俺たちは正気か
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遺体が一つ、地面に置かれたままの教室に、疑いの視線が飛び交う。
蓮の話から推測するに、クロに取り憑かれている間は記憶がない。
だが、クロとしての自我があれば、クロは巧みに身体を動かし話すかもしれない。その場合、誰に憑いていたのかは取り憑くのが終わってからにならなければ分からない。
俺か? だが、俺は俺の意識がしっかりとしていることが分かる。
鬼島は…どうだ?
想像以上に協力的だが、総長の彼は大勢を束ねることに慣れているだろうし、彼自身この空間から早く出たいだろう。
普段の印象より優しいというだけで疑うわけにはいかない。
翡翠は遺体に動揺していた。
今でこそ意識がしっかりしているが、あの時の瞳は確かに驚いていたし、恐れていた。一般的な女子高校生の反応と思っていいだろう。
次に伊賀だ。
クラスが違うから普段の印象といったものが確実にあるわけではないが、冷静で、誰よりもこの場を解決しようとしている人物だ。ドラマだとこういう奴が一番怪しいが、今は関係ないだろう。
未空は謎だ。
今も変わらずローブに身を包んで突っ立っている。興味深そうに遺体を眺めるその姿は異様だ。小柄で一見可愛らしい女子の行いではない。
「……ん?」
頭の中で考えていて、ふと思い出した。
先ほどの、実際のゲームの話だ。
──ソウマはずっと学ランを着て……
──頑なにそれを脱ごうとしねえのに気がついた奏多が……
──無理やり脱がすと、背中に……
「制服の白シャツに付いた血がある」
俺の呟きに、伊賀が首を傾げてこちらを見た。
「なんだぁ? なんか分かったのか、カイト」
正しいかは分からない。だが、色々と組み合わせると、こうとしか考えられない。
蓮は早起きだが、嘘でなければそれは家庭の事情だった。
いつものこと、というわけだ。特別今日何かあったわけではない。
そして、蓮は自分が篠崎を殺したかは分からない。分からないからこそ、彼は怯えたのだろう。分かっていれば嘘をつくなり、自白するなりできる。
蓮は、そう、本当にただ、記憶がないだけで。
さらに、蓮は気が付いたら八時前で『着替えて』学校へ行った、と言っていた。その時点で彼には自我がある。仮にクロに乗っ取られていたせいで記憶がないとしても、目覚めた時に自分に血がついていればおかしいと分かるのだ。
「蓮、朝起きた時と、八時前、意識が復活した時とで服は変わっていたか?」
クロが蓮を手放す前に着替えていないことを祈らなければ。でないと、目醒めた蓮に血がついていなくてもおかしくない、となってしまう。
蓮は俺が何を言いたいのか分からない、といった風に肩をすくめたが、とりあえず答えてくれた。
「あぁ、変わってなかった」
これで友の疑いを晴らすことができるかもしれない。
「……よし」
そう思うと、ガッツポーズを取りたくなった。
「おい、何が言いたい」
低い声で鬼島がそう唸る。
「仮に蓮がクロに身体と意識を乗っ取られていたとする。その場合、殺人を犯したのは蓮となる」
「ああ」
「クロさんね」
真面目に話を聞いてくれる鬼島と違い、伊賀はくだらん訂正を入れてくる。
「で、蓮は今、朝と、意識が戻った時とで服は変わってなかったと言った。だが、この凄惨な現場で血がつかないのは無理だ。実際、ゲームの方では血がついていたのが証拠となったわけで」
「ゲームだと、血まみれのイラストがあったな」
思い出すように鬼島が頷く。
「でも目醒めた時点で服が変わってないなら、血まみれの自分を見た蓮は、やばいことがあったと分かるんだよ。意識があるから。その後着替えて学校へ来たとしても、その時に遺体を見て自分がやったのでは、ってなる」
「なるほど、でも、その場合誰がやったんだ」
「あと、誰に憑いているのか、だね」
鬼島と翡翠が続けて質問をする。
「それなんだが、多分、このゲームで大事なのは、殺された人と殺した人に面識があって、仲がいいってのが大事だと思う」
そうでないと動機がないし、クロにつけ込まれにくい。
そのせいで蓮は疑われたのだが。
「そして、犯人が着ていた上着だ」
犯人は上着で血の跡を隠している。
この事件の黒幕が、最も大切な『証拠』の部分のストーリーを変えるとは思えない。蓮が犯人なら、着替えなどさせずに上着を着るというストーリーになるだろう。
「未空、そのローブ、脱いでくれ」
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