表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
限界突破のエリクシール  作者: 鈴木君
冒険者学校と狂人の宴

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/40

勇者と聖女と担任


 新学期を祝うかのように晴れた朝、制服姿の学生達が桜並木を歩いている。その中の1人、学生鞄を指に引っ掻け肩に担いでいる細身で背の高い男は進夢(すすむ)だ。欠伸を噛み殺している。その隣を背筋正しく歩いている森人(エルフ)の美少女はルカ。しかし困り顔をしている彼女の視線は低い。


「でも本当に良かったのかな……」

「んあ? だからいいって。ルカが居なきゃ困ってた事とか山ほどあったんだぜ。それにドーラもいってただろ、口止め料金だって」

「うーん……でもなあ」


 ルカが唸っているのは前日のハイポーションの件だ。3人で均等に振り込んでもらい既に残高が200万円ほど増えている。売ったハイポーション3本が憤怒電光竜(ネオンライトラースドラゴン)からのドロップだと聞いてからルカがこの調子になってしまった。


「平気平気。それよりこれなんだと思う?」


 露骨な話題変更だが見てもらいたいのも事実だった。進夢が見せたのは重力(しげしちから)からのメッセージで、『すまん』という一言だけのメッセージだ。どうにも不穏で意味が分からない内容は、ルカの気を紛らすことに成功する。


「え、なにこれ」


 進夢の胸の前まで頭を寄せていたルカは顔を上げて進夢を見た。LEVEL7の大先輩からきた意味深なメッセージだ、何か起こるのは間違いない。経緯を知りたかった。


「わかんね。何もなく急にこれだぜ?」

「意味分からないし怖いね」


 ついに胡乱な表情を作ったルカ。そもそも彼女は力羅(ちから)パーティーを好んでいない。幼なじみを【憤怒の塔】へ落とすきっかけを作った張本人達だ。道理では彼らは悪くないと分かっているが、それでもルカは力羅パーティーを好きじゃなかった。


「だろ。まあ分かんないもんはしょうがないけど。どっちかと言うと家に残してきたドーラが俺は怖いね」


 ドーラの話しとあってルカに笑顔が戻る。ドーラはルカにとって幼なじみを無事に帰してくれた恩人でもあるのだ。ただ彼女の行動を思い浮かべると嫌な予感しかしなかった。


「進夢はまだいいじゃん。あの娘今日は(うち)で留守番してるんだよ」


 切っ掛けは些細なことだ。進夢の家の隣の白くて大きな犬を飼っていそうな豪邸がルカの家だと聞いたドーラが押し掛けたのだ。心配そうな顔をしたルカを見た進夢は苦笑いした。


「あいつすげーよな、あんだけルカの家には住まないって言ってたのにさ。今じゃいつそっちに行ってもおかしくないもんな」

「うん。メイドにはこの家こそ相応しいとかいいながら私のソファーでふんぞり返ってたよ」 

 

 苦笑いが止まらない進夢。ルカはげんなりして今頃ドーラが何をしでかしているか想いを馳せる。


 他愛のない話をしているうちに校門が見えてくる。青梅駅の【アンダーモール】の反対口から徒歩5分の場所にある【日本冒険者専門学校】だ。進夢とルカは【冒険学部迷宮学科】に所属している。日本有数の冒険者学校で、海外からの留学生が半数を占めている。多様な人種と多様な種族が入り交じり切磋琢磨する異文化交流を目的にしているが、実際は優秀な人材の流入になっている。


 なぜ人が集まるのか。東京西多摩地区全域は迷宮都市と呼ばれ、ダンジョンの数が非常に多く、冒険者が集まっており、学校も多い。ダンジョンを学ぶにも攻略するにも最適な地域だからだ。

 

 そしてダンジョン攻略は国策と呼ばれるほどに補助される。冒険者にかかる税金はドロップ販売の10%のみ。住民税、事業税など多くの税が工面される。冒険者学校には最新設備が設置、入学者は無料で寮に入ることもできるし、近くのマンションを借りることもできる。国は冒険者を育てることに重きを置いているのだ。


「久々だけどすげー人だな」


 校門をくぐるころには周囲は学生だらけ。4学年分の人が自分のクラスを確認しに校舎を目指している。1年生は後から入学式があるのでまだ登校していない。


「うん。学年多いからね、それより早くクラス分けみよ!」

「おい、ひっぱるなよ」

 

