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限界突破のエリクシール  作者: 鈴木君
冒険者学校と狂人の宴

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キノコ集め


 ちょっとモンスターを倒すくらいの気持ちできた進夢は【胞子の苗床】に本格的に恐怖を覚え初めていた。


「なあここって他に毒キノコとかあるのか?」

「あります。全てのキノコが分布していると言われるダンジョンですから、逆に言えば全ての毒キノコも生えてるってことですね」


 ドーラはキノコを恐れて棒立ちになっている進夢の横で、舞茸を収穫しながら言った。


「それ先に言えよ! 危ねーだろ!」

「言ったら来なそうだと思いまして」

「別に断らねーよ! 毒があるなら解毒用にキュアポーションを買うとか準備があるんだよ! 大事なことはちゃんと言ってくれよ!」


 1つ間違えば死に直結するダンジョン。そんな場所に何の情報を持たないまま突入した進夢も褒められた行動をしていないが、生死に関わる情報を求めるのは真っ当な要求だ。


 しかしドーラというメイドは準備だけは完璧にこなしてきていた。


「解毒のポーションは大量に購入してきました」


 次元創作(ディメンションクリエータ)から木箱を取り出し蓋を開ける。その中には発光する白い液体や赤い液体が入った試験管が一杯に詰まっている。毒や病気を治すキュアポーションだ。


「まあそれならいいか…………いやよくねーぞ! 毒キノコの話しだけじゃなくてモンスターの話しも聞いてないからな俺は! 大体このダンジョンの推奨LEVELすら分かってねえし! つかなんだよあの真っ赤で白い水玉模様のあるバカでかいキノコは!」


 ドーラの背後に見えるキノコは高さ3mを越える高さで、柄は成人男性が抱きついて手を回しても手がくっつかないほど太い。文句をたれていた進夢だが、そのキノコが近寄ってきているような錯覚を受けて目を細めた。


「……なんですかでかいキノコ──ッッ! こいつはモンスターです!」


 振り返ったドーラは無意識に短刀を握り魔力を流す。魔力に反応した短刀は白い刃が伸びて刀になる。


「んなっ! モンスター!? ってよくみたら足があるぞこいつ気持ち悪!」


 短いが注視すると柄の下に2本の足が生えてる。物音を立てずに近寄っていたキノコだったが、気付かれると足を曲げて歩いていたのか、足を伸ばして走り出した。


「足が伸びましたね……毒、ありますから」

「コイツも毒かよ!」


 素手で構えていた進夢をドーラが注意すると、彼は飛び跳ねるようにして下がった。能力(スキル)メインで戦うようだ。


「私に、任せて、ください!」


 ────しかし進夢の出番はなかった。


 ドーラが巨大キノコに肉薄すると、白い刃を振り下ろし返す刀で2振り、巨大キノコをいとも簡単に3枚におろしてしまった。


(調べた通り弱いですね。本物のキノコみたいな柔らかさでした)


 【胞子の苗床】の推奨LEVELは3、1人前の冒険者(ハンター)が入るダンジョンだが、モンスターはLEVEL1でも簡単に倒せるほど弱い。ドーラの下調べで確認したことだ。


「すげ! つか弱そうだなこのキノコ」

「弱いだけなら良かったんですけどね、1撃で倒さないと傘から毒を噴出して近寄れなくなる上に、倒してもアイテムが毒まみれになって使い物にならなくなってしまうんですよ」

「きついなそれ…… 1発で倒せるかな」

「そればっかりはやってみないと分かりませんね。敵の強さはLEVEL1相当ですけどダンジョンの推奨LEVELは3ですし」

「おい! さらっとLEVEL2をLEVEL3のダンジョンに連れてくんじゃねえ! ああ……なんで俺はちゃんと聞いてから来なかったんだ!」


 頭を抱えて己れの愚かさを呪った進夢。LEVEL1相当のモンスターがでるダンジョンだが、その実態はLEVEL3相当のダンジョン。その矛盾はなぜなのか、進夢は咄嗟に理解した。


