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限界突破のエリクシール  作者: 鈴木君
冒険者学校と狂人の宴

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39/40

胞子の苗床


 始業式から最初の休日は、多くの学生が新生活に疲れ惰眠を貪るものだ。しかし30年間の引きこもり生活をしていた農業系メイドにとって惰眠をしている暇はなかった。彼女にはやりたいことが山ほどあるのだ。


 太陽が昇る前、早朝と呼ぶにも少々躊躇われる時間帯、ドーラは進夢(すすむ)の寝ているベッドの前で腕を組んでいた。


「さあ進夢(すすむ)ダンジョンに行きますよ、いつまで寝てるつもりですか」


 たっぷり時間をかけて寝返りをうった進夢は薄目を開け、壁掛けの時計が差す時刻を見て絶望する。


「……………………勘弁してくれよ、まだ4時じゃん」


 進夢としても惰眠を貪ることを是とする人間ではない。唯一のLEVEL1(レベルワン)だった彼はLEVELを上げようと躍起になり、早朝特訓していた時期があった。しかしその最中に気づいたのだ、オーバーワークは返って逆効果だと、休むことも訓練の内だと。


「なにあまっちょろい事を言ってるんですか。そんなんでLEVEL3(レベルスリー)になれると思ってるんですか?」


 進化薬(エリクシール)の効果で進夢本来の限界値であるLEVEL1を突破しLEVEL2になったがLEVEL3なれる保証はどこにもない。しかし自身の考え方がある進夢はドーラの煽りには乗っからない。


「俺にもペースってもんがあるんだよ、あと3時間は寝かせてくれ」

「私は暇です」


 魔鉄人(ホムンクルス)の長所の1つに長期間睡眠をとらないで行動してもパフォーマンスが低下しないというものがある。普段は毎日寝ていたドーラだが、【憤怒の塔】から出てからというものの毎日が充実して、寝る間を惜しんで活動していた。


 1日15分睡眠という人間では直ぐに体調を崩すような生活を健康的に過ごしている。


「だったら農場(ファーム)で収穫でもすればいいんじゃね…………」

「わかりました」


 意外にもあっさりと引いていったドーラはその場で農場(ファーム)へ入っていった。暇さえあれば牧場(ファーム)で果物やじゃがいもを収穫しているドーラは次元創作(ディメンションクリエータ)に大量の在庫を抱えているが、中は時が止まっているので腐る心配はない。進夢はおかしなと思いつつも眠気に誘われ目を閉じた。


 ─

 ──

 ───

 ────


「進夢、時間です」


 再びドーラに起こされた進夢は目を擦りながら時計を見て叫ぶ。


「…………俺3時間って言ったよな!? まだ4時30分じゃん!」

「──そうでしたか? 30分って言ってましたよ」


 人と目を合わせないようにするドーラが平然と嘘をついたことで、この後ゆっくり寝るのは不可能だと悟った進夢は布団乱暴にどかした。


「……ああもういいよ! 起きりゃいいんだろ起きりゃ!」

「フフフ。わかればいいんです」

「なんだよその抑揚のないフフフは!」

「抑揚はいつもないらしいですよ」

「知ってるよ!」


 進夢は自棄糞気味に起床すると、ドーラの腕の中にある憤怒竜のジャージに着替え、リビングに連れ出されると用意されていたフルーツの盛り合わせを食べる。歯を磨いていると後ろからドーラがやってきて湿ったタオルで寝癖を直して髪までセットしてくれる。


(……マジでメイドに見えてきた)


「この私の隣を歩くのですから身なりには気を使って下さいね」

「………………」


(これさえなきゃ)



 なすがまま、言われるがままドーラに連れてこられたのは、人が5人手を伸ばしてやっと一周回れるくらいかと思われる巨木の前だった。巨木の根元には扉のような形をした穴が空いているが、反対に貫通しているわけではない。周囲には冒険者協会(ハンターギルド)やダンジョン装備のショップが立ち並び、実入りのあるダンジョンだということが分かる。朝早すぎるので冒険者協会のみ営業しているが人は少ない。


 ドーラは見向きもせず穴に入って行くので進夢もそれに続く。穴に入った途端に感じる浮遊感はワープで進入するダンジョンの証だった。入り口があれど実態はどこにあるか分からない。そんなダンジョンも存在する。


 ワープすると視界一杯に広がる林。様々な木々が群集しており地上には存在しない木も多数あるようだった。木々は一様に紅葉して、赤や黄色で周囲一帯が彩られている。常に葉が舞っている地面は葉が積もりフカフカで、進夢は片足に体重をかけて感触を確かめた。


 地面は腐葉土のような柔らかさをしていて優しい触り心地だが、水分を多く含んでおり湿度も高い、歩くのは足が取られて疲労が溜まりやすいダンジョンだ。


「杉の木ってこんな綺麗に紅葉するんだな」

「アホですか。普通はしませんよ」


 美しい朱色に染まった杉もダンジョンだからこそ。地上ではそこまで綺麗に色づくことはない。


「……どうせアホですよ。んでここには何しに来たんだよ、紅葉見て昼寝か?」

「そんなわけないでしょう。秋と言えば何ですか、そうですねキノコです」


 ドーラは進夢に答えさせる間断なく喋った。口を開きかけていた進夢が目を細めているがドーラは気にしない。


「このダンジョンは【胞子の苗床】という夢のキノコ狩りダンジョンです」

「…………キノコか、嫌な名前のダンジョンだな」


 ドーラに誘われた時点で何か牧場(ファーム)に役立つ物を採取しに来たのだろうと踏んでいた進夢は驚きはしないが、ダンジョン名が引っかかった。名は体を表すとはよくいったもので、ダンジョンも名前の通りのダンジョンであることが殆どだ。


