序2
気が付くと、辺りは不思議な静寂に包まれている。大屋根を包んでいた轟音が、突然消えているのだった。
一時はこのまま世界が水没するのではないかと恐れた程の、長い長い吹き降りであった。
広い屋根の下に避難して息を潜めていた人たちも、ほっと一息つくのが感じられた。しかし、私はこれが始まりに過ぎない事を知っている。
突然襲う地鳴りに建物は揺れ、天地は怒号と悲鳴に包まれる。
事態は急転し、私はこの世界の終わりを覚悟した。
泥と岩から逃れようと、本能的に滑る床の上を走った。襲いかかる土砂がついに外壁へ達し、建物は轟音に包まれた。
悪夢のような光景に私は絶叫し、汗びっしょりで眼を見開く。
私はひとり自宅のベッドにいた。
暗闇で眼覚め、上体を起こす。何故か流れ続ける涙を、止められなかった。
私の脳内に、今の体験が悪夢のような事実であるという警告が鳴り響いていた。
だが残念なことに、それは一瞬で体を通り過ぎてしまう。
残ったのは、激しい警告だけ。その時には、もう悪夢の内容は一切覚えていない。ただ背筋を凍らせる恐怖と、絶望的な喪失感だけが、心に深い穴を穿っている。
ここ数年繰り返し見る悪夢は、その頻度を増している。
ただその原因は、多忙を極めた仕事のストレスと、蓄積した疲労による心身の衰弱なのだと漠然と思っていた。
時計を見てカーテンを開けると、空は早朝の薄い色に染まり始めている。
背伸びをして両腕をぐるりと回す。固まった関節がバキバキと苦痛のうめき声を発して抵抗する。それを無視して、シャワールームへ向かった。
身をすり減らしながら何とか続けた仕事も今日で一区切り。
予定通りなら、明日からは休暇だ。悪夢もこれで最後だ。今夜はきっと夢も見ずに眠れるだろう。きっと。




