今日のお題【桜】
子猫はじっと大きな桜の樹を見ていた。
時折首を右や左に傾げ、桜の花びらが舞う度に、それを目で追っていた。
見上げる子猫の目の前に花びらが一輪舞い降りてきたとき、子猫は伸び上がって両方の前足で、それを掴もうとした。 花びらは寸前で驚いたようにふわりと上に舞い上がり、前足から逃げた。風圧に押され、一気に加速して角度をかえると、また静かに舞い降りていった。
子猫は、その花びらを追って、今度は右の前足で、横から叩いた。花びらは当たる寸前で、前足とは逆の方向へ再び逃げていった。子猫は反射的に左の前足でそれを叩いた。花びらは、その風圧で湿った土の上に落ちた。
動かなくなったそれを、子猫はしばらく首を傾げ見ていた。前足で、ちょいちょいと触れてみたが、ぴくりとも動かなかった。
興味を失って、子猫が顔をあげたとき、強い風が吹いた。それに応えるように枝がざざっと音を立てて大きく揺れる。
子猫は、目を見張った。枝から沢山の花びらが離れて落ちてくる。夢中でそれに飛びつく。両方の前足で挟んでみた。飛び上がりながら、前足を振り上げる。着地しながら、顔を振って、花びらを口の中に入れてみる。なんだか、不思議な味だと、子猫は思ったが、そのまま、走って花びらの群れを追い掛ける。右へ左へ。走って、飛び上がって、着地したら、また飛び上がる。ふわふわと舞い降りてくる花びらは、子猫にとって、絶好の遊び相手だった。
ひとしきり、花びらが舞い落ちてしまうと、辺りはピンク色で染まっていた。
子猫は、その絨毯の真ん中に座り、樹を見上げていた。また、遊び相手が降りてこないかと。
「ああ、可愛い!」
小さな女の子の声がした瞬間、子猫はぱっと飛んで、横に逃げた。声のする方向に向き直り身構える。すんでのところで、その子に抱き上げられそうになったのだ。
「おいでぇ!こっち!」
女の子は、避けられたことにもめげず追い掛けてくる。子猫は、差し出される手を再び避けて、反対の方向へ逃げる。女の子は懲りずに追い掛けてきて、捕まえようとする。
何度かそれを繰り返すうち、子猫はすっかり楽しくなってしまった。女の子も、笑い声をあげて子猫を追い掛けてくる。
左に飛ぼうとしたとき、女の子は急に向きをかえ、子猫の飛ぼうとした方に手を差し出した。次の瞬間、子猫は女の子の両手にすっぽり納まっていた。
「捕まえた。」
女の子は嬉しそうに子猫を抱きしめ、頬ずりをした。嫌ではなかった。なんだか、懐かしい気さえした。
「お母さーん、この子飼ってもいいでしょ!」
女の子はそう言いながら、母の元へ走る。子猫を抱きしめながら。
子猫は、遠ざかる桜の樹を見ていた。そのとき、風が吹いて、花びらが舞い降り始めた。
どちらかというと、子猫、がお題のような・・