(ここのダンジョンの場合は一撃で倒せるLEVELじゃないと"毒"がきついってことか、キュアポーションを1本使っただけでも損しそうだしな)


 キュアポーションはポーションと基本的に同じで白がロウ、赤がミドル、桃色がハイキュアポーションと品質がある。ロウから5万、50万、500万が大体の相場でポーションの倍以上するのはドロップ率が低いというのと、毒だけでなく病気にも効果があるので一般的な使用頻度が高いということもある。


「聞かないほうが悪いですね」

「言わないのも悪いしお前が言うな!」

「あっドロップありましたよ」

「…………ああそうだよな、いつものことだよな人の話を聞かないのは」


 怒りに震える進夢だが彼も冒険者(ハンター)の端くれ。怒りよりもドロップが気になってドーラが拾ったアイテムを覗き込んだ。


「なんだそれでかいな」


 ドーラが抱えていたのは白い部分と茶色の部分が入り交じった四角い物体だった。土を固めたような質感をしているが進夢にはそれが何かまったくわからなかった。


「菌床ブロックです。キノコの胞子が入った栽培キットがわかりやすいですかね、無知な進夢には」

「一言多いぞクソメイド」


 ドーラはブロックを眺めて調べた情報と頭の中で照合した。


「────これは椎茸(しいたけ)のブロックですね。当たりです」

「へえ。高く売れんの?」

「いえ、これは安いですよ。ダンジョンの外で育てても普通のキノコが生えるだけですからね」

農場(ファーム)持ちは話が違うってことか」

「そうです。ダンジョンで育つ美味しいキノコが生えてくる上に、置いておくだけで半永久的にキノコが収穫し放題です」

「すげえな。果物の木みたいなもんか」


 進夢のが思い出したのは牧場(ファーム)に実っている黄金の果物。もぎ取った翌日には新しい実がなっているのはハイポーションの効果か。菌床ブロックも同じようになるということだ。


「さあ、さっきの"ポイズンビックマッシュ"を倒して倒して倒しまくりますよ」

「相変わらず食い物のことになると行動力が違うよな」

「当たり前です」


 それから2時間ほどビックマッシュを倒したが、進夢はなかなか一撃で倒せないので何度も毒の噴出を食らってキュアポーションを飲んだ。途中、進夢がビックマッシュを諦めてキノコの収穫に努めることにしたのはキュアポーションの金額が恐ろしいことになってきたからだった。ドーラはハイポーションや牧場(ファーム)で幾らでも金策ができるので気にしていないのだが、金額が3桁に近くなると進夢は流石に遠慮しだした。


「お、ロウキュアポーションにガチャコインじゃん大当たりだな」


 白い液体の試験管と宝箱が刻印されたコインは、ドーラが倒したビックマッシュからでたアイテムだ。モンスターの相手をしない進夢が拾いに寄った。


「ハズレです。キノコがカスリもしてないじゃないですか」

「徹底してんな…………これ1本で5万とかするんだけどな。ダンジョンコインもLEVELの高い人に売れば5万越えることもあるし」


 両手にロウキュアポーションとガチャコインを持った進夢は、複雑な表情で手元のアイテムを見つめた。


(前だったら叫んで喜んでたんだろうなこれ。ドーラのせいで何かそうでもなくなっちまった。魔王の件で臨時収入もあったし)


 ドーラの魔道具や能力(スキル)はもちろんだが、魔王と疑わしき夕闇望愛(ゆうやみのあ)、アスラ・グラトナ、本田宗接(ほんだむねつぐ)の監視依頼。その前金で1000万という大金が懐に入っていた。