 張り紙のホロが近くなるとルカは早足で進夢を引っ張っていった。クラス表を見るまでは進夢と同じクラスになれるか分からない。気持ちが逸っていた。


「えーと…………あ、あった! 5組だ! ねえ進夢、私5組だよ!」

「俺もやっぱり5組だ」

「同じだ! やったね!」

「お、おう」


 嬉しそうに跳ねているルカと恥ずかしそうに頭をかく進夢。彼等は自分達の名前を探すのに集中し過ぎて他に誰がいるのか、担任は誰なのかを見ることはなかった。周囲ではかなり大騒ぎになっているのだが、自分達の世界に入っていた。


「なあなあ見たかよ2年5組の担任!」

「見た見た! てか生徒のほうも凄いよね! だから派遣されたのかな?」

「ねえねえ2年4組のほうもヤバイよ? てか2年だけ優遇されすぎじゃね」

「勇者がいるからなあ」


 自分達の世界に入ってこの喧騒は届かなかった。


 校舎は5学年25クラス分とあって大きく6階建てで、1000人を収容して余裕のある作りをしている。能力(スキル)の実技やドロップ品の研究があるので施設はどれも大きいし、敷地も広大だ。資金を出し惜しみせず建てた校舎は高級ホテルのように絢爛で、1階のロビーはカーペットが敷かれている。


 進夢とルカは自分達の教室を目指す。学年が低い順に高い階に教室があるので2年生の進夢達は5階だ。といってもエレベーターとエスカレーターがあるので苦労は少ない。エレベーターは並んでいたので2人はエスカレーターでのんびりと向かう。


「あ、誰が居るか見なかったね」

「そうだな。でもなんとく想像はつくけどな。1年の頃に問題起こしてた奴らが集められると思ったら」

「はは。私は起こしてないんだけどなー」

「それだけじゃないんだって」


(ようは学校にとって面倒な奴を集めたクラスだろ。勇者、聖女、夕闇(ゆうやみ)、他にもあいつとかあいつとか……)


 クラス分けの心理を読んだ進夢は楽しみ半分、恐怖半分でクラスメイトを想像する。


 2年5組のプレートが掲げられた教室に到着した2人は目を合わす。お前が開けろという牽制のし合いだ。だが進夢が直ぐに折れる。なんとなくかっこ悪い気がしたからだ。


 扉を引く音と共にクラスメイト達の顔が見える。複数人で談笑する者達や1人座席に座っている者様々だが、進夢が見る限り1年生時の曲者ばかりだった。


 教室の机は最新鋭のパソコンが内蔵され、黒板はタッチパネルや音声入力などの機能や、ホログラムにも対応している。生徒が乱暴に扱っても容易に破壊できない魔法化合物で出来ている。


「よう! 進夢、ルカ!」


 片手を上げて2人に絡んできた黒髪センターパートの男は人懐っこい笑顔を浮かべている。進夢より少し小さい身長くらいで身体は鍛えられている。整った顔立ちは誰しもが認める美男子で、自信に満ち溢れた黄玉(シトリン)の眼差しが女性を虜にする。


 ──そしてこの男こそが


「おう勇也(ゆうや)、やっぱお前も5組か()()()

「おはよ勇也(ゆうや)


 世界に1人しかいない()()能力(スキル)を持つ男、柚木(ゆぎ) 勇也(ゆうや)だ。


「様なんてつけんなよ」


 そういって彼は苦笑いした。


「おはようございます、ルカ様。そ、それと…………進夢(すすむ)様」

 

 勇者に遅れてまた1人やってくる。手のひらを組んで胸の前に置いている金髪碧眼の絶世の美少女だ。長い髪はふんわりして肌は白くきめ細かい。優しくも儚げな顔つきは色めく青玉(ブルーダイヤモンド)の瞳が纏めている。母性を感じる女性らしい体つきをしている彼女は全男子生徒の憧れの的だ。


 ──そして彼女が


「あーおはようセシリアさん」

「おはようセシリア。なんで祈りのポーズ?」

 

