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限界突破のエリクシール  作者: 鈴木君
冒険者学校と狂人の宴

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修行の成果


 【雨間岩窟】でやらかした2人はルカに絞られ、牧場(ファーム)で数日修行した。主に能力(スキル)の練習だが、短期間でそこそこの結果が伴ったのは、ルカが付きっきりで指導したおかげだ。


 結果を奮おうと3人は再度ダンジョンにやってきていた。場所は変わって八王子市にある【戸吹高原(とぶきこうげん)】なだらかな山地が広がる高原ダンジョンだ。選んだ理由はだだっ広く魔物(モンスター)が強い上に、生産品もないことから不人気だから。身の安全には変えられない。


 朝から潜り既に昼を取ってから2時間経っていたが、目新しいのかドーラはどんな物にも興味を示して活発で、進夢はLEVELが上がってからというものの魔物(モンスター)と戦うのが楽しくてしょうがないという様子だ。そんななか2人の面倒見役のルカは春休みの終わりを憂いていた。


「明日から新学期だ~」


 冒険者(ハンター)の学校は休みが長く大学のような単位制だ。ダンジョンに長く潜れるようゆとりのある教育方針を目指しており、生徒への支援も手厚い。


「なんだよ楽しみじゃないの?」

「クラス替えでしょ。不安なんだよね~2年からクラス変わらないらしいし」

「あーそれな。まあどうせ俺らは5()()だろ」

「それって問題児ばっかり集めるってやつ?」

「そうそれ」


 日本冒険者専門学校は、1年から2年生に進級する際に1度だけクラス替えを行う。1年で生徒の性格や実力を計り、クラスに差がないよう分散させるのが目的だ。しかし5組だけはそれに限らない。進夢のような劣等生や逆に突出した優等生など、手のかかる生徒を集めるのが通例だ。


「……私ってそんなに悪目立ちしてる?」


 心外と顔に書いたルカは自分に指をさして尋ねた。


「悪目立ちというか()()()は派手に目立ってるぞ」

「ええ……そうかな」

「勇者のパーティーに入った時点で5組決定だろ。んで俺はLEVEL1のまま後期を終えた時点で5組決定」


 勇者、聖女の世界唯一の能力(スキル)を持った有名人とパーティーを組んでるルカは自ずと目立っている。優秀、美人、森人(エルフ)などで元から存在感はあったが更にだ。逆に進夢はLEVEL1唯一の進級とあって悪い意味で有名だが。


「言われるとそうかも。なんかちょっと安心した」

「なんで安心すんだよ。5組って言っちゃえば問題児を集めたクラスだし、評判よくねーぞ。夕闇(ゆうやみ)も5組だろうしな」


 手のかかる生徒。つまり不良である夕闇望愛(ゆうやみのあ)も5組に選ばれる確率が高い。その他にも全クラスの問題児が集まるのだ、喜んではいられない。


「だって5組になると優秀な先生が担任になるんでしょ。それに進夢と一緒だし!」


 1年はクラスが違った2人だが、2年は同じかもしれない。そう思うだけでルカは花を咲かすような笑みを浮かべた。その純粋な好意が進夢には小恥ずかしかった。


「お、おう」

(ルカはこういうとこあるんだよな……)


「私は何組ですか?」


 話しに入れなかったドーラは黙って歩いていたが、ついに我慢できなくなった。


「5組」

「ドーラは間違いなく5組だね」


 ドーラの性格を考えた2人は嫌味なく笑って答えた。もしドーラが学校にいたら間違いなく5組だと。

 

「あ、来ます」


 ドーラの視界には3匹の魔物が映っていた。1匹は狼を人形にしたような魔物(モンスター)コボルト。背格好がゴブリンと似ているが知能は低い魔物(モンスター)だ。そして残りの2匹もまた狼の魔物(モンスター)ウルフ。額から角が1本生えているのが特徴で、見た目は狼とほぼ変わらないが、人間を見たら迷わず襲いかかる狂暴な性格で、狼よりも速く力が強い。


 高原地帯は視界が開けているので距離があっても魔物(モンスター)を視認しやすい反面、見つかりやすい。ウルフのような狂暴な魔物(モンスター)との組み合わせは性が悪い。接敵が多く、LEVEL2の中でも強いと言われる【戸吹高原(とぶきこうげん)】のウルフ、自ずと人足は離れる。


「やるか!」

「オーケー!」


 笑っていた2人は直ぐに戦闘体勢に入った。LEVEL2の中では厄介なダンジョンだが、ルカとドーラには余裕があり、必死なのは進夢だけだ。そんな進夢も能力(スキル)を使いこなし順調に成長している。


