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今日のお題  作者: 炎華
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今日のお題【虹の橋のたもと その1】

 さわさわ音がする。風の音かな。

青い草の匂いもする。

そうだ、草の上を渡る風の音だ。

さわさわ さわさわ

その上を走ると、すごく気持ちがいいんだ。

耳の傍で、さわさわがびゅーびゅーってなる。

足の裏から伝わる地面の感覚。

体中の筋肉がそれに呼応するように動いて。

・・・なんだろう、とても気持ちがいい。


 -新しい子、ずいぶん大きいね。

 -ウマって言うんだよ。パパが好きでテレビでよく見てた。

 -そうなんだぁ。僕は初めて見たよ。

 -毛並みもぴかぴかだよ。大切にされてたんだね。

 -でもさ、競争する子だよね?誰かお迎えに来るのかな?

 -それもそうだよねぇ。

 -なんで?なんで、競争する子にはお迎えに来てくれる人はいないの?

 -それはさ。

 -あ、気が付いたみたいだよ。


 目を開けると、僕は様々な動物に囲まれていた。

犬や猫や鳥、うさぎ、て、てん?

「フェレットだよ!てんじゃなくて。」

「えっ、もしかして、口から出てた?」

「出てないけど、わかるんだよ。」

自分はフェレットだと言った子は、ぷいっと横を向いた。

 まあまあ、と、フェレットを宥めるように、茶色の耳の垂れた犬が僕らの間にわって入って来た。 

「君は、どうしてここに来たの?」

「どうして。」

僕は考えた。なんだか頭がはっきりしない。走ってた。緑の真っ直ぐな道。きらきら光ってた。

 足も体もとても軽かった。どこまでも先頭で走って行けると思った。君を乗せて。

びきっ!

僕は体を竦めた。

 音がして、僕の足は急に力が入らなくなった。すごい痛みが走った。今まで感じたことがない痛みだった。でも、すぐに感じなくなった。君を乗せていたから。僕がここで倒れてしまったら、君を落としてしまう。僕の背から落ちたら、ましてこのスピードで落ちたら、柔い人間の体は大怪我をしてしまう。もしかしたら、死んでしまうかもしれない。

そんなのは嫌だった。痛みを感じている暇は無かった。

だから、他の足でスピードを緩めたんだ。だけど、ちゃんと踏ん張れなくて、君は僕から転げ落ちた。それでも、君はすぐに立ち上がって、僕の傍に来た。僕の鼻面を撫でて、泣いて・・


 「足が、折れたんだ。」

「足が!?」

あの『びきっ』は、足が折れた音だったんだ。

 大きなレースに、続けて出てた。疲れてないと言えば、嘘になる。でも、久しぶりに君と一緒に走れるのが嬉しかった。だから、足も体もすごく軽く感じてた。

 だから、君は心配そうだったんだ。だけど、僕は大丈夫って走って・・

「悲しませちゃった。大好きな人。心配して、スピードをもう少し緩めろって、手綱で教えてくれてたのに、僕は大丈夫って、走ったんだ。そしたら。」

「そしたら?」

「足が折れちゃった。」

 周りの動物たちは、一様に顔を歪め悲しそうな顔をする。

 -俺のせいだ!って君は叫んだ。違うよ。僕が走りたかったんだ。君を乗せて、一番になりたかった。

 頬に温かい物が触れた。ずっと僕の一番近くで話を聞いていた耳の垂れた茶色の犬が、ゴールデン・レトリバーが、僕の頬を舐めてくれていた。それをかわきりに、周りにいた動物がわっと僕の傍に寄ってきて、体や頭を舐めてくれた。

「ここはね、もうそういう痛みも苦しみもないの。」

「走りたければ走れるし、寝たければ眠れるし、好きな様に過ごしていい所なんだ。」

 言われてみると、足の痛みを感じなかった。四本の足に力を入れると、すんなり立てた。

「うわぁ!大きい!」

「すごーい!」

口々に言われ、少し照れくさくなった。

 そう言えば、みんな、僕からすれば小さい。

「そりゃそうだよ。ここはペットが死んだ後に来るところだもの。」

「ここでご主人様を待ってるの。」

「ご主人様が寿命を終えたとき、ここに迎えに来てくれるんだ。」

「でも、君は競走馬でしょ?ペットじゃないよね。」

「でも、誰かが迎えにきてくれるから、ここに来たんだよね。」

 わからない。なんでここに来たのかなんて、わからない。

誰が迎えに来てくれるのかなんて、わからない。

迎えに来てくれるのかもわからない。

「大丈夫!きっと迎えに来てくれる!」

ひときわ大きな声で、三毛の猫が言った。

「それまで、ここで待っていればいいんだよ。ここはね、そういう所。」


 それから僕は、どれくらいここにいるのだろう。

長かったような気もするし、短かったような気もする。

 あるとき、さく、さくと草の上を歩く足音がした。白い髪の女の人が、こちらに向かってくるのが見えた。

すると、傍でまどろんでいたゴールデン・レトリバーがいきなり顔をあげた。その人影を認めると、急に立ち上がって走り出した。その人に向かって。脱兎の如く。白い髪の女の人も、ゴールデンの姿を見ると、走り出した。

 みるみる白い髪が黒くなり、おぼつかなかった足下も、力強く地面を蹴る。ゴールデンの傍まで来ると、大きく両手を広げた。

「ママ!」

 ゴールデンに飛びかかられて、その人は草の上に仰向けに倒れ込んだ。

ゴールデンは、しきりにその人の顔を舐める。大きく尻尾を振って、がっちり押さえ込んだまま。

 「あはは、やめてぇやめてよぉ。」

 その人は笑いながら、ゴールデンの顔を掴んで言う。そして、ようやく起き上がりゴールデンを見ると、大粒の涙を流した。

「ああ、やっと会えた。待っててくれたんだね。ずっと待っててくれたんだね。」

ゴールデンの首に抱きついて、背中を撫でながら、泣いていた。

 「お迎えがやっと来たんだね。」

「よかった。」

「ずいぶん待ってたもんね。」

その様子を見ながら、仲間達が言った。

 しばらくそうした後、ゴールデン・レトリバーは飼い主さんと寄り添いながら、虹の橋を渡っていった。


 「ああやって、みんなあの橋を渡っていくんだよ。」

三毛猫が僕の背中で言った。

あれから三毛猫は、僕の背中に乗るようになった。

「高くて、見晴らしがいいからね。」

にゃあ、と鳴いて背中で丸くなった。





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