今日のお題【虹の橋のたもと その2】
「あたし、橋を渡る!」
突然言い出したのは、白と茶色のコーギーだった。
何かに気が付いたように、空を見上げていた嬉しそうな顔が、
だんだん曇って、やがて下を向いてしまった。
コーギーは、しばらくそのままの姿勢でいたが、
やがて、ぎゅっと閉じた目を開け、再び顔をあげると、決心したようにそう言った。
周りの動物たちは、一斉にコーギーを見た。
「どうして?まだお迎えが来ないのに?」
コーギーは、少し顔を曇らせた。
「誰も、迎えに来ないの?」
おそるおそるフェレットが訊ねた。コーギーはぶんぶんと首を振る。
「ママが、ご主人様が、自分達を待っているなと言ってる、から。」
周りの動物たちの驚きをよそに、コーギーは話す。
「先に進めと言ってる。ネクスト・ゴーだって。」
ママは、そんな事を言える人じゃなかったのに、と呟いてから、コーギーは少し微笑んだ。
「動物は、人より早く生まれ変わることができるから、早く生まれ変わって、次に進めって。待っていてくれないのは寂しいけど、あなたが先に進んでくれる方が嬉しいって。」
誰も口を開かなかった。
「次に会えるのが、どれくらい先になってしまうかわからないけど、何百年何千年も先かもしれないけど、必ず会えるから、大丈夫だから、って。」
啜り泣く声が、そこかしこから聞こえてきた。
「生まれかわって、私達を忘れて、新しい飼い主さんに懐いて可愛がられても、あなたが幸せなら、それが一番だって。私は、あなたが先に進めるように、私が、今の人生を明るく前向きに過ごすことで、あなたの修行の助けになるのなら、そうするから、頑張るからって。」
絞り出す様にコーギーが言う。
「だから!あたしは、あの橋を渡る!」
言い終わると、コーギーはそのまま虹の橋に向かって走り出した。
そして、たった一匹で虹の橋を渡って行った。
コーギーが虹の彼方へ消えてしまうのを見送ると、
「聞こえたんだね。」
背中の三毛猫が言った。
「ご主人様の声。」
「ご主人様の声?」
「そう、ご主人様の声。」
伸びをして、三毛猫は僕の前に降りた。いつもの様に、見事な着地を見せてくれる。
「ペットは、魂だけになっても、生まれ変わっても。ご主人様と繋がっているんだよ。それをあの子のご主人様は知っていたんだろうね。そして、魂は何度も生まれ変わるということも知っていて、その一つ一つの生が修行だということも。」
三毛猫は言葉を切る。コーギーが渡って行った虹の橋を少し眺めてから、
「あの子はね、ご主人様のことをすごく心配していたんだよ。ご主人様は、特にママは、すごくネガティブな人だから、ここで待っていてあげなくちゃいけないって。ママの事を見ていてあげなくちゃいけないって。でも、あの子のママは、あの子が思う以上に何かを悟ったんだね。それで、先に行け、と言ったのさ。」
それが事実なら、何故この猫は、そんなことを知っているんだろう?
僕と同じ立場なら、そんなことは知らないはずなのに。
「何か言いたそうな顔をしてるじゃないか。」
前足を舐めるのを止め、三毛猫は僕を見た。
「なんでそんなことをご存じなんですか?」
思わず敬語になる。
三毛猫は、にっと笑うと、
「さあてね。」
と、答えて、また前足を舐め始めた。




