表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
限界突破のエリクシール  作者: 鈴木君
憤怒の塔と世界の秘密

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/32

最高の報酬


「よくあの傷で生きてたな」


 頭を押さえながら立ち上がった進夢(すすむ)は、ドーラの下半身が半分なくなっていたのを思い出し、そう口にした。


 今は身体どころか服までも綺麗に治っている。


「そのままその言葉をお返ししますよ。私が起きた時の進夢はもはやゾンビでした」

「…………ゾンビ」


 進夢は苦笑いした。

(やっぱそう見えるのか俺は)


「片目はない、腕と足の骨は見えて肌はデロデロ。死んでいると思えば修復していってるので急いでハイポーションを飲ませたんですから、感謝してください」

「……………………はい」


 肩を震わせて絞りだすように出た返事。進夢は戦闘中にハイポーションを飲ませたが、ドーラに庇われてのこと。文句は言えなかった。


「ま、LEVEL4(レベルフォー)の私としては下位LEVELの進夢を牽引するのは義務のようなものです。気にしてはいけませんよ?」


 無表情な割に声にはしっかり感情がこもっているドーラ。煽る気まんまんで慰める。


「うるせえ! 誰が気にするか! こちとらLEVELマウントはやられ慣れてんだよ! LEVEL4なんてたいしたこと……LEVEL4ッッ!?」

「いえーい。起きたら上がってました」


 間延びした声とVサイン。


「は、はあ!? 俺はLEVEL2のままだぞ! なんでだよ!」


 LEVEL4といえば才能に選ばれた者と言われる領域だ。LEVEL3まではそこそこ居るが、LEVEL4になるとその人数はグッと減る。


「…………才能、でしょうか」

「いらん間を開けんな! クソ! 止め差したの俺だぞ!」


 進夢のボルテージは最高潮だ。しかし世の中は無慈悲、LEVELが上がりやすいホムンクルスがいれば、LEVELが上がりずらい人間もいる。


 肩で息をするまで騒いだ進夢が平静を取り戻したのは宝箱を見てからだった。


「そういや宝箱あったな」

「やっと戻ってきましたか」


 1人で聞いてもいない愚痴をこぼしてこぼして溢れさせていた進夢がピタリと止まり、離れていたドーラも戻ってきた。


「山分けでいいよな?」

「ん? 私はいりませんよ」

「は? お前これがなんなのか分かってんのか? 【憤怒の塔】最上階のボスドロップの宝箱だぞ!? 人類史上初の攻略だぞ!?」


 進夢はドーラの両肩を掴んで接触ギリギリまで近寄る。高身長の進夢が平均的身長のドーラに近寄ると、脅してるようにも見えてしまう。


「ち、近いです。私は宝箱を見るのも初めてですし勝手がわからないのでいいです」

「なんで急におどおどすんだよ。スゲーことなんだよ、2人で強力したんだから山分けな!」


 うなずいたドーラを引っ張って宝箱の前まで来た進夢は立ち止まり、いつまでも動かない進夢にドーラは話しかけた。


「………………開けないんですか?」

「いや、俺も実は宝箱開けるの初めてなんだよ」

「ダンジョンに入るのは初めてじゃないですよね?」

「数えきれないほどあるよ。察してくれ」

「ああ……………」

(かわいそうに)


 LEVEL1が潜れるようなダンジョンで宝箱はほぼドロップしない。進夢は嬉しさと緊張でなかなか宝箱を開けることが出来ないでいた。


────すると。


「では失礼して」


 前にでたドーラがさくっと宝箱を開けてしまった。


「ああああああああああッッ!!」


 至近距離での発狂。ドーラは耳を押さえて顔をしかめる。

「うるさいですね……」


「なんで開けるんだよ! 楽しみにしてたのに!」

「なかなか開けないので待ちきれなくて」

「うああああ~~~」


 両手をついてうなだれる進夢。ドーラもここまで進夢が落ち込むとは思わなかったので妥協案を出すことにした。


「好きなのを取っていいですから」

「ほんとだな!?」

「いいですから近いです。情緒不安定ですか」


 ドーラの言葉をスルーした進夢は宝箱の中身を覗いた。


 その中には本のマークが描かれたトランプサイズのカードが2枚と、宝箱のマークが描かれた500円玉サイズのコインが10枚入っていた。


 大きな宝箱にほんの少しの宝物。進夢の後に顔をひょっこり覗かせたドーラは正直に口にする。


「ショボいですね」

「………………………」


 しかし進夢は反応しない。


「大丈夫ですか?」

(よほどショックだったんですね、慰めたほうがいいでしょうか)


