注いでもらった飲み物を飲み干していき。


「せんぱい、メインは肉とお魚とどちらがいいですか?」

「……魚で」


 慣れないナイフとフォークを使って、何か機内食を口にしたことは、うっすらと覚えてはいるが。

 イメージトレーニングで覚悟していたのより数段上回っていた目の前の光景に、頭が呆然(ぼうぜん)としすぎてしまい何も情報が入ってこなかった。


 (……恐るべしだわ……経済格差とは……)


 呆然(ぼうぜん)としたまま、オレは再び真由(まゆ)に手を引かれて飛行機を降りていくと。


「到着しましたよ、せんぱいっ」

「お、おおっ……おおおおおおおおっ!」


 オレは今、沖縄本島にある那覇空港に到着した。

 空港の窓ガラスから差し込む強烈な日差しと、ロビーから漂っている異国感が、ようやくオレの頭を正気へと戻してくれた。


「あ、あれっ? そういやオレのバッグは?」


 正気に戻って気付いたのが、ゲートを出たというのにオレも真由(まゆ)も手ぶらだということだった。

 行きで、大きな荷物を事前に預けたのだから、空港を出る前に受け取っておかないと。


「大丈夫ですよせんぱい? せんぱいの荷物は真由(まゆ)の荷物と一緒に、ホテルに送ってもらいましたから」

「え、そうなの?」

「はい、だから行きの空港で荷物を預ける時に真由(まゆ)が聞いたじゃないですか。最低限、持ってたほうがいいモノは荷物から抜いておいて下さい……って」


 確かに。チェックインの後、荷物を預ける前に真由(まゆ)からそう言われ。

 慌ててバッグから財布を取り出しておいたんだっけ。


「あ、危なかったあ……」


 もし財布をバッグに入れっぱなしだったら、オレはホテルに到着するまで無一文になるところだった。


 大して変わらないんじゃないかって?

 馬鹿を言っちゃいけない。


 オレは夜のイメージトレーニングにて、那覇空港にある食事処も当然ながらチェックしていたりする。

 そんなオレが沖縄に行くなら、是非一度は食べてみたいと興味をそそられた料理が一つだけあった。


 それは、ソーキそば。


 そもそもソーキ、とは、豚の骨付きあばら肉(スペアリブ)のことを沖縄ではそう呼び。

 そのソーキを、沖縄産のお酒である泡盛(あわもり)や砂糖、しょうゆなどで長時間煮込み、普通なら固くて食べられない軟骨まで食べられるほど柔らかくして。

 うどんともそばともラーメンとも違う、一度茹でた後に油を表面に塗って保存するという沖縄そばに具材として盛りつけたのが、ソーキそばという料理だ。

  

 近年、沖縄の食材が身近で購入出来るようになり沖縄そばは意外に簡単に手に入るため。似たように豚の角煮やチャーシューをのっけてソーキそばとして提供してる料理店はオレも知ってるが。

 この那覇空港には、オレが足を伸ばせる場所ではなかなか食べることのできない、本場のソーキそばを食べさせてくれる店が入っていると調べてたので。

 キョロキョロと、それらしき食事処を同じような店構えが立ち並ぶレストラン街から探していたのだが。


「ふふ、せんぱいったらあの店がそんなに気になるんですか?」

「ん? 確か……店の名前は『首里城』だったけど……あ、ああ、ここだ、ここっ!」


 横にいた真由(まゆ)が、色々な店舗が立ち並ぶ中、とある一つの店を指差していくと。

 事前に調べていた、ソーキそばを提供してくれる食事処の名前がそこにはあった。


「……あれ? でもオレ、真由(まゆ)にこの店のこと話したっけ?」


 不意に、少しおかしなことに気づく。

 オレがソーキそばを食べたい、と思ったのは真由(まゆ)から沖縄旅行に誘われ、ネットで調べたからだ。

 それまではソーキそばの「そ」の字も、一切口にしてはいなかった。

 なのに、である。今、真由(まゆ)はオレがネットで調べた店『首里城』を、オレより先に見つけていたのは一体どういうワケなのだろう?


「え……? い、いや、た、たまたまですっ、たまたま真由(まゆ)も、あのお店が雰囲気良いなあって思っちゃったんですよお!」

「……ふーん」

「え、ええーと……」


 普段なら澄ました顔の真由(まゆ)が、ここまで動揺するのは珍しいかもしれない。


 あやしいと言っちゃあやしい……が、別に真由(まゆ)がオレの頭の中身を覗ける超能力者(エスパー)だなんて突拍子(とっぴょうし)もないことは考えちゃいない。

 真由(まゆ)は妙に勘が鋭い時がある。今回もたまたま偶然、オレの行きたかった店を当てたのだろう。

 もしくはフライトで気を抜いてた時に、つい口からポロリと『首里城』と店の名前を漏らしていたのかもしれない。


「……まあ、どうでもいいか」


 だからオレは深く考えるのをやめた。


「それより真由(まゆ)、ホテルのチェックインまでは少し時間があるって言ってたよな、確か」

「は、はいっ、そうですね。この時間にお昼ごはんを食べておけば、夕食頃にはきっちりお腹が空くんじゃないかと」

「じゃあ、決まりだな」


 オレは荷物から取り出しておいた財布が懐にちゃんとあるのを確認して。

 せっかくの楽しい沖縄旅行の始まりということで、本場のソーキそばを楽しみにしていると。


「──実に楽しそうじゃないか、(けい)君」


 突然、オレの背後から聞こえるハズのなかった人物の声が聞こえたのだ。

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