今日のお題【うぐいす】
ゴミを出しに玄関のドアを開ける。
今日はプラスチックの回収日だ。ぱんぱんに膨らんだ白いビニール袋を黒いカゴに入れ、家をぐるっと囲った腰の高さの鉄柵の前、一番道路に近い場所に置く。
腰を折って、カゴを置くときに、2軒向こうの北側の山から、うぐいすの鳴き声が聞こえてきた。
「あ。」
思わず声が出る。今年初めてのウグイスの声だった。
「もう、そんな時期か。」
心の中で呟く。
腰を伸ばしながら、うぐいすの声がした方を眺めると、つい最近まで茶色一辺倒だった裏山に、いつの間にかまだ所々だが、緑が目立つようになっていた。
今年のうぐいすはかなり早く正規の鳴き方をマスターしたようだ。そして、上手い。
昨年は、なかなか鳴き声が聞こえず、今年は裏山にうぐいすはいないのかと、寂しくなってしまっていた。
だが、もう初夏というときになって、初めて、
「ホーホケキョ。」
と聞こえてきた。
しかし、あまり上手ではない。
「うーん。」
と、唸ってしまった。眉間に皺を寄せて考えたあげく、
「50点!」
つい、点数をつけてしまった。
「もう少し頑張りましょう、をあげよう。」
腰に両手を当て、裏山に向かって呟く。
「何様。」
かなりの上から目線の自分に、速攻で突っ込みを入れた。
今年のうぐいすは、そんな突っ込みを入れる隙の無いほど綺麗で完璧な
「ホーホケキョ。」
を披露してくれていた。移動することなく、同じ所から聞こえている。しばらくゴミの前でその声に聞き惚れていると、
「おはようございます。」
と、男性の声がした。
慌ててそちらに顔を向けると、お隣のご主人が出掛ける所だった。スーツで決めているところを見ると、仕事に行くのだろう。お隣のご主人は、年配のほっそりしたロマンスグレーだった。『ロマンスグレー』という言葉は、現在、使われているのだろうか。
「おはようございます!」
慌てて挨拶を返し、頭を深く下げる。お隣のロマンスグレーは、微笑んで右手を挙げて同じ速度で歩いて行った。
去って行く背中を少し見送って、一度深呼吸をした。桜の咲く時期にはまだまだ早かったが、大きく吸った空気に春の匂いを感じたような気がした。