クセの強いクラスメイト達
教室に入ってきたのはLEVEL7の世界ランカーである力羅と美怜だった。ランキング6位と9位の組み合わせで、ランカー同士のパーティーはこの2人しか存在しない。
能力スポーツの【スキルアーツ】へ出場すればニュースになり、動画を投稿すると数百万再生は当たり前、先日の【大地竜】の討伐動画は既に億を越えている。
そんな2人の登場に誰もが黙ったが、間を開けて爆発するような歓声を上げた。
「うおおおお!! 本物だああ!!」
「きゃああああああ!!!!」
「5組で良かったああああああ!!!!」
「よっしゃああああああ!!!」
教室が揺れるようなお祭り騒ぎだ。力羅、美怜共に苦笑いで生徒達が収まるのを待っているが、進夢と目が合うとイタズラが成功したように笑った。服装が冒険者として活動している時と同じで教師らしい見た目ではないので、より驚愕する。
(力羅さんのメールはこのことだったのか!!)
ルカはというと、不満と気まずさを交互に表情に出しながら力羅と美怜を見ていた。
(なんで担任がこの人達になっちゃうの…… 許せないし恥ずかしい所みられちゃってるし、やだなあ)
耳を萎れさせ、ため息をついた。
生徒達の興奮がさめて教室に静けさが戻ってくると、1人の生徒がおちょくった声で2人を野次る。
「カップルで出勤なんて羨ましい限りだね、お兄ちゃん美怜ちゃん」
ニヤニヤと口角を上げている少女の名は重樹里。兄と言った通り力羅の妹であり、そして勇者パーティーの最後の1人でもある。栗色のセミロングのポニーテールで孔雀石のような瞳に生意気な笑顔がトレードマークだ。アイドルのような容姿と愛嬌で誰とでも仲がいい社交的な少女だ。
うんざり顔の力羅は片手で顔を覆い天を仰ぐ。
「…………何でお前も5組なんだよ樹里」
「ちょっ、べ、別にこいつとは何でもないから!」
「はいはい、犯人は皆そう言うんだよ美怜ちゃん」
身内ネタの会話だが、学校でも有名人の樹里の軽口で教室は笑いに包まれる。動画の配信でもよく見られる美怜のツンデレは生徒達もよくわかっていた。そんな美怜は不満そうな表情で顔を赤らめているが、満更でもなさそうだ。
「お前がいるとこうなるから嫌なんだよ……」
「いやーそれほどでも!」
「褒めてない! あー調子狂うな。んでだ!」
このままではいけないと力羅は手をたたく。たったそれだけで全員が黙り注目するのはカリスマ性なのか、厳つい見た目だからなのかはわからない。彼は続けた。
「えー実は今年からこのクラスに転入生が1人くることになった、まずは紹介させて欲しい」
静かになったばかりの教室がまた騒がしくなる。皆が口々に男か女か種族はなんだと話している。
「──じゃあ入ってくれ」
力羅が促すと全員が入り口を注視する。静けさに包まれた教室内は緊張感が漂っていて転入生には入りづらいことこの上ないだろう。
──しかし、この転入生に限っては緊張という殊勝な言葉は当てはまらない。
扉を開き堂々と教壇に立った転入生は優美な礼をした。
「初めまして低LEVELの凡俗の皆様。今日からこのクラスをシメることになった超絶天才美少女のドーラです。以後よろしくお願いします」
いつも通りの無表情で全生徒に喧嘩を売ったドーラはどこか誇らしげだ。超然と立ち続ける彼女に2人の教師も手をつけられないでいる。
(力羅さあああああああん!! 何してくれてんすか!!)
(や、やめて~~~~ッ!!)
