鬼島の回想
ぜひ最後まで読んでください!
──ゲームを始めたところから話すぞ。
ゲーム名は《AnotherWorld。その名の通り、もう一つの世界へ行くのだ。
そのゲームは、主人公の奏多が家出をしようと玄関を開いた瞬間、人がいない、けれど見慣れた道路に出たところから始まった。
そこに一つの声がする。
この世界では、その声は神の声とされていて、それが聞こえる者はそれだけで勇者になるとされるのだ。
声一つで、強者になる運命が創られるわけだ。
学校へ行け。
その声に従い、他にやることもない奏多は学校へ向かう。道中、同じ学校に通う幼なじみの男子生徒ソウマに出会い一緒に向かうが、教室へ辿り着くとクラスメイトのハルが死んでいる。
教室には武闘派の男子生徒ケンと女子生徒ユズ、それから占い好きな女子生徒ナミとイかれた問題児の男子生徒トウヤがいる。
そして、声が聞こえるんだ。主人公だけにな。
犯人を暴けって声がして、奏多は周りを警戒し始める。
その頃ようやく声が自分にしか聞こえないものだって気がつくんだが…まあ、それは置いておこう。
──まずゲームと違うのは、俺たちは全員が声を聞こえることだな。
それで始まるんだが、オチとしてはクロってやつは生徒の一人に取り憑いた殺人鬼の念みてぇなもんだ。
それが生徒の一人に取り憑いて、本来は死んだ男子生徒であるハルを憎んではいても殺すつもりはなかったソウマが刺すんだ。確実に殺さねぇと怖いからって滅多刺しにしてな。
だが、大事なのはそこじゃねえ。
ソウマはずっと学ランを着て、頑なにそれを脱ごうとしねえのに気がついた奏多が無理やり脱がすと、背中に制服の白シャツに付いた血がある。
ソウマが滅多刺しにしたのは、殺したと思って立ち去ろうと背を向けたら、その背中をハルが必死に掴んだからだ。
それで確実に仕留めようって思ったわけだ。
そこからは、鬼ごっこだな。
必死に逃げるソウマと、それを追いかける他の奴ら。
ここはゲーム世界だってのがあるから、それぞれに個性がある。
武闘派の男女二人は、現実よりも跳躍力とか蹴り、パンチの威力が強い。体力もある。あと、リーダー性だな。
問題児は冷静さだ。何事も冷たく、誰にも慈悲なく決断を下せる。いわゆるサイコパスだ。
占い女は軽く予言を当てられる。未来予知みてぇなもんだ。多分、ストーリーが進めばどんどん性能が上がっていくんだろう。
奏多は記憶力だ。一見地味だが、とんとん拍子で進むストーリーじゃあ、後から記憶を引き出せるのは大事だな。
で、皮肉にもソウマは匂いに敏感だ。犬みてぇにな。そのせいで自分に血の匂いが染み付いて取れねぇって狂い出して、最後は逃げた先で足を滑らせて学校の屋上から飛び落ちちまう。それも、ダチである奏多の前で。
──声は、犯人を捕まえろじゃなく、殺してもいいと言う。俺たちの時と同じだ。解決する必要はない。当てずっぽうで全部殺してもいいわけだ。
それでこのゲームは第一章クリアだ。
──ここから先の話は、ストーリーの中でプレイヤー次第で拾える追加ストーリーだな。
まずは、なんでソウマはハルを憎んでいたかだが、これは二人が幼稚園の頃からの幼なじみであることがでけぇ。ハルのせいで常に人から二番手だと思われていたソウマには強いコンプレックスがあった。
初恋の奴はハルに惚れ、親でさえハルを称え、ダチはみんなソウマをハルの隣の奴だと紹介する。
で、偶然最初に学校に着いた二人は教室で話すんだ。
そこでハルが言った発言が引き金となる。
彼女がいるのかとか、高校入ってからあんま話してねぇなとか、そんな他愛もない話しなんだが。
『彼女は今四人目』
『お前まだ彼女ゼロなのかよ』
『お前パッとしねえもんなぁ、もっと笑えばいいのによ』
『俺陸上部で優勝したぜ、いいだろ』
ハルとしては、ただの会話だった。
だが、何も持たない自分に、奪った張本人がそう言うのにムカついたソウマは咄嗟に近くにあったナイフで刺すんだ。
偶然ナイフがあるのは、まあ、ゲームだからな。
だが、本当は……。
□■□■□
「クソゲーかよ、救いがないな」
伊賀が耐えきれずそう溢した。
「まあ、第二章とかは結構救いがあったぜ」
すかさず鬼島がフォローする。
……不良って結構ゲーマーなの? もしかしてオタク?
怖いのでそうとは聞かないが。
「鬼ごっこの時にバトルが入るから、バトルゲームって呼ばれてる。クロのストーリーもあるが、いるか?」
「いやいいよ、総長サマ。犯人が分かれば怨霊の正体なんておれ様興味ないね」
鬼島が一通りの説明を終えると同時に、なぜか未空が死体に近寄った。
「お前、何してんだ?」
思わず聞いてしまう。
というのも、未空が遺体となった篠崎の頰を突き始めたからだ。
「…この、遺体も、ナイフ」
……は?
鬼島が近寄って、篠崎の腹部を確認する。
「ほんとだな」
いや、アンタら解剖学でも習ってんの?
普通の高校生はナイフで刺された後なんて知らんのよ。
「カイトってば、さっきから真顔で何考えてんの?」
伊賀が正面から顔を覗き込んできて、思わず後ろに飛び退く。
コイツの黒い目は、なんか苦手だ。
「別に……」
真顔でツッコミやってましたなんて言えねぇ。
「そぅかぁ?」
そして想像以上に伊賀がしつこい!
なんとか話を逸らしたくて、さっきの鬼島の話の感想を言った。
「そういや、あのゲームのキャラ、俺たちに似てないか?」
俺としては何でもない一言だったのだが、途端、全員の視線が俺に集まる。
「俺が、ケンか?」
鬼島が複雑そうな顔で呟いた。
そういや第二章はケンがメインだったか。
未プレイだから分からないが、プレイ済みとしては思うところがあるのかもしれない。
「じゃあ、あたしがユズか」
翡翠がよく通る声で自分を指差して言う。
「ナミが、わたし……」
どうでも良さそうに未空が続く。
「もしかして、問題児のトウヤっておれ様かぁ?」
今気がついたとでも言うように伊賀が叫ぶ。
声はもう少し小さくして欲しいものだ。
「となると、パッケージの絵柄的に、冴えない主人公は俺か?」
あのゲームの実況を見たのも、マキシの実況というだけでなくなんか主人公に既視感があったというのが理由だ。
「じゃあ、蓮が」
鬼島にうるさいと気絶させられてから椅子に座っていた蓮に目がいく。
鬼島の話の途中で起きたようだが、もう暴れたり叫んだりはせず窓の向こうを眺めながら俺たちの話を聞いていたようだ。
全員の目線を受けて、蓮がこちらを向く。
「蓮が、ソウマ、なのか?」
全てがゲーム通りかは知らない。
だが、ソウマとハルのように幼稚園からの仲ではなくとも中学からの仲である蓮と篠崎にはきっと、俺の知らないこともあるはずだ。
「……」
動揺か、思考停止か。
十秒にも感じられる時を、蓮は何も言わなかった。
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