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悲痛な叫びに魅入られて

ぜひ最後まで読んでください!


 翡翠要(ひすいかなめ)は、どんどん廊下を進んでいった。


「デスゲームは明日からって言ってたし」


 幸いここは自分が通っている学校だ。道に迷うことはないし、万が一龍先輩がいっていたような輩に出会ったとしても自分が喧嘩で負ける事はないだろう。相手がN(ノン)P(プレイヤー)C(キャラクター)とやらならば手加減も必要ないのだから。


 そんな考えが、翡翠の心を強くした。

 足取りはやや慎重なものの、止まったりはしない。


「総長が簡単にビビるもんか…!」


 そうやって小声で己を鼓舞しながら、聞こえるというよりは脳に響くような声の主を探して歩き続け一階へ向かった。


「だれかぁ〜いますかぁ〜?」


 もしかしたら心優しいNPCかもしれないし、あるいはまだ合流できていない人がいるのかもしれない。

 もしもそうだったらすぐに部屋へ連れて行って、先輩たちを起こして───その時、今度はそれまでと違う言葉が聞こえた。


 なぜ、どうして、といった内容の声がそれまで聞こえていたが、ここに来てそれは泣き声になった。


「女の人?」


 甲高い声だ。そのことから、性別は女だと分かる。

 ただ泣き声であるため、もしかしたら中性的な声を持った男性かもしれない。


「進むしか、ないな」


 泣き声は途切れる事なく聞こえる。


 ──うう、うぅ、いたい、なんで? うう、うぁあ……。


 悲痛な声だ。相手が誰か分からないしまだ姿も見えないけれど、どこか助けたくなるような声。手を差し伸べたくなる声。


「こっちか?」


 職員室や保健室の横を通るが、人の気配は感じない。

 そのまま渡り廊下へと辿り着いた。


「どうせ旧校舎へ行くなら、二階の渡り廊下から直で行けばよかったな」


 その時、翡翠は廊下にかけられた時計を見た。

 針は十二時を回っていて、一時に近い。

 そのことに何か大切なことを忘れているような感覚を覚えながらもそれが何なのかは分からず、そのまま進むことにした。


 渡り廊下を抜けて、旧校舎に入る。

 そこは時計の針の音も聞こえないほどの静けさに包まれていた。まるで世界に自分一人しか存在していないような気分になりながらも、怖気付く事なく進む。


 やがて、ソレの前へと来てしまった。

 間違いない。声はソレから聞こえてきている。


 翡翠は恐る恐る指先をソレに触れさせた。氷のように冷たい。


「夜だから、冷えているんだな」


 体温を奪われるような気がしてソレから手を離そうとする。が、何故だろう。意志に反して、体が上手く動かない。いいや、これは手がくっついたのかもしれない。


「うそ」


 小さく声を出した時、また声がした。

 泣き声ではない。翡翠に語りかけるような声だ。


 ──ねぇ、聞いて?


 下手に怒らせるといけない。それに、どうしてか耳を傾けたくなる声音だ。


「どうかしたの?」


 翡翠は優しく聞き返した。聞き返してしまった。


 ──好きな人が、わたしを見ないの。


 なんだ、可愛らしい恋愛相談ではないか。

 それならば、相手が誰であっても聞いてやってもいいのではないか。

 そう思った翡翠は、話を続けるよう促した。


「話を、聞かせて?」


 そうして、一人の少女と謎の女の会話が始まる。


 ──好きな人がいるの。わたし好かれたくて頑張ったの。


 ──でも、見た目の問題はどうにも出来ない。


 ──わたしはその人より背が高くて、歳もひとつ上。


 ──もう、どうしようもないの。


 目の前のソレから手が離れないことなんて忘れて、翡翠は言葉を返した。


「分かるよ」


 と、一言。


 ──分かるの? どうして?


「だって、あたしもそうだから」


 翡翠は瞼を閉じて、ソレの冷たさを今度は気持ちよく感じながらある人の背中を思い浮かべた。


「大きな背中がかっこよくて、強くて、一緒にいると安心感のある人なの」


 恋なのか憧れなのかは、翡翠自身も本当の意味では分かっていないのだろう。


 ──その人が、好きなの?


「うーん、どうだろう」


 翡翠はカラッとした笑い声をあげた。無理やり笑顔になったのだ。


「分からないけれど、付き合うならその人がいいなぁ………でも、相手の人はさ、あたしを好きにはならないんだ。多分、妹みたいに思われてるんだと思う」


 ──そっか……胸が、苦しく、ならない?


「なるよ。でも、告白して振られて、今の関係が壊れる方が苦しいから、いいの」


 ──強いね。わたしは、苦しくて、無理にでも一緒になりたいって思ったのに。


「困らせたく、ないんだ。でも、一緒になりたいって気持ち、分かるよ」


 その一言が、引き金だった。

 途端、相手の女の声が変わる。声の温度が、温度から(だだよ)う空気が、空気が運ぶオーラが、変貌した。


 なんだろう。

 翡翠がそう疑問に思ったときにはもう全てが遅かった。指先が触れたままの(ソレ)は、翡翠の身体を吸い込もうとし始めた。


「え」


 デスゲームは明日からだと、ゲームマスターが言っていたはずだ。


 その時、さっき廊下で見た時計の時刻を思い出した。


「十二時、過ぎてる」


 ああそうか、あの時覚えた疑問は。


「日付、変わってるじゃん」


 デスゲームは、始まっていたのか。


 鏡の前に、翡翠が履いていた上履きだけがポツンと残された。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけたら嬉しいです!!

いいね等お待ちしています。


他作品もぜひ。

六波羅朱雀をどうぞよろしくお願いします。

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