「さあ、行きなさい」


 手をかざしたドーラは将軍のように指示を出した。


「おい! サボんなよ!」

「進夢の成長を見てあげましょう。大将は座して吉報を待ちます」


 腕を組んだドーラは仁王立ち、座りはしなかった。


「……もう気まぐれなんだから。進夢は右のウルフ1匹お願い、私は左の2匹倒すね!」

「了解! ちょっと強くなったからって調子にのりやがって!」


 進夢はさりげなく2匹受け持ってくれたルカの気づかいに情けなくなってしまったが、頭をふって気持ちを切り替える。魔物(モンスター)はもう直ぐそこだ。


 ウルフやコボルトは素早く、群れで行動する。そして弱い獲物を集中的に狙うのが習性だ。低くしゃがれた放声でウルフとコボルトが威嚇しながら疾駆している。


「全部俺の方にきたぞ! ムカつくやつらだな!」


 ルカは短く笑うと、進夢へ向かって4足歩行するコボルトへ剣を振り下ろす。


「────シッ!」


 コボルトの胴体へ真っ直ぐ振り下ろされた剣身の後には、鋭いかまいたちが吹き荒ぶ。ルカが操風絶技(デクスウィンドウ)で切れ味を増している影響だ。


 次の瞬間には真っ二つになったコボルトが消滅する。


「遠距離ばっかり練習してたわけじゃねーぞ!」


 残す2匹のウルフが我先にと進夢へ迫る。──バチンッという音と共に全身に電光を流した進夢は淡いネオンピンクに発光する。そしてウルフの視界から進夢が突如に消える。


「こっちだよッ!」

「────キュインッ!」


 進夢を見失っていたウルフの1匹が顎下から蹴り上げられる。LEVEL2とは思えない素早い動きだ。


「速っ!」

「あんまもたないから助けてくれ!」

「オッケー!」


 進夢が覚えたのは電光の放出だけではない。筋肉に電気を流し無理やり瞬発力を上げるという荒業も覚えていた。精度が荒く痛みが伴うので長くは使えないが。しかしその効果は絶大で、瞬間的にLEVEL3のルカよりも素早く動くことができる。


 ウルフは脳震盪を起こしフラフラしている。もう一匹はルカが割り込んで相手をかって出た。後は止めを刺すだけだ。


「んでこれがメインの電光(でんこう)だッ!」


 溜めのない滑らかな動き、5本の指先に集まった電光は小さな破裂音と共にウルフに喰いついた。瞬きをする間もない刹那の攻撃。これがルカを持ってしても強く速いと言わしめる電気系の能力(スキル)だった。


 ネオンピンクの電光がウルフを一瞬で消滅させた。


「こっちもこれで終わり!」


 剣を握っていない手を握りしめて振り下ろす。対峙していたウルフは喉を鳴らして警戒していたが、不可視の風を察知するのは不可能だった。ウルフの頭上から落とされた風の重撃。LEVEL3の魔力を込めた理不尽な質量はウルフをクレーターの染みへと変えた。


「うわ~えっぐ…………」


 草地がベッコリと巨大なハンマーを叩きつけたような形に変形している。進夢はそれを見て苦笑いした。


「よろしい、2人ともよくやりました」


 パチパチと手を叩いたドーラはいけしゃあしゃあと言った。進夢もルカも憤りを押さえてドロップを集めることにした。反応するとドーラが調子に乗るのをわかっているのだ。


「こっちなんもないぜ」

「……うーんこっちは魔石が1個だけ」

 

 魔物(モンスター)を倒した場所を探してもドロップは1つだけ、実入りの少ない戦闘だ。LEVEL2推奨のダンジョンはこんなもので、魔物(モンスター)が弱いダンジョンはそもそもドロップ率が悪い。やはり冒険者(ハンター)として稼ぐにはLEVEL3は欲しい所だ。


 しぶい顔をしながら魔石を拾ったルカは黙ってドーラに魔石を渡す。いくらにもならない魔石を売っても仕方ないのだ。


「そろそろ帰りますか?」


 ドーラの提案だ。


「そうしよっか。【戸吹高原(とぶきこうげん)】の規模じゃ日帰りでボスまでは行けないし、2人も戦闘に慣れたみたいだしね。役1名慣れすぎてダンジョンを甘くみてる人もいるみたいだけど」


 賛成しながらも非難の視線を送るルカだが、その人はいつも通り知らんぷりだ。


「そうすっかー。そうだ八王子まで来たし冒険者協会(ハンターギルド)に寄ってアイテム売って行こーぜ」

「いいね、いこっか!」

「なんですか冒険者協会(ハンターギルド)って」


 進夢とルカは瞬間的に目を剥いて驚いたが、直ぐに納得する。


(そうか、ドーラは30年のブランク持ちだったな)

(冒険者協会(ハンターギルド)を知らない人なんて世界でも1人も居なそう…… ドーラ大変そうだなあ)


冒険者協会(ハンターギルド)ってのは、冒険者(ハンター)の為の斡旋組織だな。欲しいドロップアイテムを依頼して冒険者(ハンター)に取って来てもらったりする場所で、他にもドロップアイテムの買い取りや販売もしてるし、ドロップ品を使った飲食店もあるぜ」

「なるほど、愉快な所ですね。【アンダーモール】のようなものですか?」


 ドーラの質問にはルカが引き継いだ。


「というか【アンダーモール】の1階が冒険者協会(ハンターギルド)だよ。八王子のは2階建ての独立した所だけど。依頼はフリフォで出来て、受けることも可能だよ。ドロップ品の買い取りはどうしても持ち込みになっちゃうけどね」

「そうなんですか。……ハイポーションと作物でも売ってみますか」


 気軽に発言したドーラだが、2人はその言葉に頭を抱えた。


(試験管1本200万のハイポーションが無限に出てくる噴水か…… バレたら間違いなく誰かしらに殺される。いくら個室で接客してもらえるとしても大量に売るのは危険だよな……)

(うーん…… あの黄金の食物は世間に出てない新しい発見なんだよね。偶然ドロップしたことにする? でもどこでドロップしたとか聞かれそうだし嘘つくのはなあ…… 何かいい方法ないかな)


「──?」


 2人を黙って見つめるドーラだった。

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