「────とある冒険者(ハンター)がたくさんの舞茸(まいたけ)が群生しているのを発見しました」

(なんか始まったぞ)


 語り口調になったドーラだがいかんせん抑揚はない。


「今日の晩飯は舞茸の天ぷらだと舞い踊るように喜んだそうです。早速かごに1つ2つと刈り取った舞茸をつめて行くとおかしなことに気付きました。地面なのか木なのか舞茸がびっしり生えていて分からなかったが、舞茸の生えている場所が暖かかったのです。変だと思いつつも冒険者は舞茸をどんどん刈り取ります。そして刈り取った部分が何か見たことのある形をしていると近くで見ていると、急に群生していた舞茸が動いたのです。慌てて離れようとしましたが、腕が舞茸に掴まれて動けません。必死に舞茸を離そうとしていると冒険者は何故か目が合いました。舞茸の隙間から覗く目と。何がなにやら分からなくなった冒険者は硬直してしまいます。すると目が合っている舞茸から声がするのです『……コロシテ……コロシテ』驚いた冒険者が舞茸の生えている場所をよく見てみると、それは人のような形をしていたのです…………それ以降このダンジョンは呼ばれるようになりました【胞子の苗床】と」


 ドーラの話しが終わると共に進夢は自身を抱いて寒そうに腕を振って身体を擦った。


「────はあ!? んだそれ怖っ! 鳥肌ヤバイって鳥肌! 帰るぞ今すぐ!」

「まあ嘘なんですが」

「盛大な嘘をつくんじゃねえ!! 舞茸のネガティブキャンペーンか!」

「フフフ」


 ドーラの謎の笑いが今回ばかりは恐怖を煽る。「いきますよ」といつの間にか背負い篭を装備したドーラが林を進んで行くので、進夢は距離を開けないようについていった。入り口付近は日が差して紅葉が綺麗なダンジョンだが、林を進むと日の光が葉に遮られ薄暗い。ドーラの話しと相まって進夢には気味が悪かった。


「……なあ道とか分かってんだよな? どこもかしこも同じ景色で直ぐに迷いそうだけど」

「私を甘く見ないでもらいたいですね、来る前にダンジョン内の地図をインストールしてます。全て入ってますよここに」


 指で額をつついたドーラは瞬間記憶能力を有しており、ネットを介してインストールした情報でも瞬時に自身の記憶領域に刻みつけることができ、引き出すことができる。彼女の視界にはゲームのマップのように【胞子の苗床】の地図が浮かんでいた。


「おお、さすがフリフォを食った女」

「任せなさい、このロボに」


 迷いなく林を進んで行くドーラの背中は進夢よりずっと小さいが、この時ばかりは大きく頼りがいのある背中に見えた。


「さっそく収穫ですよ」

 

 歩みを止めたドーラが指さした先は幹の根元。そこには扇状型の茶色いふさがみっしりつまった、大ぶりの舞茸がいくつも生えていた。


「…………あの話しの後に舞茸かよ」

「狙いましたので」

「狙うな! なんでいつも余計なことに熱心なんだよお前は!」


 進夢をおちょくったドーラは篭を地面に下ろし、憤怒竜の短刀で舞茸を収穫する。持ち上げた舞茸はドーラの肩幅よりも広く、軽く見積もっても3キロは越える大物だった。


「凄いですよ進夢、こんな大きな舞茸初めて見ました」

「俺もこんなに人の話を聞かない奴は初めて見たよ。でもマジででかいなそれ、今日は天ぷらにすっか」

「大賛成です。さあ根こそぎいきますよ」

「へいへい。何か俺にもナイフ貸してくれよ」

「ええもちろん。用意してますよ」


 人を叩き起こしただけあってドーラの準備は万端だった。ナイフを渡された進夢も舞茸を収穫していく。ダンジョン産だけあって大ぶりの舞茸に感動しながら収穫していると、近くにイソギンチャクのような形をした赤い物体が生えていた。


「なんだこれ。なあドーラこれは食えないよな? ──っていてえ!」


 間近で見ていると、ドーラに首根っこを掴まれて赤い物体から距離を取らされる。


「…………これはカエンタケです。触れるだけでも皮膚から毒が体内に浸透する危険なキノコで、3gで人が死にます」

「はあ!? 危な!」


 進夢ならそう簡単には死なないが毒は回復に時間がかかる。強い毒なら即死もありえるのだ、毒で痛い目にあったばかりの彼は更に距離をとった。


「不自然に大きいですね、進化しているとしたら毒性も増してる可能性がありますから、近寄るのも止めたほうがいいでしょう」


 図鑑に載っているキノコを全てインプットしてきたドーラにはキノコ狩りの名人並みに知識がある


「…………なあ早く帰ろうぜ?」

「何を言ってるんですか、まだまだ収穫したいキノコはたくさんあるんです。進夢は私の指示したキノコ以外は触らないように」

「言われなくてもそうするよ。ちょっと収穫するの楽しくなってきてたのに、また怖くなってきたぞこれ」


 周囲を見渡すと赤色のカエンタケが散見していることに気がついた進夢は身を震わせた。


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