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今日のお題  作者: 炎華
17/21

今日のお題【花火】

 仕事帰りの電車で、紺色の浴衣姿の女の子を見かけた。

「そうか、今日は花火大会だった。」

心の中で呟く。

 花火が終わる時間より、だいぶ早く帰れるようになったから、

花火大会の人混みに辟易することもなくなった。

 ドアが開いて、また二人、浴衣姿の女の子達が、笑いながら入って来た。

ドアの脇に陣取って、お喋りを始める。

「もう、いい所はないかな。」

「立っててもいいじゃん!」

「そうだね。」

と、言って笑い合う。

これから見る花火が楽しいのか、

浴衣を着て、友達とこうして一緒にいられるのが楽しいのか。

 どちらもだろう。

頭の上から降ってくるお喋りを聞きながら、思う。

 幼い頃、毎年花火大会に連れて行ってくれた人がいた。

海の上に打ち上げられる花火は、とても綺麗で、とてもわくわくした。

その人に連れて行ってもらうのが、楽しみだった。

従妹と一緒に、花火を見るのが嬉しかった。

 母の都合で、花火大会の日までに、『そこ』に行けないときがあった。

年に一度の楽しみだったから、幼心に酷くがっかりだったことを覚えている。

従妹達は、今頃楽しんでいるのだろうと思うと、

とても悲しくて、悔しかった。

そして、私がいなくても、誰も何も思わないんだろうと思うと、

とても寂しかった。


 気が付くと、電車は花火大会を開催する駅に着いていた。

ドン!と、花火の音が響く。

「ああ!音がしてる!」

「急ごう!」

浴衣の二人が、もどかしそうに小走りで出て行った。

「転ぶなよ。」

その姿が微笑ましくて、心の中で呟く。


 その駅でだいぶ人が減ったが、

最初から乗っている浴衣の女の子は、変わらずそこにいた。

ドアの脇に立って、じっと外を見ている。

「ここの花火じゃないんだ。」

 彼女はずっと、一人だった。

その間、誰も彼女の横に立つ者はいなかった。

「同じ駅か。」

私の降りる駅でも、今日は花火大会のはずだ。


 駅に着くと、浴衣の女の子は、ゆっくり移動して、ドアの前に立った。

「やっぱりね。」

 ホームに降りると、きょろきょろ辺りを見回している。

そして、降りた人々の後について歩き出す。


ドン!パパパパパ!


 近くで花火の音が聞こえる。

音は近いけど、会場はもっとずっと先だ。

彼女は足を止めずに、音のする方を見て、花の姿を捜していた。

「残念ながら、ここからは見えないのね。

デッキに上がれば見えるけど。」

彼女の後ろを歩きながら思う。

 エスカレーターを上がり、改札を出ると、

今度は迷わず左に曲がった。

相変わらず、私は彼女の後ろを歩いていた。

いや、ストーカーしたいわけではなく、バス停が同じ方向だからしょうがない。

背中の手まりや桜の模様を観賞しながら、彼女の後についていく。

デッキに近付くと、花火の音は大きくなって、

その姿も見えるはず、だが、デッキの手すりは、沢山の人で埋もれていた。

「見える、だろうけど、ビルに隠れて全部は見えないよね。」

それでも、いいのだろうと、思ったとき、

前を行く浴衣が走り出した。

彼女の目指す方向を見ると、

一人の男の子が花壇の脇のベンチから立ち上がって、軽く手を挙げた。

 彼女が彼の前に到着すると、彼は嬉しそうに笑った。

彼の口が、動いて何かを言ったようだったが、

花火の音に消されて、私には聞こえなかった。

「綺麗だね。」

「似合うね。」

「可愛いね。」

頭の中で、彼の言葉を補って、私はバス停に向かった。


 大きく弾ける火の華が、無言の音と共にバスの窓一杯に広がった。

あの二人も、どこかでこれを見てるのだろう。

そう思うと、自然に口元が緩んだ。

 バスが大きく右に曲がると、花火の音だけが微かに聞こえた。

ような気がした。




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