現実そっくりデスゲーム
ぜひ最後まで読んでください!
未空雪音が語り出す。
「八時くらいだったかな…わたし、遅く起きたの」
まあ、学校来ないからね、普段。遅めに起きてても疑問はない。
「ベランダに出たら声がして、学校に来てみた」
そこで質問が飛ぶ。口を挟んだのは伊賀千矢だった。
「なあ、いつも学校に来ないのに今日だけ来たのか?」
言われてみれば確かに気になる。
未空は、一年の頃から不登校だ。
だが、登校日数はギリギリで保っているし、成績も悪くないようだ。
そんな彼女がなぜテストでもない日にわざわざ来たのか。
「だって…変だったから…誰もいないし」
不安になって人を求めたのだろうか?
まあ、彼女だってさっきはヤバい発言をしたものの、高校二年生の女子だ。
家に誰もいなければ不安になるのが普通で、学校になら人がいるはずだと思うのも当たり前で…。
うんうん、と心の中で一人納得していると、それを一気に台無しにするような笑い声がした。
「おもしろそうだったからぁ……!」
彼女は恍惚とした表情で笑っていた。
あまりの喜びに思わず、といった笑みだ。
ニタリ、と口角が上がっていく様は不気味だ。怖い話とかによくある口が裂けた女を見ている気分。
顔は悪くないのに、そんな笑みを死体の前で披露されると背筋が凍る。
「それで着いたら、彼らがいたの…人が死んでた……!」
もうこれ以上話させると空気がヤバくなると思ったのか、伊賀が話し始める。
「次が俺さまだなっ!」
こちらもテンションが高い。
もしや、ただ早く話したくてうずうずしていたのでは?
案外、伊賀と未空は似ているのかもしれない。
……この状況で笑えるもの同士。
「七時に起きたんだが、家族は朝が遅いからな、まだ寝てるもんだと思ったんだが。いつも通り一人で飯食って家を出たら声がした。なんかよくわかんねーけど夢かと思って学校に行ってみたら、もうすでに死んでたってわけだ」
七時。不良っぽい割に朝が早いんだなと感心する。
一番の遅起きは俺か。
「最後は俺か。……黒崎海斗だ。寝過ごしちまって、学校に遅刻すると思ったらリビングに誰もいなかったんだ。で、とりあえず簡単な私服に着替えて外に出たら声がした。俺も最初は夢かと思ったが、さすがに、この状況じゃ、な」
「カイトは朝に弱いんだなぁ」
隣で伊賀がからかってくる。
朝が弱くて悪かったな。
「それで、自己紹介は終わったが、次は何する予定なんだ、伊賀?」
最初にこれを始めたのは伊賀だ。
だから、彼に聞く。
「……ひとまず、時間の矛盾も怪しいところもないな。次は、クロさん探しだが……」
伊賀は案外真面目に話を聞いていたようだ。
「こんなの速く終わらせて、現実にかえりてぇ。出来る範囲で協力をするぞ。喧嘩は任せろ」
鬼島龍が伊賀を見てそう言った。
その言葉に裏はなさそうだし、【鬼夜叉】総長の彼が言うのだから心強い。
「そもそも、殺人鬼はどこにいるのか、か」
「今の話の感じだと、おれ様たちの中に犯人がいるってのは少なそうだ」
うーむ、と唸りながら伊賀が考え込む。
「お前、オレたちを疑ってんのかよ!」
蓮が叫び出した。
「篠崎は誰かに殺されるような奴じゃねぇんだぞ! 殺したのはあのゲームマスターに決まってる! 今すぐぶっ殺してやる!」
いつになく蓮は怒っている。
先ほどの自己紹介で少し落ち着いたかと思ったが、今の伊賀の発言でまた戻ったようだ。
「お前こそさっきから仕切って怪しい奴じゃねえか! 大体クロって奴は本当にいるのかよ! どうせゲームマスターって奴の嘘じゃねぇのかうげっ」
「…ちっとうるせえ」
鬼島が蓮の首に軽く手刀を入れて気絶させる。
ぐったりと倒れた蓮を鬼島が近くの椅子に座らせた。
「だが、そもそも殺人鬼が人間なのかは怪しいな」
「総長サマは何か意見があるのか?」
「ここがゲーム世界だってんなら、犯人が人間である意味はないだろ。この世界のモンスターでもいいはずだ。それに、この世界はまるで…っ」
何やら考えを話し出した鬼島だが、急に言葉を詰まらせた。言うべきか言わないべきか迷っているみたいだ。
だが、それまで比較的黙っていた翡翠要が鬼島の肩を叩くと、仕方ないとでも言うように鬼島は続きを話し出した。
「まるで、最近発売されたゲームみてぇだって思ったんだよ」
ゲーム。
「……ぁ」
そうか、そうだ。
マキシさんのゲーム実況にあった、現実そっくりの世界に迷い込んだ主人公が仲間を増やし、最終的に強くなって現実へ戻る話。
チュートリアルとも言える第一章は、確か。
「第一章は、真っ黒のヒト」
鬼島がそう呟いた。
「なんだ、それ?」
伊賀は首を傾げている。
ゲームには詳しくないのだろうか。
「つい最近出たスマホゲームだよ。現実そっくりの世界に迷い込んだ主人公の話なんだが、それの始まりが今鬼島が言ったように、殺人から始まるんだ」
「へぇ、なら、それのオチを知っていれば」
「残念だけど、俺は拾い忘れたストーリーがあるんだ。だから、クリア度が100パーじゃない」
ゲームにはそのステージをクリアした後も楽しめるようにとストーリーが散らばっている。マキシみたいに上手な人だと一発目からその全てのストーリーを回収していくものなのだが、俺には無理だった。
「メンバーの一人に殺人鬼が成りすましてるって所しか知らないんだよ」
「それでも十分だけど…けど、誰に成りすましてるのか分からなきゃ意味がねぇな」
「ああ」
ゲーム好きだというのに、不甲斐ない。
──だが、確かあのゲームで人が死んだのは、そいつが…。
「俺が知っている」
何かを思い出そうとしたところで、鬼島が手を挙げた。
そういえばコイツ、ゲーム好きなのか?
「ゲームは三章までやった。ストーリーは全部拾ってる」
「マジか! じゃあ、話を教えてくれ!」
すげぇ!
あのゲーム、【アナスタシア】っていう激ムズゲームしか作らないことで有名なゲーム会社が作ってるんだぞ!
「…はぁ」
鬼島がため息をついた。
ヤンキーとして、ゲーム好きなのは隠したかったのだろうか。
性格の良さと不良らしさがアンバランスに共生しているようだ。
そして鬼島は微妙な顔で俺が知らないストーリーのネタバレを…。
いいや、この状況を解決する術を話し出した。
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