 勇者と同じくただ1人の()()、セシリア・アスフォートだ。


 ツッコまれたセシリアが手のひらを組んでいるのは聖女だからではない。進夢が怖いからだ。現に彼女は進夢に挨拶する際、1歩下がっている。


「セシリアは進夢が怖いんだよな! あんまりうちのセシリアをイジめるなよ進夢!」


 勇也は進夢の肩を叩いてカラカラ笑った。LEVEL1と未だに認知されている進夢をバカにしたりしない感じのいい男だ。


「い、いえ、そ、そのような訳では」

「あ、ちょっと勇也! セシリアが困ってるじゃん!」


 勇也と進夢を交互にみておどおどする聖女。そしてルカが怒る。


「あれ? そうか悪い悪い!」


 勇也は反省していなそうな笑顔でカラカラ笑う。


「んじゃよろしくな、俺の席はどこだ……」


 進夢は居心地が悪くなったため移動する。苦手意識を持たれている女子と長いできるほど精神は太くない。進夢の席は一番後ろの窓際の隣だ。荷物を下ろし席に座ると窓際に座っていた人物に絡まれる。


「ようゾンビ。聖女の天敵だなお前」

「うるせーな。隣が夕闇(ゆうやみ)かよ」


 嘲笑したのは蝙愛人(サキュバス)夕闇望愛(ゆうやみのあ)。頬杖をした彼女は指さしする代わりにスペード型の尻尾で進夢を指している。


「聖女様がたじろいでんのなんて初めて見たぜ」


 眼前に迫る尻尾を退ける進夢が、嫌そうな顔をしているので望愛(のあ)は追撃する。


「へいへい、俺はどうせゾンビですよ」


 背もたれに身体を預けた進夢は腕を組んで、尻尾を払いながら不機嫌そうに唇を尖らせた。しかしそれは望愛(のあ)を喜ばせるだけだ。ニヤニヤと歯を剥き出しにしている。


「誰も思わねーよな、1年でLEVEL3になった有望株の聖女様が、1年で唯一のLEVEL1に負けるなんてな」


 大抵不機嫌な顔をしている望愛(のあ)だが、この時ばかりは非常に愉しそうに弁を振るっていた。


「………………」


 進夢は耳を塞ぐ、彼なりに聖女に嫌われている状態に物悲しさを感じ。望愛は進夢の眼前にスペードを突きつけて笑っている。


 それは今年の1月に行われた戦闘競技である【スキルアーツ】で起きた一幕だった。【スキルアーツ】という競技は能力(スキル)や武器を使用していい1対1の戦闘競技だ。現在競技人口は世界最多で冒険者(ハンター)のランキングにも深く関わりがあり、最高の盛り上りを魅せている。冒険者(ハンター)の学校ではどこでも必須科目だ。


 【日本冒険者専門学校】では【スキルアーツ】を後期の最後に大々的に行い成績をつける。そして学校行事の最大のイベントともなっており、部外からも多数の観客が押し寄せるイベントとなっている。


 そんな折りに進夢の対戦相手は聖女であるセシリアとなった。誰しもがセシリアの勝ちを疑わない勝敗の決まっている試合だった。試合開始後もセシリアの一方的な優勢、進夢はセシリアの職業能力(ジョブスキル)聖女の光魔法を前に何もできなかった。


 だが、進夢の諦めの悪さは折り紙つきだった。憤怒電光竜(ネオンライトラースドラゴン)という格上に挑む胆力は以前から持ち合わせていたのだ。セシリアの光魔法に穿たれ、圧され、凪払われた。それでも進夢は立ち上がり、起死回生(リストレーション)の小さな回復力でセシリアに向かっていった。


 その姿は廃物になった雑巾のようで観客は口々に「ゾンビ」と口にした。清廉で高潔、慈悲と慈愛の女性セシリアは何度倒れ倒しても立ち上がる進夢を恐れ、降参した。


 それからというもののセシリアにとって進夢は恐怖の対象になってしまった。人が傷つくのを嫌う優し過ぎる性格が進夢とは合わないらしい。


 ゾンビをネタに望愛(のあ)が煽っていると、教室のドアが開く。そこから入って来た2人の人物を前に生徒達は水を打ったように口をつぐんだ。

 

「今日からこのクラスの担任になる重力(しげしちから)です。よろしく」

「同じく服担任の雪村(ゆきむら)美冷(みれい)・ベリングラードです。よろしく」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