表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日のお題  作者: 炎華
9/17

今日のお題【静寂】

 雨の音だけが聞こえた。

そこは、静寂の世界だった。


 どちらが言い出したのだろう。

夜のお寺に行こう、と。


 すっかり雨だった。

昼間は保った天気も、夕方には雨模様になっていた。

 ホテルの窓から見えた京の街は、灰色に染まっている。

雨が降ると、雪のときは特に、街に色が無くなる。

通勤電車の窓に流れる景色は、全てモノクロとなる。

早回しの白黒の映画を、ずっと見せられる感覚。

天気のいい日は、屋根や看板や木々の緑の鮮やかさを見せつけられるのに、

雨の日は、なぜその威力がなくなるのか、いつも不思議に思っていた。

 それは、古都京都でも、変わらないようだ。

 「そろそろ行こうか。」

声を掛けられて、旅行鞄から出しておいた傘を手に取った。


 彼の後ろを歩く。

ホテルから出たときは、もう辺りはすっかり暗くなっていた。

傘にあたる雨の音を聞きながら、話しもせずに歩く。

静かだった。

まだそんなに遅くないというのに、すれ違う人はほとんどいない。

傘にあたる雨の音。

地面に跳ね返る雨の音。

彼と私が歩く音。


 お寺に着いたときも、誰にも会わなかった。

夜の、ましてや雨のときに外に出る観光客はいないのかもしれない。

ホテルで寛ぐ時間帯でもあったから。


 靴を脱いで、廊下を進む。

彼の後ろを歩く。

夜のお寺は、昼間とはかなり違う雰囲気だった。

部屋の隅が薄暗い。

そこまでは灯りが届いてないようだ。

外からは、相変わらず雨の音がしている。

ふと窓の外を見ると、濡れた緑が雨に打たれて揺れた。


 彼が足を止めた所は、枯山水の庭だった。

足が、自然に止まる。

ライトに照らされた庭から、目が離せなかった。

 彼がゆっくり歩いて、端までくると、ふいに庭の方を向いて座った。

少し驚いたが、他に誰も来る気配がなかったので、私も彼の横に座った。

 静かだった。

雨の音だけが聞こえる。

周りの木々を打つ雨音。

砂にあたって染みこむ雨粒の音。

屋根を打って、弾ける雫の音。

そこは静寂の世界だった。

雫がライトに照らされて、きらきらと光って落ちていく。

邪魔をしないように、静寂を楽しむ。


 やがて、若いカップルが、廊下を進んできて、急に開けた庭の縁側の端に立った。

しばらく二人で庭を眺めたあと、彼と私のようにその場に座った。

そして、やはり静寂の邪魔をしないように、黙って庭を見ていた。


 そろそろ行こうかと、彼と頷きあったとき、次のカップルがやってきた。

彼らと私達を見ると、やはり同じように座って、何も話さず、静寂を楽しみ始めた。

その二組の若者を見て、彼と私は顔を見合わせて微笑んだ。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