少女の悲劇
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「未空、そのローブ、脱いでくれ」
真っ直ぐ見つめて俺はそう言った。
「……」
言われた未空は何も告げない。
その沈黙こそが、答えのようなものだった。
「頼む、今なら、まだ」
今ならまだ、間に合う。
そう言おうとしたけれど、果たしてそれは正しいのだろうか。クロに付け込まれるということは、最初からそれなりに黒い感情を持っていたということだ。
「……」
彼女の周りに、どんよりとした重い空気が渦巻いているように見えた。
「ローブを、脱いでくれ」
未空は二度目の言葉になお従わない。
…仕方ない。俺は心を鬼にして、彼女に近づいた。
「…触るぞ」
小さく呟くとその黒いローブに手をかけた。
未空は抵抗しなかった。
その光景を、他の四人が見守っている。誰も止めはしない。
セーラー服自体が黒いため分かりにくいが、うっすらと背中の方の色が滲んでいた。
恐らくは、血、だろう。
俺はそばにいた伊賀にローブを渡すと、彼女の後ろに回った。
「……っ」
ほんのりと匂う血の香りに、蓮が顔を顰めた。そういえば、本来のゲームでは彼の立場というべきポジションは匂いに敏感だったか。
「血が、付いているな」
人差し指で血濡れた場所に触れれば、指先に黒っぽい乾いた赤色が付着した。
確実な証拠であり、ゲームと同じだ。彼女が犯人で間違いない。
「どうして、殺した」
「…それを言って、何になるの」
ようやく返事が返された。こちらを信頼しない、冷たい声だった。
「わたしが殺した。それで? 君は殺人鬼を、理由次第で許すの?」
「それ、は、クロに取り憑かれたなら、仕方ないだろ」
ゲームのように嫉妬で相手を殺したならば、それはクロにつけ込まれる以前の、心の問題かもしれない。でもその場合、無意識かあえてかはともかく、煽るような嫌味を告げた相手も相手だろう。
決して、許されない行為かはまだ分からない。
「本当に、優しい人だね」
「…へ?」
愛想笑いよりも温度のない、渇いた笑みをこぼした未空は嘲笑うように、そして羨むように言った。
「わたしとは大違いだ」
そう言い切った彼女は、いきなり飛び出した。
窓側にいた鬼島や翡翠は反応したが距離があったため未空を捕らえられず、伊賀は突き飛ばされ近くの机に背中をぶつけた。彼女の後ろに立っていた俺は、追いかけようとするも遅い。彼女は前扉から走り去った。
「まだクロが取り憑いてるはずだ。捕まえるぞ」
鬼島が咄嗟のことで呆然とする俺の肩を強めに叩く。
そのおかげで止まりかけた思考が走り出した。
「ああ、そうだな。ゲームだと屋上から飛び降りるんだよな。それだけは、ダメだ」
死なせない。
心に闇を秘めた未空雪音を、救出すること。それが、今回のデスゲームの真の課題かもしれない。
一人目の犠牲者はメンツが揃う前に死んでいる。ならば、犯人がクロの犠牲になることは避けなければ。
「まずあたしが屋上に行こう」
自身ありげに翡翠がそう言った。
「大男に追われるよりも、あたしが行ってみよう」
確かに翡翠は俺より喧嘩が強いはずだ。殺人鬼を追いかけても、他の人より危険は少ない。いざとなっても戦えるはずだ。それに俺や鬼島に追われるのは怖いかもしれない。鬼島は大柄だ。俺でも怖いくらい。
殺されたのは男だ。
なら、女同士のほうが話しやすいかもしれない。殺害の動機が恋愛でないとは言い切れないしな。
「分かった。ひとまず、俺たちはいろんな階を探しながら上に向かおう」
「任せてくれ、絶対に、死なせない」
胸元を強く叩いて翡翠が答える。
「気をつけろ、まだ武器を持っているかもしれん」
「了解です、龍先輩」
そして翡翠は廊下を走って行った。
「伊賀、大丈夫か?」
のっそりと背中をさする伊賀に問う。
「あの野郎…ぜってえ許さねぇ、突き飛ばしやがって! おい、お前ら、今すぐアイツを探し出して謝らせるぞ!」
痛がっているのかと思えば、怒っているようだ。
「ああ、見つけてクロをとっ捕まえる」
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