大声を出すのを堪えた進夢はドーラと目を合わせないように顔を背けた。ルカに至っては自分が恥ずかしくなって顔を真っ赤にして机に顔を埋めている。腕から漏れた耳が真っ赤だ。
奇抜な自己紹介に生徒達も反応できないでいる。その中でいち早く動いたのが夕闇望愛だった。喧嘩を売られたのが許せなかったようだ。
「お前雑魚と勇者の女のメイドじゃねぇか。オレは喧嘩なら買うぜ、誰が凡俗だって? あ゛あ゛?」
足を机の上で組んで恫喝した夕闇はドーラの強さを理解していた。雨間岩窟での対峙で自分が勝てないことも分かっていた。だがそれでも引かないのが夕闇望愛という少女の彼女らしさだった。
「私の席はどこでしょうか? ……空いてるのは進夢の前の席だけですか、しけてますね」
教師である2人ですらどう口を挟もうか悩んでいると、ドーラはあろうことか啖呵を無視してみせ、メイドらしく楚々としながらもしっかりとした足取りで席へ着席した。
望愛からしたら斜め前の席で至近距離だ。青筋を浮かべ睥睨しているがドーラが振り向くことはない。ある意味大物だ。
(や、やめてくれ~~~っ俺の名前出したら知り合いだってバレんじゃねーかよ!)
(ハーレムじゃないのに~~~っ で、でも否定したら巻き込まれるっ!)
進夢とルカは教室の異様な空気感よりも自身の保身が優先だった。
「お、おーし顔合わせは済んだな! ドーラは学校のことがまだよく分かってないから皆で説明してやってくれ!」
「…………これ済んだっていっていいわけ?」
お通夜のように静かな教室を見渡した美怜は深いため息をついた。力羅は分かっているが解決策が見つからないので、美怜の声が届いていないかのように振る舞っている。
(新クラスのスタートとしては絶望的ね。話しには聞いてたけどドーラがここまでだったとは……)
頼りない力羅の横顔を眺めた美怜は、今後の教師生活を憂う。
「じゃあ今日の予定だな────」
力羅はこの後行われる入学式の整列の仕方などを説明する、当たり障りのない教師の仕事をした。
「────ってことで入学式が終わったら各自で解散ってことになってるからよろしくな。んで悪いんだけど能化進夢とルカ・ブリーゼとドーラは入学式が終わったら教室に戻ってきてくれ。じゃあこの後は体育館集合な!」
「遅れないようにね!」
最後に進夢達に居残りを命じて2人は教室から出ていってしまった。3人に断わる余地も権利もないらしい。
(呼び出しね。なんだろドーラを何とかしろって話しか? だとしたら無理だけど)
ドーラと望愛によって重苦しい空気になった教室だったが、進夢が少し考えている内に時間が解決し、あちこちで会話が弾んでいる。
当人である望愛は未だにドーラを睨み付けている。その影響でこの一角には人が寄ってきていない。
だがそんな空気をものともしない者は少なからず居るもので、進夢の前にやってきた男もその1人だった。
「よお進夢! クラス一緒だな!」
机の前に立って笑みを浮かべている男は進夢より更に1回り身長が高く、制服が張るほどに筋肉が盛り上っていた。ワイシャツは第3ボタンまで開いていて大胸筋が覗いている。浅黒い肌に葡萄酒色のオールバックでメリハリのある顔立ちをしている偉丈夫だ。前頭部から生えた黒い大きな2本の角はヤギの角と形状が酷似している。ヤギの獣人と間違われがちだが、彼は亜人と呼ばれる種族だ。
「アスラ! 同じクラスだったのか」
驚きながら進夢の口元は嬉しそうに広がっている。アスラ・グラトナという男は進夢の友人の1人だった。
「おうよ! さっき話しかけようとしたら勇也達に話しかけられてたからな、遠慮しといたんだよ。気配りやだろ?」
「何が気配りやだよ、いつもなら気にしないで入ってくるくせに。どうせクラスに可愛い女子がいただけだろ」
細目で嘘臭い笑顔をしたアスラを看破する。豪快に笑うアスラは悪びれる様子もない。
「バレた?」
「そりゃな!」
アスラという男は大層モテる。勇者の柚木勇也にも負けず劣らずといった所だ。怖い見た目に反して優しく面白い人間性は男女共に評判がいい。その上彼自身が女好きとあって行動が分かりやすかった。