 いよいよドーラが悩み始めると、進夢が興奮気味に指をさした。


「こ、こ、これヤバイぞ! スキルカードにガチャコインだッ!!」

「スキルカードにガチャコイン?」

「知らないの!?」

「知りません」

 

 ドーラはある程度の知識ならプロットノートや、進夢の前に来た冒険者(ハンター)達に聞いていたが、基本的に現代の知識に疎い。


「スキルカードはその名の通り能力(スキル)を内包したカードで、それを使うとカードに内包された能力(スキル)が使えるようになるんだよ」

「凄いですね。能力(スキル)覚え放題です」


 ドーラはその割に進夢は能力(スキル)が少ないなと思いつつも、そう口にした。


「それができたら俺も能力(スキル)だらけだよ。全然ドロップしないんだよスキルカードじたい。売りに出されても億が当たり前だし、手が出ない」


 うなずくドーラ。


「そうですか。ガチャコインは?」

「反応薄いな。あーガチャコインは珍しくない。そこそこドロップする。けどあれ見ろよ」


 進夢はが指差した先には、2階建ての家ほどの大きさのガチャポンが設置されていた。四角い箱型の筐体の上に透明な球体が乗っているような形をしており、球体の中にはバスケットボール大の大量のカプセルが入っていた。


「あれですか。ボスが倒された後に急に出てきてビックリしました」


 ガチャポンは主にダンジョンのセーフポイントに設置されている。ドーラの住んでいた場所もその1つだが、全てに設置されているわけじゃない。ボスを倒すと出てくるガチャポンもあるが、進夢はあまり聞いたことがないので驚いていた。


「俺も驚いた。コイン自体は珍しくない。けどガチャポンを回す場所によって出てくるアイテムも変わるんだよ」

「じゃあ大したことないんですね」

「いいやそれは違う。その()()が大事なんだよ。ガチャは推奨LEVELの低いダンジョンで回せば、そのダンジョンに見合ったLEVELの低いアイテムが出てくる」

「じゃあ推奨LEVELの高いダンジョンで回せば、それだけいいアイテムが出るってことですね」


 ドーラの理解の速さに進夢は満足げにうなずいた。


「その通り。つまり推奨LEVELが(はてな)になるほど高いこの【憤怒の塔】でガチャを回せば……」

「とても良いアイテムが期待できる」


【憤怒の塔】などの大罪ダンジョンの推奨LEVELはいずれも?だ。その中でも憤怒は攻略が厳しいと言われている。?は攻略不可能、もしくは攻略されていないダンジョンの推奨となる。基本的に?のダンジョンには入らない。


「しかもだ!」

「…………まだあるんですか?」


 ドーラは能力(スキル)もガチャもそこまで興味がない。今はダンジョンから解放された喜びに浸るだけで十分だった。そこにやたらと元気な進夢が、テレビショッピングのようなテンションで絡んでくるのでげんなりしている。


「まあ聞いてくれ、ダンジョンは階層が深まれば深まるほど魔物(モンスター)が強くなる。それはガチャも同じ。深くなればなるほど強いアイテムが排出される。つまりこの10枚のガチャコインの価値は下手したらスキルカードと同等になるかもしれない。下手したらそれ以上」

「はあ」


 ドーラは気のない返事を返した。


「反応うっっっす!!」

「能書きは十分です。とりあえず何のスキルカードか見ましょう」

「ああっ!!」


 変な声を上げてる進夢を無視してドーラはカードをめくった。1枚のカードは緑と青空そして動物。牧場の絵が描かれており、【牧場(ファーム)】と書いてある。もう1つ1枚は暗闇の中でこちらを睥睨する憤怒電光竜(ネオンライトラースドラゴン)の絵が描かれており、【竜蛍電光(エレクトロネオン)】と書いてあった。


「なんでしょうこれ」


 進夢はカードを見せられる。


牧場(ファーム)竜蛍電光(エレクトロネオン)? …………牧場(ファーム)ッ!?」


 見開かれた目に震える手。明らかに異常な反応をする進夢にドーラは聞く。

「凄いんですか?」


牧場(ファーム)はヤバイ。どこからでも自分の牧場に入れて、ダンジョンの作物とか動物を育てることが出来る能力(スキル)だよ」

「ピンと来ませんね」


 ドーラは頭を傾けた。


「ダンジョンに生えてる果物とか野菜とか、外じゃ育てらんないんだよ、理由は詳しくないけど魔力濃度がどうとかこうとか。まあ牧場(ファーム)はそれができる。つまり高額なダンジョン産のアイテムを生産し放題。このスキル持ってる奴は全員億万長者になってるぜ」