「お金よりキノコです」

「そうですか…… でもかなりの種類集まったよな?」

舞茸(まいたけ)椎茸(しいたけ)、エリンギ、えのき、マッシュルーム、なめこ、しめじ、キクラゲのブロックは入手しました」

「キノコ全種コンプリートじゃね?」

「……なにを言ってるんですか。松茸(まつたけ)もトリュフもまだですよ」


 ドーラは進夢の頭を心配するような素振りを見せると、当然のことを忘れているぞと怪訝に言った。


「いちいち腹の立つ奴だな、そうゆうのはレアだろ。簡単に出るのかよ」

「いえ、とても希少でめったに出ない上に買い取り価格も低いハズレアイテムだそうです」

「よし、帰ろう」

「ストップです」


 ドーラは歩き出した進夢の前に躍り出る。頑として動かないその意思の乗った視線がじっと進夢を見据えている。


「…………てか買い取り価格が安いアイテムだったら協会(ギルド)で依頼出して買い取ればよくないか。相場の倍くらい出せば直ぐに手に入るぞ」


 ドーラは腹パンを受けたかのように腹部を押さえ短い声を出した。依頼で簡単に手に入ると想定していなかったのだ。かといって場所を譲ることはしない。


「──じ、自身で入手することに意義があるんです。毎日のように収穫できる農場(ファーム)に設置した菌床ブロックが楽して買い取った物と、自身で苦労して入手したものとでは思い入れが違います」

「買い取る金も自分で稼いだ金だし苦労して入手してんじゃん」


 苦しい言い訳は簡単に穴が見つかる。しかし朝早く起こして無理やり引きずってきたドーラには自身こそが正しいのだと振る舞うしかない。引くという選択肢はなかった。


「──ッ揚げ足取りとは見苦しいですよ」

「見苦しいのはお前だろ!」


 いよいよ立場が悪くなってきたドーラだったが、彼女の瞳に転機が写り込む。


「──静かに」

「なんだよ……」


 手のひらを顔に押し付けられた進夢は声を絞り出す。ドーラが周囲を警戒しているのでそれに習う。しかし周囲に変化なく、動きといえば紅葉した葉がヒラリと地面に落ちてふかふかの腐葉土の一部になっただけだった。


 ドーラは木から顔を覗かせると後ろに回している手で進夢を呼んだ。動きが徹底して消音になっているドーラを見て進夢も気を張って行動した。緊張感を保ったまま姿勢を低く背を追っていくこと5分、ついにドーラが木を背にして止まる。


「……今日の本当の目的です」

「…………」


 進夢の耳に口を寄せて囁くドーラ。進夢はドーラの手が木の裏を指しているのを確認すると慎重に顔を覗かせた。


「────ッ!」


 進夢の視界に写ったのはマゼンタ色の髪をした蝙愛人(サキュバス)の少女である夕闇望愛(ゆうやみのあ)だった。彼女は険しい表情をし柔らかい地面を疎むように1歩1歩ゆっくりと歩みを進めていた。


 大きく見開いた進夢はドーラを振り返る。


(まさかこれが目的だったのか。夕闇(ゆうやみ)がくるってしっていたからこのダンジョンに来たのか)


 つまり魔王候補の監視という仕事を果たしに来たのだと進夢は驚いたのだ。


 ────しかし


(うっし騙せましたねチョロい。それにしてもあのコウモリはタイミングが完璧でした、小話と一緒に舞茸でもプレゼントしてやりましょう)


 これが現実であった。


(それにしてもあのコウモリは何をしに……あっ)


「ちょっと進夢、あれ毒受けてませんか?」

「ん? だったら回復するだろ」


 心配の必要はないだろうと望愛を見ると、足元がフラフラし苦しいのか胸元を押さえている。そして袖のないジャケットから伸びる腕が気味の悪い紫色に侵食されていた。


「……ヤバそうだな」

「ですね、助けましょう」

「────まて」

「…………」


 ドーラが身を乗り出そうとした所で進夢の腕に止められる。抱き寄せられる形になり、視線でセクハラを訴えているが進夢の視線と合うことはなかった。なぜなら進夢は望愛に向かっている冒険者(ハンター)を目で追っていたからだ。

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