「それよりドーラちゃん紹介してくれよ。知り合いなんだろ?」
「……え、あ、ああ」
(こいつ可愛ければなんでもいいのか? ついさっきクラス全員に喧嘩売ってたヤバイ奴だぞ……)
歯切れの悪い笑みを浮かべた進夢。呼ばれたドーラが反応しないわけもなく、いつの間にか立ち上がってアスラの横で紹介されるのを待っていた。
「……こっちはアスラ・グラトナ。見ての通り女ったらしのヤバイ奴だ。多分そのうち刺される」
「女の子と喋るのが好きなだけだよ。よろしくなドーラちゃん!」
不名誉な紹介でもアスラの気持ちいい笑顔は崩れない。
「……んでこっちはドーラ。転入初日にクラス全員に喧嘩売るヤバイ奴だ。とりあえず一回ボコされろ」
「LEVELの差を教えようと思ったまでです。よろしく変な角」
(こいつら相性よさそうだな)
誰でもナンパする男と誰にでも毒を吐く女。相性がいいようには思えないが、似たような返答を帰してくる2人は実は相性がいいのかもしれない。
葡萄酒色の髪をかきあげたアスラはドーラを口説く。
「ドーラちゃんのクールな表情とっても綺麗だね。どっから来たの?」
「ええ、当たり前です。ダンジョンの天辺から来ました」
「ダンジョンの天辺? 面白いね! どっか攻略して来たんだ。それにしても所作が綺麗だよね、何かやってるの?」
進夢はアスラの読解力、コミュニケーション能力に驚愕していた。ダンジョンの天辺から来たと言われたら即座に変な奴と認定するのが普段の進夢だ。
(俺だったら何言ってんだこいつで話しが終わってたな。これがモテる男……)
「どえらいダンジョンを1つ。メイドを少々かじってます」
「ははは。そっかそれは凄い。メイドはいいよね俺も大好きだよ。能力がメイドなの?」
ドーラは頭を傾けた。能力のメイドというものが分からなかったからだ。しかし即座に取り込んだフリフォで検索、突き止めた。一瞬の出来事だ、チートのような女である。
(……なるほど、家政婦という名前の職業能力があるんですね)
返答しようと口を開こうとするとドーラは肩を掴まれ阻まれる。
「喧嘩売っていつまで無視してんだお前、あ゛?」
振り返ると望愛がガンを飛ばしている。額がくっつくような距離だ。
「私は生物学的に女ですが……女性が好きな方なんですか?」
「んなわけねぇだろっ!! オレは男が好きだ!」
ドーラの人をおちょくった態度につい余計な事を口走った望愛は口を結ぶ。だがそれはもう遅い、ここにはどんな女でも口説こうとする男がいるからだ。
「おっ奇遇だね望愛ちゃん俺も女の子が好きだよ。俺達気が合うね」
舌打ちをした望愛はアスラを睨む。
「合うわけねえだろ色ボケ野郎、気安く人の名前を呼ぶんじゃねえ。それよりてめーだよ!…………いねえ」
アスラに気を取られてる内にドーラはさっさと教室を出ていった。相手をする必要性がないと判断したのだ。
「もう出てったぞあいつ」
「お前あいつの知り合いだろ! なんなんだよあれはよ!」
座っている進夢にぐいぐい近付くと望愛は恫喝した。進夢は椅子が傾きそうなほどのけ反って手を少し前に出している。
「いやーあれはもうそうゆう奴としか言いようがなくて。諦めてくれ」
「ふざけんな! 人に喧嘩売ってとんずらしやがって!」
握りこぶしを作った望愛は進夢を殴るわけにもいかず、机を蹴飛ばして席に戻る。
(……マジで短気すぎる。こいつはこいつでドーラと相性悪すぎるな)
「まあまあそんな怒るなって望愛ちゃん。でも怒った顔も可愛いいけどね」
口から覗く白い歯を輝かせながらアスラは望愛の席に近付いていく。
(こいつはどんなハートしてんだよ……)
アスラは望愛に一蹴されるも懲りずに話しかけ続けている。その体力と神経の図太さに進夢は感心した。
「ちょっとそろそろ体育館行かないと遅れるよ」
ルカにその言葉を投げ掛けられるまで2人の攻防は続いた。そこからルカを口説きにかかったのは言うまでもない。