 どこからでも牧場(ファーム)に入れるというのも利点の1つで、苛烈なダンジョンであっても何時でも安全地帯の牧場(ファーム)に入ることができるのだ。冒険者(ハンター)垂涎の1品である。


「じゃあ進夢はこれをどうぞ」


 ドーラは牧場(ファーム)のカードを差し出したが、進夢は受け取らない。


「……いや、待ってくれ! こっちの竜蛍電光(エレクトロネオン)も気になる。というかこれ間違いなく1品物だぞ。どう見ても憤怒竜(ラースドラゴン)能力(スキル)っぽいし」


 ボスモンスターのレアドロップで、ボスの能力(スキル)が使えるカードが出ることがある。しかしあまりにも稀なので出れば世界に1つだけの能力(スキル)になることが多い。


「迷うなら私はいりませんよ。両方売るなり使うなりして下さい」


 ドーラは両方を差し出した。


「それは絶対ダメだ! そして絶対売らない! ドーラはどっちがいい?」


 冒険者(ハンター)にとって山分けは当たり前。明らかにLEVELに差がある場合はその限りではない。進夢とドーラはLEVEL差はあるが、2人で命をかけて戦って得たものを、1人で独占するなんて賎しい真似は死んでもしたくないと進夢は思っていた。


「頑固ですね…… とりあえず竜蛍電光(エレクトロネオン)は使いたくないですね。あのドラゴンを思い出すので」

「分かった。じゃあドーラが牧場(ファーム)な」


 話しを聞いて直ぐにドーラの手元から竜蛍電光(エレクトロネオン)のカードを引き抜いた。迷ってはいたが、進夢が選ぶなら竜蛍電光(エレクトロネオン)1択だった。なぜならこの能力(スキル)は進夢が望んでいた攻撃できる能力(スキル)である可能性が高いからだ。


「いいんですね?」


 ドーラとしてはいらないと言っている自分を優先してくれていいのかという確認だ。


「ああ。俺もこっちにしようと思ってたし」

「分かりました。使うんですよね? どうすればいいんですか」


 ドーラはカードの裏表を何度も見直す。使い方は分からない。


「俺も初めてだけど使い方は知ってる。額に当ててカードの名前を読めばいいだけ。早く使っちまうか」

「はい」


(額に当てて使う……脳にインストールですか。ショックアブソプション、ジジイの発明品が進化したんでしょうかね)


 何やら考え込んでいるドーラの横で進夢はカードを額に当てた。


「【竜蛍電光(エレクトロネオン)】」


 名を呼ぶとカードが光り、絵柄が消えていく。その間進夢の脳に竜蛍電光(エレクトロネオン)の使い方が刻み込まれる。ほんの数秒の出来事だった。


能力(スキル)竜蛍電光(エレクトロネオン)を会得しました》


 もう能力(スキル)は進夢の中にある。


「…………エレクトロネオン」


 手のひらを出して進夢が呟くと、指先からネオンピンクの電光がバチッと音を鳴らした。


「凄い。本当に使えるようになりましたね」


 ドーラは目を丸くしてピンクの電光を眺めている。


「うおおおおおッ!! これで魔物(モンスター)が倒せるッ! ドーラも早く使えよ!」


 進夢はガッツポーズして喜んだ。回復能力は強いがそれ以外はからきしの進夢にとって、攻撃的な能力は喉から手がでるほど欲しかった。この喜びを少しでも共有したい。その思いからドーラを急かすのだった。


「分かりました。牧場(ファーム)


 さっと額にカードを当てて使用すると、ドーラも直ぐに能力の扱い方を理解した。


能力(スキル)牧場(ファーム)を会得しました》


「……次元創作(ディメンションクリエータ)に似た感覚ですね。牧場(ファーム)


 手を前にかざしてドーラが能力を使うと、前方の空間が歪み人が1人余裕で通れるくらいの入り口が開いた。扉はなく向こうの景色が歪んでいて、カードの絵柄のように牧場が見えている。


「すげー! 牧場(ファーム)牧場(ファーム)!」


 終始笑顔の進夢は牧場を指差して騒ぎたてている。その一方でドーラはいたって冷静だ。


「使い方は分かりました。ガチャコインはどうするんですか?」

「もちろん使う!」


 テンションの高い進夢にまた長くなりそうだとドーラは溜息をついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