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今日のお題  作者: 炎華
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今日のお題【カーネーション】

 ずっと赤いカーネーションだった。


 子供の頃、図工の時間に、母の日のためのカーネーションを作った。

「できたお花は、お母さんにあげましょう。」

図工の先生は、大きな声で言った。

 私は迷わず赤い紙を手にして、赤いカーネーションを作った。

時間の終わりには、クラスの子は、皆、赤いカーネーションを手にしていた。

 私のカーネーションのできは、いいとは口が裂けても言えなかった。

糊がところどころはみ出し、くるっと貼ればいいだけの花びらは歪んでいた。

 先生は、

「お母さんは、きっと喜んでくれますよ。」

なんて言うけれど、こんなのを貰ったって、お母さんは嬉しくないよ。

そんなことを思いながら周りを見回すと、一人だけ、カーネーションを手にしていない子がいた。

「きっと、上手くできなかったから、誰にも見せたくなくて早々机の中か鞄の中に隠したんだな。」

 私は勝手にそう決めつけて、仲間がいたことに安心して、手の中の赤いカーネーションを鞄にしまった。


 学校からの帰り道、あの子が前を歩いているのを見つけた。声を掛けようと思ったとき、その腕に掛けた手提げから、白いカーネーションが覗いているのに気が付いた。

 白いカーネーション。なんで、白いカーネーション?

そうだ、思い出した。紙を貰ってくるとき、先生が言った。

「お母さんのいない人は、白い紙ですよ。」

と。

 私は足を止め、あの子の背中を見送った。

図工のとき、どことなく悲しそうな顔をしていたようにも思えた。

あの子の姿が曲がり角で見えなくなると、私は家まで走った。家のドアを開けると、

「お母さん!」

と叫んだ。母は驚いて玄関まで飛んで来た。

「お母さん!ありがとう!」

そう言うと、よれよれの赤いカーネーションを渡した。まだ母の日は先だったが。

母は目を細めると、

「ありがとう。」

と、両手で大事そうにそれを受け取って、嬉しそうに微笑んだ。。

よかった。喜んでくれた。図工の先生の言った通りだった。


 ランドセルを下ろすと、ふと、あの子の寂しそうな横顔が頭に浮かんだ。

あの子は、白いカーネーションをどうするのだろう。

お母さんの仏壇に、供えるのだろうか。

手をあわせて、ありがとうと呟くだろうか。

なんで、お母さんは死んじゃったの?と泣くのだろうか。

お母さんのいない子は、白いカーネーションなんて、誰が決めたんだろう。

いなくたって、赤いカーネーションでいいじゃないか。

お母さんがいないことを、いなくて悲しいことを、わざわざ思い出させなくてもいいじゃないか。


 それからもずっと、赤いカーネーションだった。

今年は、私も白いカーネーションを、母に送る。



  

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