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今日のお題  作者: 炎華
14/22

今日のお題【雪 その1】

 ああ、寒い。


枯れた落ち葉の上に、年老いた猫が横になっていた。


 もう、起き上がれない。

 目を、開ける力もでない。


沢山の既に葉の落ちた裸の木々が、猫の周りに広がっていた。

地面は落ち葉が消えて、土が剥き出しになっているところもある。

カサカサと、渇いた音をたてて、老描の上で枝が揺れた。

遠くで、烏の鳴き声が聞こえてきた。

その声に怯えて、老描は少しだけ目を開いた。

辺りに、動く物は見えない。

生きている物の気配は、何も感じられなかい。

自分を覆う木々でさえ、息を潜め、長い眠りについているようだった。


 ゆか、今頃どうしているだろう。


老猫は、ゆっくり目を閉じた。


 気付かれないように、家を出てきたけれど。


その家の縁側が好きだった。

柔らかく当たるおひさま。

優しく吹き抜ける風。

とてものどかで、幸せな時だった。

そこからは、彼の大好きな家族の音がよく聞こえていた。

姿が見えなくても、何をしているのかがよくわかった。


 ゆかは、近頃できた彼氏とスマホという機械で、話をしている。

 お父さんは、テレビを観ながら、新聞を読んでいる。ニュースを読む声と新聞をめくる音が聞こえている。時々、

「えへん。」

と、咳払いをする。娘が彼氏と長話をしているのが、気に食わないのだろう。

 お母さんは、食事の支度をしている。いい匂いがして、かちゃかちゃいう食器の音が聞こえている。

ゆかに圧力をかけるのを止めるようにと、静かだが鋭い一言で、

「お父さん。」


冷たい物が鼻先に当たり、はっと目を開ける。

その瞬間、猫の幸せな空間は消えていった。

小さくため息をついて、猫は視線を上げた。

既に葉の落ちた黒い枝が、無数に重なりあっている。

その小さな隙間から厚い灰色の雲で覆われた空が見えた。


 雪、だ。


灰色の空に点々と黒っぽい粒がふわふわと舞い、

目の前に落ちて、剥き出しの黒い地面に溶けていった。

次々と落ちてきて、そのまま地面と同化する雪の粒を、

老猫はぼんやり見ていた。

体にも、顔にも、小さな雪の粒が落ちるのを、もう感じないようだ。


 このまま、眠るように逝ければいい。

 魂の無くなったこの体を、隠してくれればいい。


悲しくはなかった。

ずっと幸せだったから。

大好きな家族の傍にいられたから。

そっと目を閉じる。

ただ、今、傍に誰もいないことが、少し寂しかった。


「やっぱり、ここだった。」

声がした。

とても聴きたくて、そして聴きたくなかった声。


 -ゆか。


大きなくりっとした黒い目が、老猫の顔を覗き込んでいた。

「みゅう。捜したよ。」

「みゅう。」

老猫は絞り出すような声で鳴いた。




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