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いつかどこかの旅の空で  作者: アカホシマルオ
第一章 転がる石のように
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序1

 


 つい先ほどまで視界を覆いつくしていた激しい雨は、嘘のように止んだ。


 武骨な鉄の窓枠越しに、ちぎれ雲が飛んでゆくのが見える。夜明けのような淡い光に満ちた大地には、泥水の流れが幾筋も残っている。何匹もの茶色い巨竜が、草の上を踊るように駆け抜けていた。


 窓の外には人の気配もなく、豪雨が全ての音を流し去ってしまったかのような静けさであった。


 私は窓の外を見上げる。その目に映るのは、不気味に揺れ動く雲に蓋をされた、暗緑色の山並み。きっと、あの天蓋の中では今も大雨が続いているのだろう。


 そしてその緑を横に切り裂く、灰色の線が一本。それは、峠の展望台へ至る道筋だ。


 スローモーションのように、広がる森が揺らめいた。白い線上の山肌に新たな茶色い線が生じたかと思うと、亀裂がみるみる広がる。


 雨を含んだ土砂は表層の木々を巻き込み、急峻な斜面を滑り落ちた。少しの時間差で、地響きと轟音が一足先にこちらへ到達する。


 地滑りは速度を上げてこちらへ向かう。茶色い土砂と巨大な岩石が嫌な音声を発して生き物のように身悶えながら近くの家をなぎ倒し、固まる私の目前に迫る。



 悪夢のような光景に私は絶叫し、汗びっしょりで眼を見開く。


 私はひとり自宅のベッドにいた。


 こんなに酷い悪夢は生まれて初めてだ。塞ぎこんで家に籠りがちの生活が、ついに精神を蝕み始めたのだろうか。


 だが、目覚めたばかりの私には、その悪夢が今起きたばかりの現実に感じられてならない。


 いや、今後いつか我が身に起きる筈の、予知夢なのだろうか?


 悪夢の内容は、もう覚えていない。だが、不思議と涙が流れて止まらない。



 蒸し暑い朝だった。


 私はベッドを降り、不安を洗い流すように念入りにシャワーを浴びた。


 風呂場から出る頃には気分も晴れ、悪夢の欠片もきれいさっぱりと排水口へ流し去り、それきり忘れてしまった。



 


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